【宗教リテラシー向上委員会】 忍び寄る「新使徒運動」の恐怖!?(3) 川島堅二 2022年4月1日
スピリチュアルマッピング(霊的地図作り)が、新使徒運動の宣教活動に特有の性格を与えていることを前回指摘したが、この背景にあるのは「霊的戦いの戦略理論」(the theories of strategic-level spiritual warfare)といわれる考えである。これによれば教会が取り組む「霊的戦い」には三つの異なるレベルがあるとされる。
第1は個人のレベルでなされる救出活動、悪魔払い(exorcism)であり、第2はその延長としての悪魔崇拝、魔術、シャーマニズム等々、一般に「オカルト」と呼ばれる現象を介して作用する悪魔の力との対決に関わるレベル。そして第3のレベルが、スピリチュアルマッピングと関係する部分で、特定の場所(土地)に集中している悪魔の力との対決であるとされる。
新使徒運動の有力なリーダー、ピーター・ワグナーによれば、こうした考え方の聖書的根拠は福音書が伝える「種を蒔く人」のたとえ話である。主イエスは「道端に落ちた御言葉の種は実を結ぶことがない」と語られたが、それは、その地に蒔かれると「すぐにサタンが来て、彼らに蒔かれた御言葉を奪い去る」(マルコによる福音書4章15節)からだ。そのように「悪魔が福音宣教の働きを妨害するという霊的原則が個人を超えて」「国、都市、同じ文化を共有するグループ、部族、そしてお互いに社会的つながりを持つ人々の集団などにも」当てはまるという(ピーター・ワグナー編著『地域を支配する霊』より)。
このような聖書解釈の妥当性自体が批判的に問われるべきだが、ここではそれはひとまずおいて日本という国(土地)が、どのような見方になるのかを見ていきたい。日本における新使徒運動の推進者で「預言カフェ」で活動する「預言者」養成のテキストも多数執筆しているロナルド・サーカが2001年に書いた冊子『山羊の国から羊の国へ――神道の裏に潜む悪霊と対決するための祈りのガイド』が、この点を明らかにしている。
サーカによれば日本の霊的状態に悪影響を与えている歴史的出来事が三つある。一つは「キリスト教を禁止した徳川幕府の罪」であり、この時代に出されたいわゆる「禁教令」が「霊的世界ではいまだに厳然と施行されて」おり、「日本人がクリスチャンになるのを妨げる大勅令のようなものが霊的世界に存在している」こと。二つ目は明治以降第二次世界大戦敗戦まで国を挙げて行われた天皇崇拝であり、大多数のクリスチャンもこれに屈してしまったこと。「クリスチャンが天皇崇拝を行ったとき、彼らは自分自身を(新使徒運動の主張では最大の悪魔とされる)天の女神の力と影響の下に」おいてしまい、その影響力が強められた。そして三つ目が、第二次世界大戦後も現在に至るまで政治的指導者によって繰り返し行われている靖国神社参拝である。「この神社の裏に立つのは、悪霊である天の女王です。この悪霊の国家問題に対する力と影響が、政府役人の参拝の度に強められていきます」とサーカは書いている。
以上のようなスピリチュアルマッピングをどのように評価するのか。かつてペンテコステ派の指導者チャールズ・パーハムによって「霊的エリート人種」とされた日本人が、70年後には「偶像(天皇)崇拝」により「最大の悪魔」に屈した「霊的最悪人種」として福音宣教の妨げになっていると主張されたとしても、そのようなことは問題ではないだろう。重要なのはこのような思想が反社会的な有形力(暴力)行使につながるのか、そのことの検証である。(つづく)
川島堅二(東北学院大学教授)
かわしま・けんじ 1958年東京生まれ。東京神学大学、東京大学大学院、ドイツ・キール大学で神学、宗教学を学ぶ。博士(文学)、日本基督教団正教師。10年間の牧会生活を経て、恵泉女学園大学教授・学長・法人理事、農村伝道神学校教師などを歴任。