【能登半島地震】 被災地レポート 酒造の営業再開も困難「建てなおす気力ない」と住民 岩村義雄 2024年1月9日

 1月5日、能登半島地震で最も被害の大きかった石川県輪島市と珠洲市に、支援物資を携えて訪ねた神戸国際支縁機構代表の岩村義雄氏による現地レポートを転載する。


 輪島市はかつて6万人の人口でしたが、2万8000人に減少しています。コロナ禍のため商いが厳しい氷河期を経て、ようやく新年に観光、新年の里帰りによる活況を見込んで、改築などをして期待して待ち望んでいた売り上げがないどころか、すべてを消失した悲哀感が漂っています。国道249号線はいたるところが寸断されています。地震によるクレバスにはまり、身動きがとれなくなった車両もありました。無力感がこみあげました。

 輪島市に入る門前町浦上は完全に通行止めです。山の崩落のためです。胸がつぶれる思いになりました。石川県では解決できない規模なので、国土交通省(国交省)が3日に介入すると地元の人は言っていましたが、5日になっても手つかずの状態でした。穴あな水みず町から1号線で入ることによって輪島市河井町に着きました。 大正元年(1912年)に創業した日吉酒造も損壊のため営業を再開することは困難と日吉啓子さん(73歳)は、「もう建てなおす気力がありません」と店の前で言われました。

 日本基督教団輪島教会の牧師、新藤豪(つよし)さん(63歳)に6日朝、お会いしました。会堂内には足の踏み場はなく、 床も剥離して危険でした。

 新藤牧師に、最も被災いの激しかった輪島市河井町朝市通りなど約2時間案内していただきました。見渡す限り、焼け野原です。あたかも空襲にあったようです。河井町の7階建ての五島屋ビルも倒壊しています。そのビルで心肺停止のため亡くなった女性もいました。

 河井町を歩いていると、道路のあちらこちらに直径1メートルほど×高さ1メートルほどの柱が立っています。近づくとマンホールが隆起しているではないですか。どうしてか地元の方たちも分かりません。

 半分倒れかかっている家がありました。1、2階がつぶれて、 重みで3階だけが残っています。3階で寝起きしておられた奥野邦子さん(62歳)の家は平屋のように無残に変わっていました。

 新鮮な魚、めじまぐろ、かんぱち、ひらまさなどが豊かな漁師町だった河井町の乾物屋、飲食店、輪島の漆器の高級な店、も全部と言っていいくらい閉店です。電気は使えても、ライフラインの中で重要な水道が使えません。トイレは市役所、病院、避難所のふれあい健康センターでも1月1日から使用できるところは輪島市のどこにもありません。コンビニ、郵便局、銀行も閉まっています。陸の無人島生活を余儀なくされています。市内に入る幹線道路は限られており、ほとんどの市民は金沢や富山県へ避難したかのように、夜はゴーストタウンと化していました。ガソリンスタンドは開店2時間前から待つ車列が延々と1キロほど続いています。

 消防団員、役所、メディア関係者が堰を切ったかのように6日から現場を視察しています。そして立ち入り禁止の標示を記し始めています。浄土真宗大谷派の善龍寺、曹洞宗の蓮江寺も庫裡には反応がありません。おそらく避難所に行っておられるのでしょう。

 私たちは残っておられる被災者に14日に再訪問する約束をしました。今、現地で一番必要なことは傾聴ボランティアです。地震の揺れのひどさ、犠牲者、家、仕事、友を喪失した寂寥感に感情移入するソフトボランティアが大切です。外観の復興より、こころの復興をどうするかが問われています。暖房衣類、水、ブルーシートなどを搬入しましたが、マンパワーがないため配布、装着、手伝いができないのです。トイレのため穴を掘る力もいります。過疎、高齢化、少子化の限界集落と同じです。

 物質を提供すればよいとか、ハコモノを復旧すれば解決できる次元ではありません。日本全体が同じ痛みを共有する感性が求められています。さもなければ、火事場泥棒のように救援を装って、無人となった家に入り込み、金品を盗んだり、掃除、片づけ、運搬を手伝ったものの代金を要求する不埒な輩もすでに3日に遠方から来ていた体験を聞きました。弱みにつけこんだ詐欺まがいがあったと耳にしました。すると被災者もよそ者に疑心暗鬼になります。つまり、ボランティアは徹頭徹尾無償性ですることを小学校低学年から学ぶようにすべきです。

 そのためには、「官」が有償ボランティア、交通費支給するようになった中越地震以降のボランティアの働きを見直さねばなりません。無代価の働きが本来であるからです。自衛隊など「官」にすべてを丸投げするのではなく、日本人すべてが無関心ではなく、痛み、苦しみ、怒りについて共苦する縁が求められます。

 祖先から自然を大切にしてきた価値観が明治維新以降、欧米に追いつくため、なにか大切な精神をデリートしてしまいました。そのためにインフラ優先が被災地の孤立化の原因となっています。地震、津波、台風に対して技術優先の制度ではアキレス腱が露出します。悪路、渋滞、パンクでいのち救済に赤信号でした。島国であるゆえに、海上輸送な陸路に代わる方策も練られたらどうかと思いました。大都会の能率、効率、便利さの追求型ではなく、「グローバルサウス」(南半球を中心とする新興・途上国)インド、インドネシア、トルコ、アフリカなど途上国の人々のようなおおらかさを取り戻したいものです。

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