セイデル部長「法律を使うことが、子どもたちに希望を与えるための最後の手段」
気候危機における日本のエキュメニカル運動の課題とは?
近年、気候訴訟の世界的な展望における地殻変動がみられるようになってきた。環境正義のための闘いにおいて、青年の活動家たちが中心的な舞台に出てきているのだ。世界教会協議会(WCC)が4月9日、公式サイトの特集記事で伝えた。
この運動を形作っている極めて重要な時の中で、2023年という年が転換点として目立っており、画期的な裁判所の判決や法的勝利によって特徴付けられている。そのような一里塚の一つに、ヘルド対モンタナ州(という米国の判例)におけるキャシー・シーリー判事の画期的な判決があり、そこで彼女は16人の若い原告を支持する判決を下した。この歴史的な判断は世界中の気候関連訴訟の先例を定めただけでなく、きれいで健全な環境に対する原告たちの憲法上の権利を是認もしたのである。
これらの法的勝利の上に築いて行動の差し迫った必要性を認めようと、ロンドン大学キングス・コリッジにある「気候法とカバナンス(統治)のためのセンター」は4月5日に法律円卓会議を開催した。この催し物には、主導的な学者たちや、法律の専門家たち、心理学の専門家たち、そして第三セクターの組織の代表者たちが集まり、気候変動によって引き起こされた課題のただ中で訴訟を通じて子どもたちの権利を前進させるための革新的な戦略を探究した。ロンドン大学キングス・コリッジのメーガン・ボウマン教授(ディクソン・プーン法学部)とジェニー・ドリスコール博士(教育・コミュニケーションと社会学部)の共催で、「ジェネレーションズ・トゥゲザー」(「気候の破壊は児童虐待だ」と主張する国際的な運動:https://climatechangeischi.wixsite.com/generations-together)や「アワ・チルドレンズ・トラスト」(米国オレゴン州にある非営利公益法律事務所で、さまざまな背景を持つ青年たちに、安全な気候に対する自らの法的権利を確保するために、戦略的で運動に基づく法的なサービスを提供している:https://www.ourchildrenstrust.org/)、そしてWCCからの協力者たちとともに、この円卓会議は、学際的な対話と協働を支援することを目的とする、キングスの「気候と持続可能性の創業助成金」による資金提供を受けた。
議論の中心となったのは、気候変動の影響に対する子どもたちの不釣り合いな脆弱性についての認識であった。「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」からの科学的証拠が、若い人たちが環境の悪化による社会的・物質的な影響をとりわけ受けやすいとするユニセフの主張を支えた。今世紀末までに3度上昇することで潜在的に住めなくなる世界を示す予測が、これらの課題に取り組む緊急性を強調するものとなった。
「気候変動がルールを変えてしまったのです。だから私たちは自らがそれに対処する方法を変える必要があるのです。生きることができる未来のために、法律を使うことが、子どもたちに希望を与えるための最後の手段なのです」と、WCC子どもの権利のためのプログラム部長であるフレデリケ・セイデル氏は語った。セイデル氏は子どもたちを守る大人の義務を強調し、気候緊急事態によって引き起こされた加速する被害から子どもたちを守るために法律を使う人たちは希望の源なのだと述べた。
この円卓会議は2023年からのカギとなる裁判所の行動を検証することに焦点を当て、子どもたちの正義のための創造的な法的手法を探究するとともに、訴訟のために前途有望な道を見定めた。それは世代間の正義がもつ重要性や、未来の世代の権利を求めて訴える子どもたちの役割を強調するものとなった。この催し物は、気候関連の訴訟への調整された手法を確立することを目的としていた。
ロンドン大学キングス・コリッジにおけるこの法律円卓会議は、国際法や子どもの権利、そして持続可能性の専門家たちがつくる地球規模の共同体を養成することを求め、気候正義の追求における協働と調整を支援するものとなった。現在進行中である気候変動の危機における希望の光としての役目を担おうと、そこでの議論や結論、そして勧告を反映した簡潔な成果報告書を出版する計画が立てられた。
