【東アジアのリアル】 抑圧下の声 映画を通して 倉田明子 2022年7月21日
7月1日、香港は返還から25周年を迎えた。コロナ禍突入以来、外遊を一切してこなかった習近平国家主席も、記念式典に参加するために香港を訪問した(宿泊は深圳だったが)。この日は、2019年の抵抗運動の弾圧に「貢献」した元警察トップの李家超が行政長官に就任した日でもある。香港はまた新しい段階に入った。
7月1日と言えば、香港ではデモの日だった。民主的な選挙制度が整っていなかった香港において、デモは市民の大切な政治参加の場だった。炎天下をものともせず、時々の政治的課題や不満を訴えるために人々は当たり前のように街に出た。だが、いまや選挙制度はさらに非民主的な方向に後退し、デモ活動もコロナ対策を理由に封じ込められている。
これに先立つ6月4日も、香港では天安門事件追悼集会が開かれる大切な日だった。だが今年の6月4日は、すでに主催団体のリーダーが逮捕され、団体も解散し、会場だった公園は警察によって封鎖された。昨年までは香港教区のカトリック正義と平和委員会が主催してきたカトリック教会での追悼ミサも、ついに今年は開かれなかった。5月24日の段階で、教区が追悼ミサの不開催を発表したのである。直前の陳日君枢機卿の逮捕が影響を与えたという見方もあるが、いずれにしてもカトリック教会だけが公の場での追悼行事を堅持できるような状況ではなかったのだろう。
6月4日と7月1日、かつて香港で最も政治的だった日は、その様相をすっかり変えてしまった。だが、香港のあらゆる自由が消えてしまったかと言えば、おそらくそうではない。統制の強さ、深さは分野によってかなり違う。芸術、文化、宗教などの方面は特に、中国大陸と同レベルの統制をするには相当の時間と労力を要するはずである。たとえ映画や音楽を出口で押さえ込み、香港で公にさせないことはできても、創作活動そのものを止めさせることは困難である。ミサや集会をやめさせることはできても、祈る人々の心を封殺することはできない。
この夏、2019年の抵抗運動から生まれた2本の映画が日本で公開される。『時代革命』と『Blue Island 憂鬱之島』。いずれも優れたドキュメンタリー映画だが、香港では公開が認められなかった作品だ。『時代革命』のキウィ・チョウ監督、『Blue Island 憂鬱之島』のチャン・ジーウン監督は今も香港に暮らし、創作活動を続けていこうとしている。チョウ監督はキリスト教徒であることを公言し、インタビューでもたびたび自らの信仰について語ってきた。作品の中にも抵抗活動を後方から支えたクリスチャンたちが登場する。
この2本の映画は、監督たちからすれば香港でこそ公開したい映画、香港人にこそ見せたい映画だったはずだ。この2人の監督を含む香港の映画人三十数名は7月11日、「香港自由映画宣言」を発表し、香港で映画を撮り続ける決意を表明した。日本がこうした映画の公開の場になることは、状況が厳しくとも香港でなお生き延びようとする映画人の支えになる。機会があったらぜひ映画館に足を運んでほしい。
『時代革命』8月13日(土)よりユーロスペースほか全国順次公開/『Blue Island 憂鬱之島』ユーロスペースほか全国順次公開。
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