【夕暮れに、なお光あり】 三つの11日 川﨑正明 2022年3月11日
この新聞(No.3600)が発行されるのは3月11日であるが、この日は2011年に東日本大震災が起きた日である。私の記憶の中には毎年巡ってくる「三つの11日」がある。時系列的にその日のことを述べてみたい。
まず一つめは、2001年5月11日。熊本地裁で「ハンセン病国家賠償請求訴訟」原告勝訴の判決が下された日である。すでに1996年に「らい予防法」は廃止になっていたが、今回の裁判では国の「ハンセン病患者に対する隔離政策」が「違憲」と明確に認められ、元患者への賠償が決定した。国が90年にわたる隔離政策の過ちを認めて謝罪した画期的な判決だった。
二つめは、2001年9月11日に起きた「アメリカ同時多発テロ事件」。イスラム過激派テロ組織によるアメリカ合衆国に対する4回のテロ事件で、ニューヨークの二つの世界貿易センタービルに、乗っ取られた2機の航空機が突っ込み炎上した悲惨な事件。リアルタイムで観たテレビの映像が忘れられない。その後、アメリカのアフガニスタンでの軍事作戦によりイスラム教過激派組織のタリバン政権が崩壊した。しかし、昨年のアメリカ軍撤退とタリバンによる政権奪取の影響で、アフガニスタンでは今も分断が続いている。
三つめは、冒頭に述べた2011年3月11日に発生した「東日本大震災」。マグにチュード9.0、震度7の地震で、それに大規模の津波、さらに福島第一原子力発電所事故による放射能汚染が重なり未曽有の大災害となった。被災後11年目の今も、故郷に帰れない人たちがおり、まだまだ現実は復興途上にある。1日も早い被災者の回復を祈るばかりである。
私は常々思っている五つの「平和の条件」がある。①病気のない世界 ②貧困のない世界 ③差別のない世界 ④災害のない世界 ⑤戦争のない世界である。しかし、これは非常に高い理想であって、現実には人間の歴史において、これらの条件が満たされたことがないし、今後も完全な実現はないだろう。しかし、人類は神から与えられた優れた英知と勇気を持っており、私たちにはマイナスをプラスに変えていける希望がある。そこに人間の本当の強さがあると思う。
「わたしたちは知っているのです。苦難は忍耐を、忍耐は練達を、練達は希望を生むということを。希望はわたしたちを欺くことがありません」(ローマの信徒への手紙5章3~5節=新共同訳)
かわさき・まさあき 1937年兵庫県生まれ。関西学院大学神学部卒業、同大学院修士課程修了。日本基督教団芦屋山手教会、姫路五軒邸教会牧師、西脇みぎわ教会牧師代務者、関西学院中学部宗教主事、聖和大学非常勤講師、学校法人武庫川幼稚園園長、芦屋市人権教育推進協議会役員を歴任。現在、公益社団法人「好善社」理事、「塔和子の会」代表、国立ハンセン病療養所内の単立秋津教会協力牧師。編著書に『旧約聖書を読もう』『いい人生、いい出会い』『ステッキな人生』(日本キリスト教団出版局)、『かかわらなければ路傍の人~塔和子の詩の世界』『人生の並木道~ハンセン病療養所の手紙』、塔和子詩選集『希望よあなたに』(編集工房ノア)など。
Michal LechによるPixabayからの画像