
たいへん長らくお待たせいたしました。昨年末に応募を締め切りました第3回「聖書ラノベ新人賞」につきまして、選考結果を発表させていただきます。
【全体講評】
「聖書エッセイコンテスト」との同時開催ということで、これまで「ラノベ」はハードルが高いと思いながらも「エッセイなら……」と初めてチャレンジしてくださった方々も多かったのではないでしょうか。結果的に前回、前々回に比べてライトノベルの応募数は減りましたが、変わらず異なる趣向の多彩な作品が寄せられました。なかには小説(読み物)としての完成度は高いものの、「聖書ラノベ」かという基準に照らして残念ながら選外にせざるを得なかった作品もありました。
いずれの作品も粗削りで、まだまだ課題や「のびしろ」が残されていることを前提に、これから磨き甲斐のある原石として光を放つ3作を選ばせていただきました。以下、選評委員の先生方のコメントも参考に、さらにブラッシュアップしていただければ幸いです。
賞を盛り上げていただいた多くの関係者の皆様、応募者の皆様に改めて感謝申し上げます。ぜひ、また趣向を凝らした企画を開催できればと願っております!
【選評委員コメント】
◆至道流星(作家、会社経営者)
もう3回目の開催となり、おなじみの小説賞となりましたキリスト新聞社主催「聖書ラノベ新人賞」へのご応募、まずはありがとうございます。そして、おつかれさまでした。
しかも今回は、国内聖書シェアナンバーワンの一般財団法人日本聖書協会の「聖書エッセイコンテスト」との同時開催ということで、こうした新人発掘の場を起点にして、新しいキリスト教文学の創生の場になってくれるのではないかと思っています。世界で最も売れている聖書の次世代を担う新たな書き手が、ここから生まれてくれれば嬉しいです。
今回の受賞作は3作品とも完結作ではなく、物語の序盤で作品投稿が終わっています。作品が文字通りの神作になるか、凡百のひとつとして埋もれるかは、この先のストーリー展開とラストの見せ方によってくると思います。ですので3作品の良し悪しに触れるのは早い段階ではあるのですが、強いて序盤としての読ませる力が強いなと思ったのは、やはり漫画方面から参加されている「川崎ホーリーブラザーフッド」かなと感じました。漫画的なテンポの良い導入と、そのなかでの主人公の立て方は、これからのエンタメ作品作りには欠かせない要素なので、そこはちゃんと押さえてあるなと思います。小説より、キリスト教に全振りした漫画として描いてみると商業作品としてワンチャンが期待できそうです。
3作品のなかで1作、今回惜しくも準大賞となった「いのちのパン屋さん」について内容に触れさせていただきます。のっけから自身を「神様に仕える天使」とする設定はわかりやすくていいですね。いま主流の異世界転生のような、いきなり異世界からスタートといった潔さがあり、時代の主流に合っています。昨今のエンタメコンテンツは大上段から言い切ってしまい、読者に余計なことを考えさなくていいのかもしれません。もっと言えば天使ではなく、なんだか全知全能にも見えるので神そのものでもいいのかもしれないとも思います。
一方で銃価の設定は説得力に欠けるとも感じました。ここが面白いところで、神や天使や悪魔やモンスターなら、別に言い切ってしまえばいいんですよね。エンタメとして抵抗なく受け入れられるので。しかし大企業社長や政治家などを持ち出し、現実社会とのリンクを強くした途端に、設定の物足りなさが見えてきます。もし銃価を現実の某教団をモチーフにしたものだとするなら、その某教団のことを適正に書いたほうがいいですし、そうでない架空の教団なら社会との整合性を整えたほうがもっと作品に臨場感が生まれると思います。あるいは普通の市井の人々の悩みや苦しみに天使が向き合うオムニバスストーリーとして全体をまとめていくと、キリスト新聞や雑誌などでの連載がしやすい良い設定になるような気がします。
いずれにせよ今回の3作品については、これから何かが始まるといった分岐点で投稿が終わっているので、この後の力量をぜひ示してもらえましたらと思います。小説賞での受賞は重要なステップの一つであり、キリスト新聞社様が最高の舞台を整えてくれたとも言えます。この受賞をキッカケにして、お三方とも作品の続きをお書きくださるのを楽しみにしています。
◆架神恭介(作家・ライター・ゲームデザイナー)
「いのちのパン屋さん」
天使の営業するパン屋と、そこを訪れた客による連作短編という企画性は悪くない。だが、内容的にはほぼキリスト教版の「幸福の科学」映画になってしまっている。他宗教との対立構成がそのような感覚を与えるのだろう。作者の問題意識は節々から垣間見えるが、もう少し抽象度を上げて上品な作りにするか、いっそ逆にオカルト大戦と割り切った作りにしてしまったほうがマスはメッセージを受け入れやすくなるのではないか。
「ガリラヤの風―個々の奇妙な証言―」
やりたいことは分かるが、エンタメ性がいまいち低い。おそらくは、何をする話なのかが明確に強調できていないからだろう。序章がイエスの足跡の序盤をなぞっていることは分かるが、ここの構成を再検討して、主人公の行動動機をこの段階でもっとシンプルに強調したほうが良い。高津のキャラはかなり強い。ナタナエルも悪くない。しかし、それらに比べると主人公のキャラはつかみづらい。自分の中でのイエスの解像度をさらに上げた上で、それをデフォルメして表現したほうが良いだろう。
「川崎ホーリーブラザーフッド」
元が漫画作品なだけあって主人公キャラの作り方や期待感の持たせ方など基本ができている。序盤の状況説明のハッタリも良く、実に漫画的な作りである。キリスト教との関係性の持たせ方も個人的にはこの辺りの塩梅が望ましい。ただ、この分量ではこれ以上は内容についてコメントできない。各キャラクターを今後どれだけ魅力的に描けるか、それと版元を考えるならキリスト教要素をどれだけ自然に作中になじませられるか次第だろう。