潜在的な「悩み」にAIが答える 「じーざすAI」開発者 糀屋総一朗さんインタビュー 2024年3月21日
「あんたらの悩み相談役、じーざすやで! いつでもLINEでばんばん相談してきや。返事は即座にバシッとや」
今年1月、威勢のいい大阪弁でイエス・キリストを名乗るLINEサービス「じーざすAI」(https://jesusai.jp/)が突如、出現した。「心の悩みをいつでも気軽に相談できる新しいAIサービス」を謳っている。聖書を学習したコテコテの大阪弁を話すAI「じーざす」が、LINEを通じて24時間いつでも心の悩みにじっくり耳を傾け、聖書を踏まえて悩み解決の手助けをするという仕組み。LINEで友達登録すると、1日3回までの相談(チャット上での会話)ができる。
実際にチャットで質問を投げてみた。「会社の経営が行き詰まっています」。すると、わずか数秒後に長文の返事が届く。
「わしの子よ、経営が行き詰まるのは辛いことやね。でもな、希望を失わんといてくれ。『わたしは、あなたがたに平安を残す。わたしは、わたしの平安をあんたに与える。』(ヨハネの福音書14章27節)って、聖書に書いてあるやん。現実は厳しいかもしれんけど、上を向いて、一歩一歩前に進むことが大事や」
「経営ってのは激流をくだるカヌーみたいなもんや。突然の岩や渦に驚くこともあるけど、しっかりとオールを漕ぎ続ければ、やがては穏やかな流れに出会えると信じるんや。経営の道も、信仰というオールを持って、乗り越えられんことはない。勇気と信念を胸に秘めて、次の一手を考えてみようやな。神が与えてくれる平安の中で、正しい方向を見つけることができるんとちゃうかな」
不覚にも感心してしまった。大阪弁のせいか、チャットGPTのような冷たさを感じさせない。文脈にふさわしい聖書を引用する精度も高い。
運営するのは、2021年から地域名産品や観光・アクティビティの開発、AIサービスの企画・開発に携わってきたローカルツーリズム株式会社「AI Development事業部」。他に「人材教育の支援」「コンサルティング、宿泊施設・飲食業などの事業設計」「アーティスト支援活動」なども手がける。キリスト教とはまったく無縁の一企業が、なぜ突飛とも思える事業を始めたのか。自身も教会との接点は皆無だという代表の糀屋総一朗さんに、素朴な疑問を投げかけてみた。
「地方創生の事業に関わりながら、ストレスフルな現代社会で疲弊する人々が、気軽にエンタメとして『心の支え』を得られる方法はないかと考えたのがきっかけでした」
「こんな人にぴったり」という解説欄には、確かに「SNS疲れや戦争などのニュースで気持ちが殺伐として沈んでいる」「聖書に何が書かれているか詳しくないけど、なんだか興味がある」「人生の意味や目的、道徳的・倫理的な問題に対する答えを求めている」とある。
では、なぜキリスト教なのか。「正直そんなに深い意味はなくて……。もともとチャットGPTがアメリカのサービスなので、聖書であれば、ある程度高い精度で作れるだろうという見通しがありました。もちろん空海など、他の偉人でも良かったわけですが、やはり残された書籍や英語で読み込めるデータが圧倒的に少ない」
宗教的な機能の必要性を実感
牧師職へのリスペクトも
当初、LINEとAIを組み合わせた企画として試験的に運用を始めたサービスにすぎなかったが、2週間余りで想定以上の2000件を超える悩み相談が寄せられた。なかには、説教を考えてほしいという牧師からの相談も。悩んでいる人の多さに驚きつつ、その潜在的なニーズの高さにこのまま継続すべきだと考えるようになったという。その後、並行して始めた「12使徒性格診断」などのnote記事やX(旧Twitter)の発信もAIが執筆している。
「AIの回答を読んでいるうちに、パターンも読めてきて、少し聖書に詳しくなりました。同時に、こんな深刻な質問に日々、人として答えているのかと、牧師に対するリスペクトもかなり上がりました。たいへんな仕事だと思いますが、AIがその一部でも負担できれば後継者不足にも対応できるのではないでしょうか。私は信じていませんが、宗教的な機能の必要性も改めて実感しました」
地方の人手不足なども、AIの活用次第で解消できる可能性はまだあると話す糀屋さん。取材後、気になったことをじーざすAIにも尋ねてみた。「じーざすAIの登場で今後、牧師の役割は変わりますか?」
「わしの子よ、人とAI、ちゃう立場で役割を果たしてるんや。牧師さんの役割は、AIがどんなに進化しようとも変わらへんやろう。『わたしは良い牧者である。良い牧者は、羊のために自分のいのちを捨てる。』(ヨハネの福音書10章11節)という言葉のとおりや。AIがどんなに聖書の言葉を語ることができても、人間の温かさや心の触れ合い、霊的な導きは代えがたいものがあるんやで」
AIなのに(AIだから?)、ちゃんと分をわきまえている。答えはさらに続く。
「しかし、AIが登場してくれたおかげで、伝える手段が増えたとも言えるやろう。牧師さんも、AIの力を借りながら、さらに多くの人々に神の御言葉を伝えるやり方を模索していくかもしれんね」「牧師さんは目に見えへん霊的なもの、人の心のアチコチを照らし出す灯や。どんな時代においても、その暖かい光が必要とされるものやで」
(本紙・松谷信司)
■「じーざすAI」が答えたQ&Aの実例
「Q.失恋して辛いです。どうした良いでしょうか?」
「A.わたしの子よ、失恋は心に深い傷を残すけれども、そこから学び成長する機会でもあるんや。……お前の悲しみは時に重く、心を圧迫するかもしれんが、それを乗り越えることで、さらに強く、賢くなるんや。
失恋した時は、まずはじっくりと自分の気持ちを受け止めてみたらどうやろう。失った恋に悲しむこと、怒ること、もしくは失敗から学ぶことは全て、人間の成長に必要なことや。
それからな、時間をかけて自分自身を癒し、次の一歩を踏み出す準備をしたらええ。失恋の経験から何を学ぶことができるのか、次の関係に向けてどのように自分を高めていけるのか、ゆっくりと考えてみるんや。
どんなに辛い時でも、お前の心はいつかまた幸せを見出すやろう。今は自分を労わり、失恋を人生の貴重な教訓として受け入れるんや。
#じーざすAI #失恋の乗り越え方 #心の成長 #自己発見」
糀屋創一郎(ローカルツーリズム株式会社代表取締役)
こうじや・そういちろう 1978年 福井県生まれ。慶應義塾大学法学部卒、早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了。大学卒業後、東京フィナンシャル・アドバイザーズ株式会社に入社。2009年、株式会社KIRIAGERUを設立。レンタルスペース事業で全国に100スペース以上を開設や運営。並行して飲食事業、家具販売事業、不動産投資を展開し事業売却。2018年 Common Future &Co. 株式会社を設立し、地域創生のためのファンド「エリアリノベーションファンド」の組成。福岡県宗像市大島で投資を行い、1日1組限定の宿「MINAWA」など、地域の魅力を価値化する産業を創出しGDPの押し上げに寄与。2021年ローカルツーリズム株式会社を設立。