【この世界の片隅から】 香港人キリスト者は、なぜ無条件にイスラエルを支持するのか 胡 清心 2023年12月1日
今年10月7日、パレスチナの武装組織ハマスがガザからイスラエルに対して近年最大規模の攻撃を開始し、翌8日にはイスラエルが空爆で反撃し、ハマスに対して宣戦布告した。戦争が始まって2カ月近くになる今、ガザ地域全体が深刻な人道危機に直面している。
人々の苦しみへの憂慮や平和への祈りに加え、イスラエルとパレスチのどちらを支持すべきかについて広く論争が巻き起こっているが、特に注目すべきは、香港のキリスト者の中でイスラエル側を支持する人の割合が、一般市民のそれよりもはるかに高いことだ。個人のソーシャルメディアや一部のキリスト教メディアの報道では、「イスラエルは神に選ばれた民」「パレスチナは神がイスラエルに与えた約束の地」「イスラエルとパレスチナの戦争は神の預言・み業」「イスラエルを支持すれば神の祝福を得られる」「パレスチナを支持することは世界の終末という神の計画を阻止すること」など、イスラエルの領土主権・交戦権・暴力行為が合理的かつ正当であると擁護するコメントが多く見られる。
一方、香港のキリスト教会界隈では、開戦からわずか1カ月の間に、イスラエル・パレスチナ紛争に焦点を当てた十数もの祈祷会やセミナーが立ち上げられた。これらの祈祷会やセミナーの中には、歴史的背景を説明することで聖書やイスラエル・パレスチナ紛争に対する信者の誤解を解こうとするものもあれば、単に平和のために祈るためだけのものもある。しかし、いくつかの活動の中には、「終末の日に神の預言をどう理解するか」や「イスラエル人とパレスチナ人にどう宣教するか」といった話題に向かいがちなものもある。
彼らは、ヨハネ黙示録の預言を根拠として、「イスラエルとパレスチナの長年にわたる衝突と戦火は必然であり、終末の時が近づいている」と考えたり、「キリスト者は終末の時を迎えるためにどう準備すべきか、また福音宣教により終末の到来をどう促進するかに関心を持つべきである」と主張したりしている。こうした人々は、戦争における正義の問題にはあまり関心がなく、戦争が神の計画の一部であると考えたり、イスラエルが神の選びの民であるという理由だけでイスラエルを支持したりさえする。
その最たるものが、10月28日にセント・アンドリュー教会(香港聖公会)を会場に宣教団体「栄耀事工」(God’s Glory Ministries)とキリスト教7団体が主催した「香港キリスト者イスラエル連帯イベント」だ。同集会には300人以上が参加し、イスラエルのためだけに祈るにとどまらず、「STAND WITH ISRAEL」と印刷されたステッカーを配布したり、在香港・マカオ・イスラエル総領事エア・ラティ氏がビデオ会議を通じて主催者と参加者に謝辞を述べたりした。
なぜこれほどまで多くの香港のキリスト者が、イスラエルを熱狂的に支持しているのだろうか。第一に、第二次世界大戦後に北米で流行した「ディスペンセーション主義」の影響が挙げられる。その主義主張では、「黙示文学は現代の国際政治事件を予言し、終末の具体的なプロセスを予告するロードマップである」「現代のイスラエルは古代において神と契約を結んだイスラエルの民である」とされている。こうした信仰が、華人教会において流行していた時期があり、ある世代の人々の聖書と終末に関する想像力を形成したと言える。
第二に、冷戦時代、アメリカの右派はイスラエルを支持することでソ連の支持する汎アラブ民族主義と戦い、それにより「イスラエルは善玉、パレスチナ人は悪玉」というステレオタイプが大衆文化を通じて広く流布したことも理由として挙げられる。
第三に、宗教消費主義の下で、ここ20年間香港で流行している「聖地巡礼」は、イスラエルが必要とする対外的な大宣伝に便宜を図り、イスラエルがパレスチナ諸地域の正当な所有者であるという考えを無意識のうちに広めたと言える。
キリスト者が国際政治に関心を持ち、社会的コミットメントを実践するのは良いことだが、正しい物差しと軸を持たないと、事実を無視し、基本的な共感すら欠くという極端な事態に陥ってしまう。果たして日本のキリスト者の間にも、このような荒唐無稽な熱狂的イスラエル支持があるのだろうか。
(原文=中国語、翻訳=松谷曄介)
フー・チンシン 上海生まれ、香港在住。香港中文大学、文化・宗教学研究科で博士号を取得。現在、香港のキリスト教新聞「時代論壇」(Christian Times)の編集者・記者。猫4匹を飼育。独学で日本語を勉強中。