『LGBTとキリスト教 20人のストーリー』 執筆者 内田和利さんに聞く 教会で傷つきながら神への信頼つづる 2022年6月21日

 LGBT(セクシュアルマイノリティ)をテーマにした『LGBTとキリスト教—―20人のストーリー』(日本キリスト教団出版局)が3月に刊行された。月刊誌『信徒の友』で2019年に連載されたものに8本の書き下ろしを加え書籍化されたもので、日本で初めて、同性愛者であることをカミングアウトしたうえで牧師となった平良愛香さん(日本基督教団川和教会、農村伝道神学校校長)が監修を務めている。

 LGBT当事者を中心とした20人が、社会や教会における性的少数者の生きづらさを語ると同時に、教会に傷つきながらも、「ありのままの自分」を愛してくださる神への信頼と希望がつづられている。それぞれの記事には、差別や偏見を解消するための取り組みなどがコラム形式で紹介され、LGBTへの理解を一層深めてくれる書籍となっている。今回、同書の執筆者の一人である内田和利さんと、編集者の市川真紀さんに話を聞いた。

 内田さんは大学時代に洗礼を受け、10年以上教会に通い続けたが、同性愛者であることを知った牧師に「治ったら戻ってきてもいい」と言われ、教会を離れることになる。その後カミングアウトした上で、LGBTに関する法的問題や格闘家の契約関係を扱う弁護士として活動中。同書では、「法とLGBT――個が尊重される社会を実現するために」というテーマで語り、「自分を隠さずにいるために神様が教会から切り離してくださった。……仕事をとおして神様が働いてくださっている」と明かしている。

多様な当事者が生の声で語る
「それでも生かされてきたことに大きな意味」

──はじめに、他の人の話を読まれてどのように思ったか教えてください。

内田 一人ひとりにそれぞれの体験があるなとあらためて感じました。その一方で、自分自身の内側にあるものが、他者をとおしてあらわれているところもあって、体験は違うけれども共通している部分もありました。LGBTの人が抱える大きな不安の一つに、好きな人がいても、結婚・出産という一般的な形を望めず、これからどう生きていこうかと将来像が描けないということがあります。そういう人たちにとって、この本の中でいろいろなセクシュアリティの人が登場し、語ってくれることは救いになると思います。

──個人的に印象に残ったところはありますか?

内田 区議会議員の石坂わたるさんがLGBT施策の中で心がけていることとして、「差別的な考えを持っている人や発言をする人を糾弾したり攻撃したりするのではなく、その人の気持ちを受け止めた上で、相手に伝わりやすい言葉で返していく」と語っているのですが、私も心がけていることなので印象に残りました。

──この本を読むと、LGBTの人たちは多様性にあふれていることが分かります。

市川 同性愛やLGBTについての神学的な本はいくつか出ているのですが、さまざまなセクシュアリティの当事者が生の声で語っている本はおそらく初めてだと思います。LGBTは、レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーの頭文字を並べたものですが、同書では、その四つのみを表しているのではなく、セクシュアルマイノリティの総称として使っています。

──そのように多様なLGBTですが、その多様さには目が向けられていないように感じます。LGBTへの関心が広がる中で、何か違和感を覚えることはありませんか?

内田 初対面の人からよく「ゲイっぽくないですね」と言われるのですが、世の中にはゲイ男性というステレオタイプ化されたイメージがあるように思いますが、実際は決してそんなことはありません。LGBTという共通点があるだけで、感じ方も違うし、価値観も違います。それは当然のことなのに、LGBTとなると人それぞれであることを忘れてしまう瞬間があるように感じます。

──この本を読むだけでLGBTに対する知識がかなり増えると思います。それも実体験ばかりですから、知識だけでなく考え方もかなり変わるのではないでしょうか。自分の教会にはLGBTの人はいないと思っている牧師や司祭に、ぜひ読んでほしいですね。

市川 カトリック東京大司教区大司教の菊地功さんと、インマヌエル高津教会牧師の藤本満さんがコラムを書いてくださっています。その中で菊地さんは、「その人の性的指向にかかわらず、その尊厳ゆえに尊重し、……心を配るべき」という教皇フランシスコの言葉を紹介し、藤本さんは、「LGBT否定は福音の神学的人間観と逆行する」とはっきり述べられています。福音派系の人にも読んでいただきたいです。

──同書に登場する人たちは、教会に傷つけられ、教会から離れてしまっている人もいます。外から教会を見た時、どんなことを思われますか?

内田 「自分が見えている世界だけではない」ということを、どれだけ忘れないかが大事だと思います。聖書に「自分がしてほしいことを相手にしなさい」という箇所がありますが、気をつけなければならないのは、自分がしてほしいことと、相手がしてほしいことが一緒ということ。すべてが一致することはほとんどないわけですから、相手が本当に何を望んでいるのかを考えることが一番大切なのではないかと思います。

 人間は弱いので、神様基準で見ていると言いながら、自分基準になってしまうところもあるのではないでしょうか。自分というフィルターを通してしまう。常に意識していかないといけないと思います。

市川 内田さんもそうですし、他の人も、教会から離れても神様から離れているわけではないというところがすごいなと思います。内田さんに関して言えば、教会から離れたから神様から離れずにすんだと。その後も聖書や聖書に関する本をたくさん読まれていて、熱心なクリスチャンだと思います。

内田 教会に通っていた時、教会というのは神様の体であって、教会に通ってないと神様とつながっていないと言われていたので、教会に通わなくなってからは「自分はクリスチャンではないのかもしれない」という気持ちがありました。ですので、今回この本の話をいただいた時も、教会に何年も通っていない自分が、この本の中に登場していいのだろうかと不安でした。でも、事前に監修者の平良さんや編集者の市川さんと話していく中で、自分は神様とつながっていると感じ気持ちが楽になりました。

───神様はその人に最もふさわしいかたちでつながってくださると感じます。

内田 教会を離れた時に気づいたことは、神様はすべて見て分かっている、牧師に隠せても神様には隠せないということ。教会に通っていた時は、教会にいる時の姿しか神様は見ていないという思い込みが結構あったように思います。教会の人には知られないようにしていても、神様は、普段の生活も全部見ておられる。それでも生かされてきたことは大きな意味があると思っています。

──今後目指していることなどがあれば教えてください。

内田 子どもたちにとって生きやすい社会にしていけたらいいなと思います。子どもたちが生きやすい社会は、誰にとっても生きやすい社会です。そんな社会を子どもたちに引き渡すことができればいいですよね。そのためには、どんな制度もみんなで一緒に作っていこうという姿勢が大事です。多様な一人ひとりが、かけがえのない存在として大切にされていると実感できる制度をみんなで作っていけたらと思っています。

――ありがとうございました。(聞き手 坂本直子)

【関連企画情報】

 『LGBTとキリスト教 20人のストーリー』重版出来記念トークライブ「マイノリティをめぐる当事者性とはなにか?」(キリスト新聞社主催)7月8日(金)後6時半~8時、教文館3階ギャラリーステラ(東京都中央区銀座4-5-1)、オンライン観覧も可。特設サイトより申し込み。参加費1,000円。問い合わせは教文館(Tel 03-3561-8448)まで。

https://lgbtchristian.peatix.com/

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