全国霊感商法対策弁護士連絡会(全国弁連=川井康雄事務局長)は、これに先立つ9月30日、都内で集会を開き声明を発表。速やかに解散命令が出されることに加え、統一協会の財産が隠匿・散逸されないよう財産保全の特別措置法を今臨時国会中に速やかに成立させるよう求めた。
集会の冒頭あいさつで、全国弁連代表世話人の山口広弁護士は、「解散命令請求は私たちが30年間訴え続けてきたことがようやく実現することになる。組織的・計画的・継続的悪質性を認定していただきたい」と期待を寄せる一方、「(解散命令により統一協会は)組織が混乱し、分派がこれまで以上に増え、悲惨な金集めの被害が起こるだろう。さらなる被害を防ぐ対策が必要だと思う。40年余りの最大の被害者は信者の子どもたち、独り暮らしのお年寄り、長年ロボットになってきた信者たちです」と訴えた。
集会には、弁護士、カルトの被害救済に取り組むキリスト教会の牧師や信徒、脱会者(元信者)らが多数出席。それぞれの活動や最近の動向、二世など脱会者らの証言、日韓のジャーナリストらの報告、宗教学者・櫻井義秀北海道大学教授の講演などがあった。
霊感商法被害救済担当連絡会事務局長の渡辺博弁護士は、基調報告で「安倍元首相銃撃事件からほぼ1年目の今年6月下旬、統一教会は、日本の資金を韓国へ運ばせるためか、修練会と称して日本の幹部信者ら1100名を韓国清平(チョンピョン)に呼び寄せた。この信者たちを使って日本の松濤本部は1人あたり15万円を清平に入金したとも言われている」と最近の実態を指摘。韓鶴子(ハン・ハクチャ)総裁が6月27日、次のように語ったことを明かした。
「皆が知らなければいけないのは、日本が、特に第二次世界大戦の戦犯国家だ。犯罪を犯した国だ。ということは、賠償をしないといけない。被害を与えた国に。しかし、日本は韓国のおかげで経済大復興になったということを忘れてはならない。分かったか? 韓国のおかげで日本が生き返ったのだから、韓国に恩返しをしなければいけない。そして真の父母によって、日本は母の国として、過去の過ちを清算するという立場から、世界の大きな活動を助けた。これが日本国のために、忠臣の道を行ったのだ。ところで今日の日本の政治家は統一教会をどうしているのか? 家庭連合を迫害している。それは再び罪を犯すことなのに、さらに、独生女(トクセンニョ=独り娘の意。韓鶴子氏の自称)を認識できないという罪は、許されないことだと言ったのに、その道に進んでいる日本の政治は、どうなるのか? 滅ぶしかないだろう? 正々堂々と声高に政治家たちと岸田が来て教育を受けなさい。そうしなさい。分かったか?」
この発言について、渡辺弁護士は「山上被告が犯行に及んだ背景についてまったく反省がないことが明らかな言葉だった。統一教会の反社会的な体質を表すと思う」と批判した。
さらに、9月17日、統一教会は日本人二世信者6千名を韓国清平に研修会名目で呼び寄せ、韓鶴子総裁が「父と母の国としての使命がある。今日本は難題を抱えている。君たちが正々堂々と真実を明かしなさい。君たちは世を救い、日本を救う特攻隊だ」と語ったことを報告。これについて渡辺氏は「6月27日の韓鶴子の日本は戦犯国家発言に多くの二世信者が動揺したと言われており、それに危機感を持った今回の二世の6千名招集だったようだ。忌まわしい出来事である特攻を二世信者に命じているが、その標的は何だというのでしょうか」と憤りを隠せない。
統一教会の現状については次の3点を挙げた。
(1)5月9日、韓鶴子は、世界宣教本部長で事実上ナンバー2として統一教会を仕切っていたユン・ヨンホを更迭し、世界宣教本部自体を解散した。ユン・ヨンホは世界宣教本部の財政部長をしていた妻イ・シネと共に、日本の信者から送られてきた莫大な献金を懐に入れ、また統一教会の資産である不動産を自己名義にしてきた。ところがユン・ヨンホの脅しが効いたのか、韓鶴子はユン・ヨンホを鮮文大学副総長に任命した。6月27日の韓鶴子の岸田首相を呼んで教育しろとの発言を外部に流したのは、ユン・ヨンホに手なづけられた幹部で、そのことで韓鶴子は恐れをなしたとも伝えられている。