「気候変動は子ども時代の有害な体験となってしまい、大人たちと子どもたちの間の関係をめぐるトラウマにつながりかねません」と、セイデル氏は言った。
セイデル氏は、持続可能な社会の発展に対するWCCの長年にわたる責務について、詳しく説明した。1970年代から、WCCは草の根や地域及び地球規模のレベルでの気候正義の運動において、立役者となってきた。2015年、WCCはユニセフと協力して、「子どもたちに対する教会の責務」を開発し、子どもたちのために気候正義の努力に焦点を当てた。加えてWCCは、地球規模の協力関係における戦略の中で、気候に関する責任ある銀行取引に関する運動の先鋒となり、子どもたちの身体的・心理的な安寧に対する気候変動の影響についての研究を計画するとともに、子どもたちに対する暴力の一形態としての気候の破壊についての認識を求めて訴えてきた。
「WCC世代間気候正義イニシアチブ」と題された、現在進行中であるWCCの計画は、持続可能な社会を支援することへの同組織の献身を例証するものである。このイニシアチブ(率先した企画)の包括的な運動構築戦略には、WCC加盟教会の中における法律家の訓練や、法律事務所からの訴訟支援、創造的なコミュニケーション会社との協働、そして化石燃料を拡大する現在進行中の資金提供が子どもたちの精神衛生にどのような影響を及ぼすのかについての、裁判例のためのデータ収集が含まれている。さらに、この計画は、気候と子どもたちの安寧という分野における主導的な専門家たちと協働して、研究を10カ国にまで拡大することを目的としている。
集団的な行動や戦略的な提言活動を通じて、二酸化炭素(CO2)排出の危険(化石燃料がその原因の75%を超える)に対するすべての世代の権利が守られる未来のために、希望はあり続けるのである。
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気候変動問題に長年取り組んできた日本の環境NGO「気候ネットワーク」(https://kikonet.org/)は、2023年12月27日、「気候変動は子どもの権利とどんな関係がある?- 国連が各国に対策を求める」と題する記事をブログに掲載した。
その中で気候ネットワークは、国連の子どもの権利委員会が2023年8月に発表した「気候変動に焦点をあてた子どもの権利と環境に関する一般的意見26」に言及し、まとめとして次のように述べている。
「この『一般的意見』をもとに、私たちは社会を見直すことができます。
国レベルの気候変動政策だけでなく、自治体レベルでも子どもたちの意見が尊重され、政策が決められたり、予算が確保されたりしているか。気候災害や環境汚染に子どもたちをさらさないための対策がとれているか。気候変動を抑えること、気候変動の中で暮らしていかなければいけないことの両面から教育カリキュラムが計画されているか。声を上げる子どもたちは、ハラスメントや中傷からきちんと守られているか。あらゆる対策において、障がいがあったり、マイノリティ集団に属していたり、特に気候に対して脆弱な環境で暮らす子どもたちへの配慮がきちんとされているか。
気候変動への対策について、今の選択が、数百年から数千年先にまで影響を及ぼすと言われています。未来から振り返った時にあの時に何をやっていたのかと言われないように、まずは今の子どもの権利を守れるよう、対策を講じるべきではないでしょうか。
子どもが健やかに成長するためには、安全な環境が必要です。
今の子どもたちは生まれたときから気候変動が進んでおり、この危機に巻き込まれてしまっている状況です。怒ったり抗議をするのは当然です。現世代にはその中でどのように子どもの権利を守ることができるのか、世代間の不公平を無視せず責任をもって施策を考える必要があります。
今回の『一般的意見』がきっかけとなって、今後様々なレベルで対策がとられていくことを期待したいと思います。子どもの権利が守られる社会は、大人の権利も守られ、大人にとってもきっと暮らしやすい社会になることでしょう」
日本の二酸化炭素(CO2)排出量は世界第5位。その主な原因である石炭火力発電所の建設や稼働が神奈川県横須賀市や兵庫県神戸市などで数多く行われてきており、これらに反対する訴訟が、いくつか行われてきている。日本のエキュメニカル運動は、これらにどう応えるのだろうか?
(エキュメニカル・ニュース・ジャパン)