【この世界の片隅から】 在米韓国人女性教職者としての使命 姜 善芽 2023年5月1日
韓国メソジスト教会の牧師家庭に生まれ育った私だが、渡米してメソジスト系の大学と神学校で学び、2021年に合同メソジスト教会(教会員数670万人)の北イリノイ州で牧師となった。アメリカのメソジスト教会の牧師按手は1784年までにさかのぼるが、女性教職の按手はようやく1956年になってからだった。同年5月4日に行われたメソジスト教会総会で教会憲法の改正案が通過したことによって27人の女性が伝道師となり、1958年には2人の女性が牧師として按手を受けた。その後、女性のリーダーシップの向上と女性教職の推奨がなされ続けたこともあり、1979年には初の韓国人女性教職の按手礼が行われ、現在、約150人の韓国人女性が牧会に携わっている。
私が牧師按手を受けた北イリノイ地区には韓国人女性の教職が比較的多く、女性教職会など活発なサポート・グループに恵まれている。先輩牧師たちの召命の物語を聞く機会が何度かあったが、その都度、韓国の教会で女性として感じた限界や挫折が渡米に影響したことを聞かされた。驚くことに、それぞれ出身地や出身教団は異なっていても、それはお互いに共感できる話であった。
韓国メソジスト教会は1955年に初めて女性牧師按手を認めたものの、女性教職の働きの場は学校や病院など関係機関での牧会に限られてきた。女性で教会の主任牧師を任されているケースは極めて少ない。そのため、多くの女性神学生たちが、より広い場で召命に応じて働くことを夢見て渡米したのだった。今や、彼女たちの多くがアメリカの教会や関係機関で牧師として立派な働きを続けており、教団の重要な役職を任されて働く牧師も多い。
実は、韓国出身の女性牧師の多くは、アメリカ現地の白人教会で牧会をしている。というのも、韓国からの移民を中心に立ち上げられた在米韓国人教会は、韓国本土と同様に未だに女性教職に対する偏見をぬぐうことができていないのが現状だからだ。実際、私が神学生のころ、シカゴ近郊にある韓国人メソジスト教会で研修生として働いていた際、信徒たちの多くは韓国からの移民であり、女性神学生の役割を伝統的な女性像の枠にはめていた。私自身、「女性は厨房で食事の準備をするか、子どもの教育に専念するのが最もふさわしい」と言われたことが何度もある。先輩や同僚の女性教職に相談すると、彼女たちも似たような経験があることを聞かされた。
イリノイ州の場合、シカゴのような大都会を除いて、大半の韓国人女性牧師は日々新たな挑戦に対応しながら牧会している。例えば、性別による謝儀の格差、特にエスニック・マイノリティの女性教職の謝儀などの待遇は、早急に制度的改善が求められる。
私が牧会している教会は典型的な白人コミュニティで女性を担任牧師として迎えたのは120年の歴史で初めてであり、「女性の牧師からは聖餐を受けられない」という老婦人もいる。また、町の教会が集まりエキュメニカルな集まりをする中でも、女性教職は認めないという教団の牧師たちに、「小娘」呼ばわりされることもしばしばある。しかし他方では、「女性牧師に初めて会ったので嬉しい」という女の子に出会う時もある。「もっと聖書の中の女性の物語を聞かせてほしい」という信徒たちにも巡りあう。そのたび、神様は差別なくありのままの私たちを呼んでおられるという福音の真意を思い起こされる。
女性教職としての私の使命は、自分自身の声で語り続けることだと信じている。そうすることにより、今まで無視され、沈黙させられてきた物語を聞き上げ、「オルタナティブ・ナラティブ(代替の物語)」を語り続けることだと思う。もっと自分自身の声で自分の物語が素直に語られ、受け入れられる、真の意味の「神の国」が今、私たちの世界で実現することを祈ってやまない。
カン・ソナ 東京神学大学神学部卒業、韓国メソジスト神学校と米国の南メソジスト大学にて修士号、米国のガレット神学校にて旧約神学専攻で博士号取得。北イリノイ州の合同メソジスト教会で按手を受け、担任牧師として赴任し現在に至る。