【この世界の片隅から】 韓国キリスト教と「伴侶動物」 李 相勲 2024年3月21日
わが家には、今月2歳となる犬がいる。ダックスフンドとプードルのミックスである彼女が保護施設からわが家にやってきて1年半ほどになる。家族のうち筆者にだけは、なぜか懐かない彼女であるが、今では大切な家族の一員となっている。ペット大国とも言える日本に住む読者の中にも、ペットと暮らしておられる方々が多いだろう。ペットフード協会による2023年の調査によると、日本における犬と猫の飼育数は、犬が684万4000頭、猫が906万9000頭である。
最近、韓国ではペットをめぐり、大きな変化が起っているようである。以前はペットのことを「愛玩動物」と呼んでいたが、最近では「伴侶動物」と呼ぶようになり、マスメディアもこの言葉を使用している。このような言葉の変化から見えてくることは、韓国におけるペットの位置づけの変化、すなわち、飼い主にとってペットは単なる所有物ではなく、人生を同伴する大切な存在と認識されるようになってきているということである。
今年1月に韓国の牧会データ研究所が発表した報告書「伴侶動物の実態と認識」によると、韓国では伴侶動物の数は増加する傾向にあり、特にコロナ禍において急増している。このような趨勢の中、伴侶動物関連の産業の規模も2015年の1.9兆ウォンから2023年には4.5兆ウォンとなり、2027年には6兆ウォンに成長することが予想されている。また2022年の統計では、国民の24%が伴侶動物と暮らしており、そのうちの80%を超える人たちが伴侶動物のことを家族の一員とみなしている。
教会関連では、信徒と伴侶動物がともに礼拝することのできる空間を教会に設けることへの賛否を問うた牧会者対象のアンケート調査(昨年11月実施)において、賛成が27%に対し、反対が65%との結果が出ている。反対が賛成を圧倒的に上回ってはいるが、少なからぬ牧会者が伴侶動物とともに礼拝することを否定的には見ていないことが分かる。
伴侶動物をめぐる韓国社会の実態および認識の変化は、教会にも影響を及ぼし始めている。全般的に保守的な韓国教会の中でも、特に保守的傾向の強い大韓イエス教長老会(高神)は、昨年9月に開催された定期総会において、動物の葬儀に関して議論し、この件に関する神学的な研究を神学委員会などが中心となって1年間実施することを決定した。葬儀に関しては、伴侶動物と共に暮らす家庭の増加に伴い、各宗教の形式にそった葬儀を提供する葬儀社も増えてきているとのことである。
2022年10月には、聖公会や大韓イエス教長老会(統合)、韓国基督教長老会の牧会者らが主管し、伴侶動物の祝福式を聖公会大学(ソウル市)で開催している。この祝福式には、約30匹の動物とその家族約50人が参加し、近くの公園を散歩した後、礼拝をささげて祝福を受けた。
同祝福式の開催者の一人であり、提案者でもあるミン・スッキ司祭(大韓聖公会光明教会)は、自らが牧会する教会においても2011年より祝福式を実施しており、現在は年2回行っているという。祝福式に関してミン司祭は、「神の愛は人間にだけ限定されるものではない」ので、「聖職者は、すべてのいのちを祝福すべきだと信じている」とも述べている。
ミン司祭によると、海外の教会では伴侶動物の祝福式は一般的なものとなっている。実際、例えば欧米のカトリック教会では、動物の守護聖人とされているアッシジの聖フランシスコの祝日である10月4日に祝福式を挙げる教会も珍しくないようである。韓国のカトリック教会でも、数年前より祝福式を行う教会が増えてきているという。
一方、基督教大韓監理会(メソジスト)所属の「夢の教会」(京畿道安山市)のように、礼拝出席者が伴侶犬を預けることのできる部署を設けた教会もある。同教会の「ドリーム・ペット宣教会」では、教会周辺を散歩させるなどしながら礼拝の間、預かった犬たちの面倒を見る活動などを行っている。
伴侶動物の祝福式などに関しては、韓国教会内においてまだまだ抵抗感や批判が多くあるようであるが、神学的な議論を深めていく中、徐々に韓国教会は伴侶動物に開かれた教会となっていくのではないかと思われる。近年韓国では、動物の神学に関心をもって研究する神学者たちも増えてきている。ペット大国である日本では、どうなるだろうか。
李 相勲
い・さんふん 1972年京都生まれの在日コリアン3世。ニューヨーク・ユニオン神学校修士課程および延世大学博士課程修了、博士(神学)。在日大韓基督教会総会事務局幹事などを経て、現在、関西学院大学経済学部教員。専門は宣教学。