TRPG(テーブルトークRPG)で新たなコミュニケーションの糸口を 「居場所づくり」への挑戦 2024年5月21日

 一つの卓を囲み、6面体、10面体など各種ダイス(サイコロ)を振るたびに一喜一憂する5人。中央の1人は「ゲームキーパー」と呼ばれる進行役で、あとの4人は初参加を含む下は中学生から上は30代の青年までのプレイヤー。

 場所は東京都小金井市の東京学芸大学。研究員の加藤浩平さんが、自閉スペクトラム症(ASD)をはじめ発達障害のある子どもたちを対象に開催している「日曜余暇プロジェクト」(通称「サンプロ」)の一幕だ。

 TRPG、正式名はテーブルトーク・ロール・プレイング・ゲーム。1980年代に海外から翻訳版の元祖『D&D』が輸入されて以降、根強い人気を博し、今では専門のカフェが相次いでオープンするなど、多くのファンを魅了し続けている。アプリゲーム全盛の近年はとりわけ、対面で会話によって物語を構築していくアナログ(非電源系)ゲームの一種として再注目されている。

 この日、毎月1回の定例会で遊ばれていたのはクトゥルフ神話TRPG第7版の公式シナリオ「とおりゃんせ」。キャラクター作成に約1時間、実際のプレイは3時間に及んだ。教員、YouTuber、ニート、歴史学者という職業も能力も異なる4人が「探索者」として、ひょんなことから巻き込まれた難事件に挑む。クトゥルフ神話(米小説家H・P・ラヴクラフトによる作品をベースとして体系化された)特有の禍々しさを醸しつつ、派手な戦闘シーンこそないもののスリリングな展開が続いた。

 ぼろぼろに使い込んだルールブックを持参した中学生のAさんは、意外にも実際にプレイしたのは今回が初だという。ネット上のリプレイ動画(実際に遊んでいる様子を撮影したもの)を機にクトゥルフにハマり、繰り返し視聴しながらルールブックを読み込んでいたため、未経験ながら用語や世界観についてかなり詳しい様子。終了後は、「実際にプレイできて嬉しかった」と満面の笑みを見せた。

 「発達障害のある子どもたちは、一般に人付き合いが苦手と言われますが、必ずしも集団活動やコミュニケーションが嫌いなのではありません」

 自身も小学生の時、級友や周りの大人も巻き込んで『D&D』の「布教」に邁進したほどのTRPG愛好家。専門書の編集者でもある加藤さんは、取材を機に余暇支援ボランティアとして自閉スペクトラム症(ASD)のある子どもや若者と関わるようになり、久々にTRPGを遊ぶ中で、プレイ中と実生活と比べコミュニケーションの取り方が明らかに異なることに気づいた。

 以来、編集業と並行し研究者としての余暇活動支援を続け早10年余り。この間、加藤さんの研究を通して中高生時代にTRPGと出会い、今はゲームマスター(GM)として欠かせない役割を担うASDの青年、院生として加藤さんの指導を仰ぎつつ活動に協力するスタッフもいる。

 これまでの研究から、「ルールという枠組みやキャラクターという役割による情報の明確化」「キャラクターを介した間接的なコミュニケーション」「ルールの枠内での自由な行動選択」といったTRPGの構造が、発達障害の特性と相性が良いのではないかと考えられている。実際に、加藤さんの研究では参加者のコミュニケーションがポジティブに変化し、また「生活の質(QOL)」(精神的健康や自尊感情、友人関係など)が向上したという研究結果も出ている。

 見学に同席した臨床心理士で俳優の小野寺史穂理さんは、「演技を取り入れたワークショップや、音楽や絵画を用いた心理療法にも通じる効果を実感できた。TRPGは初体験だったが、今後の支援にも活用できそう」と期待を寄せる。現在、子どもの支援などに携わる心理カウンセラー、教員、地方議員、研究者らの見学希望が後をたたない。

 発達障害をはじめ、学校の集団行動や管理・抑圧的な空気になじめないなど、生きにくさを覚える若者は教会にもあふれている。TRPGは彼ら、彼女らが新たな表現ツールを獲得するヒントを提示してくれるかもしれない。

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