【社説】 統一協会の日本観 1992年7月25日
*当時の世相を知るために30年前の「社説」を再掲。
統一協会集団結婚の報道
有名女性タレントが統一協会の集団結婚への参加を発表して、このどころ、どの週刊誌もこの話題でもちきりである。しかし、どの報道も、統一協会の反社会的性格や食口(シック)と呼ばれている会員たちの実情、また、これらによってもたらされた被害者たちの深刻な苦悩を十分に報道しているとはいえない。
日本のキリスト教界は、カトリック、プロテスタントともに、世界基督教統一神霊協会を名乗る統一協会を、「キリスト教とはいえない」としており、今回の集団結婚に対しても、原理運動を憂慮する会、日本基督教団統一原理問題連絡会などが、批判的声明や、反对の呼びかけを発表している。
原理運動は統一協会の活動の総称である。大学や高校で原理研究会を作り、政治的には勝共連合を組織してきたことはよく知られているが、中年の女性たちにも最近は浸透し、「壮婦」と呼ばれる食口たちによって、霊感商法に似た手口で、不当な商行為が行われているのである。
日本をサタン国家とする国家観
統一協会の集団結婚を、統一協会では祝福と呼んでいるが、これは一九六〇年にソウルで第一回が行われ、一九八九年までに十二回行われている。第一回は三組の合同結婚で、日本人は含まれていなかったが、五回目から日本人が加わるようになり、一九八八年には六千五百十六組が参加、このうち日本人は一万人の男女を数えるまでになった。
統一協会は、文鮮明を教祖とし文鮮明の書いた「原理講論」を重視するが、この中に日本をサタン側の国とする国家観のあることが指摘されている。旧約聖書のエデンの園の物語から、エバをサタンの血統を受け継いだ者であるとし、日本を工バ国家、韓国をアダム国家として、日本は、韓国に对し、完全自己犠牲と完全自己否定に徹して、人材と経済の供給をしなければならないという理論の組み立てである。
八八年の集団結婚に参加し、後に統一協会を脱会し離婚したという女性の手記にも、集団結婚に参加した日本人男性は、屋外で寝るよう指示され、韓国人男性との間に取り扱いの差別があったことが明らかにされている。
宣伝に利用されるな
統一協会とかかわりのある政治団体として国際勝共連合はよく知られているが、この外にも政治、宗教、文化、企業、芸術など、関係諸団体は多岐にわたり、これらはVCグループと呼ばれている。
このグループのメンバーの中には、統一協会関係の組織と知らずこれに加わっていたり、あるいはそれと知りながらも、統一協会の実体を知らずに参加している人もいる。
今回、集団結婚への参加を名乗り出た有名タレントたちは、統一協会の会員であるが、そのことによって、結果的に統一協会を宣伝することになり、被害者を拡大する手助けをしているわけである。
VCグループに加わっている人々は、その名声が統一協会の働きに利用されていることを自覚すペきだろう。少なくともキリスト者であれば、霊感商法で人を絶望の淵に陥れ、神の名を汚すような働きとかかわりのある組織の中に、身を置くべきではなく、教会も、当人とかかわりがある場合は、当人の信仰の問題として関係を明らかにさせるくらいの潔癖性が、この際必要ではなかろうか。
統一協会は韓国や米国でも活動しているが、日本ほど大きな社会問題は起きていない。その理由の一つは、日本をエバ国家――サタンの国とする独特の国家観があるためである。常識的に見ればサタンの業としか思えない霊感商法を、今回集団結婚に参加するタレントが「悪いこととは思わない」と公言するのも、統一協会の考え方からすれば当然のことなのである。