ジェンダー平等、性的マイノリティの権利擁護に壁 背景に統一協会含む「宗教右派」の存在指摘 LGBT差別否定を求める署名5万筆 2022年8月1日
神道政治連盟(神政連)国会議員懇談会の席上、「同性愛は後天的な精神障害、または依存症」などとする内容(弘前学院大学教授の楊尚眞=ヤン・サンジン=氏による講演録)を掲載した冊子が配られた問題で、「LGBT差別冊子の対応を求める有志」が、自民党に対し「内容を明確に否定し、差別をなくす姿勢を示すこと」「誤った認識に基づく差別的な考えを広めないため、冊子を回収すること」を求める署名を呼び掛けたところ、約3週間で5万1503筆が寄せられた。
岸田文雄首相と神政連国会議員懇談会事務局長宛に署名が提出された7月25日、一連の問題を明らかにした松岡宗嗣(そうし)さんらが会見を開いた。会見には、4日に同党本部前での抗議集会を呼び掛けたワインさん、「選択的夫婦別姓・全国陳情アクション」の発起人で、このほど「私のお賽銭のゆくえプロジェクト」を立ち上げた井田奈穂さん、文化人類学者でモンタナ州立大学教授の山口智美さんも同席し、ジェンダー平等や性的マイノリティの権利擁護に反対してきた統一協会を含む「宗教右派」が、政治との関わりでどのような役割を果たしてきたかについて解説した。
松岡さんは、「問題はこの冊子が政権与党である自民党議員の大多数が参加する会合で広められたこと」だとし、「統一協会だけでなく、神道政治連盟、日本会議など、宗教右派と保守派議員との強いつながりが、法整備を妨げる高い壁になってきたことが知られてほしい」と訴え、執拗な反対運動が展開されている地方自治体の事例などを紹介した。
選択的夫婦別姓の実現を求め、多くの国会議員への陳情を続けてきた井田さんは、「支持層の顔色をうかがう議員が多いから、お寺や神社の団体に行くといい」と助言されたことや、法改正に反対する国会議員が水面下で地方議会に圧力をかけていた実態などを明かしつつ、明治神宮をはじめ初詣ランキング上位32社の神社に同性婚や別姓婚に対する姿勢を調査し、その結果を可視化するというプロジェクトを立ち上げた経緯について説明。全国からすでに、「同性婚を否定する教義は神道にはない。多様性を内包するのが神社」「一部の関係者が差別的なだけで、多くの神職は迷惑している」などの反応が寄せられていることを報告した。
山口さんは、1999年の男女共同参画社会基本法制定後、フェミニズムへの反動から「ジェンダーフリー」バッシングが始まる2000年代初頭までさかのぼり、性別二元論に基づく批判や、草の根の反対運動を主導した日本会議系の宗教団体や統一協会、神社本庁など「宗教右派」と、山谷えり子氏をはじめとする保守派議員との関わりを明らかにした。男女共同参画や性教育を「過激」「行き過ぎ」などと攻撃する言説は、地方議会にも波及。同性パートナーシップ条例やLGBT理解増進法案をめぐる論戦で、山谷氏の差別的な発言を擁護する論陣を張った一人が楊尚眞氏だった。
山口さんが住むモンタナ州など、アメリカの共和党支持者の多い保守的な地域では、中絶をめぐり州の法律が変えられるなど、トランプ政権下の影響が今も色濃く残る。
統一協会系メディアの『世界日報』や楊尚眞氏がアメリカなどで反LGBTのキリスト教右派が利用してきた恣意的な事例や、海外の書籍などを紹介しつつ論を展開している点を特徴として挙げた山口さんは、「今回、統一協会に注目が集まってはいるが、単に選挙運動の応援をしたというレベルだけでなく、特定の家族観に基づいて同性婚や夫婦別姓の実現を阻み、地方自治体の当該部署に関係者を送り込むなど、具体的な政策課題にどう働きかけてきたかに注目してほしい」と訴えた。
「ナッシュビル」宣言をもとに
「性の聖書的理解ネットワーク」
「この世の価値観を優先させることにより、ジェンダーとセクシュアリティに関する聖書の教えに対する混乱や妥協、神の真理からの逸脱が見られる」との危機感を募らせたクリスチャン有志が7月14日、「性の聖書的理解ネットワーク(NBUS=Network for Biblical Understanding of Sexuality)」を設立した。
「設立のお知らせ」によると、「LGBTQの人々の権利を保障しよう、同性婚を認めようといった動きが世界的に見られ」ることを危惧。第一歩として、「真理と恵みに基づいて」ジェンダーとセクシュアリティに関する聖書の教えをまとめた「ナッシュビル宣言」を採択し、その日本語訳をウェブサイトで公表するという。
「ナッシュビル宣言」は2017年、米福音派の指導者たちが連名で発表したもの。同ネットワークは、「日本の皆様にもぜひこの宣言に賛同の署名をしていただきたい」「署名をすることによって、神が愛であるゆえに、個人、家族、地域社会、そして全人類を祝福するため、これらの真理を定められたということへの賛同の意思表示になる」としている。今後は、ジェンダーとセクシュアリティに関する書籍の発行や講演活動も行っていく予定。
呼びかけ人にはファミリー・フォーラム・ジャパンのテモテ・コール氏、大村信蔵氏のほか、中川健一(ハーベスト・タイム・ミニストリーズ)、ウィリアム・ウッド(真理のみことば伝道協会)、ジャン・ドウゲン(真理のみことば伝道協会)、藤田桂子(ジャパン・クリエイティブ・ミニストリー)、佐野剛史(クリスチャンコモンズ)の各氏らが名を連ねる。