【地方からの挑戦~コレカラの信徒への手紙】 何もかも手作り 橋谷英徳 2023年4月11日
2019年5月3日、礼拝堂隣接の旧園舎「ぶどうの木ハウス」のリノベーション工事が始まった。できるだけ自分たちの手で、というコンセプトのもと、専門業者に工事の依頼はしないことにした。工事は約4カ月後の8月22日にほぼ完了した。
広い空間が作られ、外壁や壁が塗り替えられた。廊下は、ウッドデッキとなった。古材、珪藻土、柿渋などできるだけ環境に優しい建材が用いられた。他にはない特別な空間が誕生したが、当初の計画とはずいぶん異なっていた。実はもっと粗末なものになるはずだった。
工事が始まって間もないころ、1人の初老の男性が訪ねて来られた。彼は壁を塗っている私たちを見て、「そんなやり方じゃあダメだ」と言う。初対面でいきなり思い切りダメ出しされた。しかし、このことがきっかけになって対話が生まれた。彼は元職人で数年前に伴侶に先立たれて、それからは引退し悠々自適の生活を送っているという。思いきって「明日から来て助けてくださいませんか」とボランティアを頼んだ。彼はその日からほぼ毎日、工事を助けてくれるようになった。
彼は凄腕の職人だった。刃物の研ぎ方、工具の使い方など、この人から私たちが教わったことは数しれない。皆、教わりながら共に働いた。教会の通常の営みを行いながらの工事は、苦労も多かったが、楽しくもあった。心の不調を覚えて仕事を休んでいる方なども、手伝ってくれた。誰もいない時に来て、片付けなどをしてくれた。
工事のことを伝え聞いた安曇野のステンドグラス作家の山崎種之氏が、ヘブライ語の「シャローム」(平安あれ)という文字の刻まれた美しいステンドグラスを寄贈してくださった。部屋の中央の壁に木枠を作ってはめ込んだ。冷蔵庫、エスプレッソマシン、テーブルやカウンターの一枚板……備品の多くは地域の人たちからの寄贈品だった。こうして当初の予想をはるかに超える特別な空間が生まれることになってしまった。あまりにできすぎた話のようだが、これは事実なのだ。
工事終了後、まもなくオープンしたのがCafe-Vineとぶどうカフェ(認知症カフェ)である。通常のカフェは毎週木曜日の13時から18時、認知症カフェは毎月第3木曜日の10時から12時まで開いている。
親しい先輩の吉田隆氏(改革派神学校校長)によると、神学生時代から「いつかカフェを開いて伝道したい」と幻を語っていたようである。実は伝道者としてのモデルがあった。ジョルジュ・ネランというフランス人神父である。ネラン神父は、遠藤周作の『おバカさん』という小説のモデルになった人物である。「日本人はお酒を飲むとほんとの話をはじめる」と言って、彼は歌舞伎町に「エポペ」というスナックを開いた。彼について特筆すべきことは、そういう働きをしながらも神学した人であるということである。ネランは『キリスト論』という優れた神学書を残している。
神学者タイプ、伝道者タイプという言葉があるように神学と伝道が切り離されてきた現実がある。しかし、伝道は神学なしには病むし、神学は伝道なしには病む。伝道は、従来どおりのやり方をしていてはどうにもならないと感じていた。人が福音にあずかるようになるには、ひと手間もふた手間もかかる。学生時代にカフェでアルバイトの経験があった。これなら自分にもできるかもしれないと考えた。
橋谷英徳
はしたに・ひでのり 1965年岡山県生まれ。神戸学院大学、神戸改革派神学校卒業後、日本キリスト改革派太田教会、伊丹教会を経て、関キリスト教会牧師。改革派神学校講師(牧会学)。趣味は登山、薪割り。共著に説教黙想アレテイア『エレミヤ書』他(日本キリスト教団出版局)。