【信教の自由を守る日】 天皇制のあり方に残る課題 改革派教会で島薗進氏が講演 2024年3月1日
〝国家神道は間違いなく残っている〟
民主主義にマイナスにならない皇室とは
「信教の自由を守る日」として各地で集会が行われた2月11日。日本キリスト改革派教会(袴田康裕委員長)は、「天皇制の宗教的側面――国家神道の過去と現在」と題する講演会を日本キリスト改革派神港教会(神戸市灘区)およびオンライン(YouTube配信)のハイブリッドで開催した。講師は宗教学者の島薗進氏(東京大学名誉教授)。対面で105人、オンラインから43人が参加した。
森羅万象のあらゆるものに神が宿るという日本の民族宗教である「神道」が、天皇と結びつき事実上の国家宗教となったのは明治維新以降。尊王攘夷運動の中、キリスト教によって一致団結する西欧諸国に対抗するために、徳川幕府に替わる新しい権力として、これまで大名や将軍に向けられていた忠誠心をもう一歩進め天皇に求めた。そのために、紀元節をはじめ天皇を祀る日を祝日としたり、神武天皇を初代天皇として、墓の場所を制定したりするなど天皇を神聖化してきた。
古代の日本の律令制に設けられていた朝廷の祭祀しを司る神祇官の働きを、明治初期には日本の国家機関とし、天皇が政治をし、祭祀を司り、さらに国民に教えを導く、という体制を作り上げ、天皇に権力を集めるようにした。これは儒教の教えに基づく中国の帝国的な王朝をまねながらできたもので、明治以降、元号が一世一代となったのもその影響を受けている。それまでは同じ天皇の間でも元号は代わっていた。それが法制化されたのは戦後になってから。
天皇をめぐる体制で重要なのは、祭政一致。そこにあるのは、「天皇が祭祀を大事するからこそ日本は王朝が一度も後退しなかった」「こういう国は他にはない」という誇り。その一方で、国家統一をして植民地的な西欧諸国に対抗するために、中国の王朝や、西欧の帝国主義をまねしながら作り上げてきた国家体制は結局、自分たちも植民地主義になり、多くの犠牲を払うことになってしまった。にもかかわらず、安倍晋三元首相をはじめとする現代の「右派勢力」は、戦前の体制こそ本来の日本だという考えを根強く持っている。
敗戦後、GHQが連合国の批判を押し切って天皇を「象徴」という形で維持したのは、もともとアメリカが「宗教は人間を自由にするものであり、宗教を圧迫する国家は間違っている」という考えをもっていたため。その点からすれば、戦時中の神道については、全体主義というイデオロギーが誤った道へと進ませてしまったということになる。GHQは、西欧諸国において国家からキリスト教を切り離すことで政教分離が進んだように、神道を国家から切り離し、そのイデオロギーから自由にすることを目指し、1945年12月に「神道指令」を発令。その直後には天皇の人間宣言も行われた。ただ、「神道指令」には、皇室祭祀をやめることはどこにも書いておらず、戦後も戦前の祭祀はそのまま残っている。
島園氏は、民主主義にマイナスにならないような皇室のあり方が日本の大きな課題だと述べ、次のように締めくくった。
「皇室を神聖な存在として尊び、対外的な対立の時にはそこによりどころがあって、さまざまな儀礼や組織で守っている。国家神道は間違いなく残っていると私は主張しているが、それを認めない人たちも多い。戦後、アメリカが敷いた路線は誤りだろうと。しかし、今の天皇の即位の儀の行事や、靖国神社のあり方など、皇室祭祀の公的な面は払拭できない。そういうものが続いている日本のあり方は正しいのか、その成否をかけるために今の憲法がある。第20条では、信教の自由について規定されている。皇室の行事に国の予算を使わないことは非常に大事なことだと思っている」