心に染み入る「聖書」のことば 宮崎伸治氏『なぞるだけ』2冊刊行 2024年4月21日

 「外国語の聖書を書き写し、人生を豊かにする」――そんな新しい聖書の楽しみ方を提案するドリル『聖書英語なぞるだけ(増補版)』『フランス語聖書なぞるだけ』(いずれも雷鳥社)が2月に刊行された。著者は、フランス語、ドイツ語、スペイン語、イタリア語、中国語で原書を読みこなす作家・講演家の宮崎伸治氏。同書は、40代半ばで聖書と出会い、感銘を受けた新約聖書のことばを6カ国語で書き写している著者の外国語学習習慣をまとめたドリルだ。

 宮崎氏は、イギリスのシェフィールド大学大学院で言語学を学んだ後、日本で専業の作家・翻訳家となったが出版社との度重なるトラブルに遭遇し、「何かが違う」という思いから断筆。その後、本当の「幸せ」を探るべく学問の道を志すようになった。40歳を過ぎて金沢工業大学大学院工学科を修了。その後も慶応大学、ロンドン大学、日本大学と幾つもの大学に入学し、さまざまな分野の学問を探求してきた。

 聖書と本格的に出会ったのは、ロンドン大学で神学を学んでいた40代半ばの時。必須科目になっていたことから、単位を取るために勉強を始めたが、新約聖書のことばは宮崎氏を虜(とりこ)にした。そこにはこれまで求めてきた本当の幸せをつかむための指針――誠実さ、正直さ、勇敢さ、忍耐力、節制といった「真の善」を身につける――が示されていた。単位を取った後でも、新約聖書に書かれてある言葉が何度も思い出され、次第に、何度も大学ノートに書き写すようになった。

 書き写すことで自身の中に染み込んだ聖句は、当時出版社を相手に本人訴訟を起こした裁判においても心のよりどころとなった。つらいことや悲しいことを乗り越える糧となったのも新約聖書の聖句だった。こうした経験を経て、「聖書をなぞって学ぶ」ことの素晴らしさをほかの人にも知ってもらいたいという思いがふつふつと沸き起こり、『聖書英語なぞるだけ』(百年書房)の自費出版に踏み切った。

 すでに約60冊の著訳書がある宮崎氏が自費出版にこだわったのは、苦しみのどん底にあった自分を救ってくれたことが新約聖書にあることを、分かる人だけに分かってもらえればいいという思いがあったからだ。ところが、思った以上に反響が大きく、たちまちロングセラーとなり、今回増補版として『聖書英語なぞるだけ』、そして姉妹版『フランス語聖書なぞるだけ』を商業出版することになった。

 同書は、「おおらかな心を持つ」「ひと呼吸おく」「姿勢を正す」「地に足をつける」「欲を手放す」の5章からなり、50の聖句(新約聖書)が収められている。それぞれのページを開くと紹介する聖句(日本語)と、精読するための英語(フランス語)による聖句、そしてそれをなぞるための薄文字が掲載。単語・熟語の意味と同時にワンポイントアドバイスもある。さらに、それぞれの聖句にかんする宮崎氏のエッセー(フランス語版は宮崎氏のメッセージ)、各章の終わりには聖書の基礎知識も記されており、初めて聖句を目にする人への聖書理解にもつながっている。

 「聖書を読んでいるうちに『聖書は神の言葉(神の啓示を受けた人が神にかわって書いた言葉)』だと信じるようになり、さらにイエス・キリストを信じるようになった」と話す宮崎氏。だがそれは、教会に属し、洗礼を受けクリスチャンとなることとは一線を画している。あくまでも、自分の人生を豊かにするために聖書の言葉にしたがって生きたいという決意。

 3月に銀座・教文館(東京都中央区)で開催されたトークショー&サイン会では、「他人にクリスチャンになることを勧めているわけではなく、自分の人生を見つめ直し、よりよい人生を歩んでほしいという思いでこのドリルを出版した」と語り、「『クリスチャン』という肩書きが大切なのではなく、日々どういう言動をするかの方が大切。ノンクリスチャンであっても、自身の理性と知性に照らし合わせて、納得できる箇所だけを自分の人生に取り入れて、人生を豊かにしてほしい」と勧めた。

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