(2)統一教会がアメリカで3男派を訴えていた訴訟は、8月28日、全面敗訴で決着し、韓国での3男派とのパークワン訴訟でも全面敗訴した。このパークワン訴訟では、莫大な損害賠償金を払わされただけでなく、今後また新たな損害賠償請求の訴訟が提起されることになっている。日本の信者の献金がこの2つの訴訟で湯水のように使われている。
(3)さらに統一教会は解散命令の申し立てがなされないようにするためか、9月1日から先祖解怨、先祖祝福の献金は清平の窓口まで持参すること、また、献金を代理で届ける際に親族以外の代理を認めないと指示した。
声明では、統一協会に対して、過去の違法・不当行為について第三者を関与させるなどして適切に調査し、献金等の経済的被害を訴える者からの献金記録等の開示請求があった場合は、速やかに当該記録を開示するなど、自身が生み出した過去の被害・被害者に真摯に向き合い誠実に対応し、謝罪の上で損害の一切を賠償するよう改めて強く求めた。
全国弁連は、昨年7月の安倍晋三元首相銃撃事件以後も統一協会に対し、個々の信者に責任を押しつけることなく、過去の被害・被害者に対し謝罪・賠償するよう繰り返し求めてきた。だが、統一協会は真摯に向き合うことなく、全国弁連や所属の弁護士、ジャーナリストなどの批判者、統一協会との関係を適切に対応しようとする地方自治体などを被告として相次いで民事訴訟を提起するなど、対決姿勢を強めている。
解散命令請求の意義について、全国弁連は声明の趣旨を「文化庁が解散命令請求を行うということは、政府が統一協会について『法令に違反して、著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為をした』(宗教法人法第81条1項1号)、つまり反社会的行為を法人として組織的に継続して行ってきたものと判断したことを意味する」と説明。
また、統一協会がアピールする「教会改革」については、欺瞞であり世間への目くらましに過ぎないと断罪。被害が教団に反対する者によって捏造されたものであるかのように主張し、被害の声を上げる者を攻撃する姿勢さえ見せていることを厳しく批判した。統一協会は2009年3月25日に「コンプライアンス宣言」を出して教会改革を進め、それ以後は相談件数も裁判件数も急減したとしているが、実際にはコンプライアンス宣言以後も引き続き多くの相談・裁判が存在しているとして、被害の統計を公開した。
それによると、全国の約350人の弁護士で構成される「全国統一教会被害対策弁護団」(全国弁護団)所属の弁護士が交渉・訴訟事件として受任したコンプライアンス宣言以後の被害は、9月30日時点で判明しているだけでも140件、19億5千万円余り。また、日本弁護士連合会(日弁連)が受けた霊感商法等の被害に関する法律相談のうち229件が、日本司法支援センター(法テラス)の「霊感商法等対応ダイヤル」では144件がコンプライアンス宣言以後だった。いずれも多数・巨額の被害である。実際に、2009年以降も統一協会に対する献金裁判は続いている。
声明は、解散命令請求事件の迅速な審理と財産保全の特別措置法を求める理由について、審理が迅速に行われなければ財産隠匿・散逸に時間的猶予を与えることになり、被害救済ができなくなる可能性が高いことを指摘する。統一協会はこれまで毎年数百億円もの資金を韓国やアメリカに送金しており、組織的に全国の不動産売却を図ったこともある。解散命令が確定しても清算手続前に財産が隠匿・散逸してしまえば、被害者は泣き寝入りとなってしまうと訴えている。
声明は最後に、解散命令請求がなされた後も、統一協会被害の救済および抑止という結成以来の目的に向けて、関連各所と積極的に協力・連携し、さらに考え方・意見・政党を問わず政治家たちとも協力・連携するなどして、引き続き努力していく決意を表明した。
*異端・カルト110番では世界基督教統一神霊協会の略称を「統一協会」と表記していますが、本記事で全国弁連の発表資料に基づく文脈では資料の表記に倣って「統一教会」も使います。