太平洋教会協議会(PCC、事務局・フィジーの首都スバ)は5月16日、カナキー(ニューカレドニア)の現況に関する声明文を発表し、フェイスブックに掲載した。
PCCはジェームズ・バグワン総幹事によって署名されたその声明文で、暴力の勃発は、「太平洋国家」であるというレトリックがその行動によって暴露されたフランス政府によって、先住民族の権利と政治的権利を一貫して侵害されてきたコミュニティの痛み、トラウマ、不満の表れであることを無視することはできないと指摘し、フランスの植民地支配の下に置かれてきたその歴史的な背景を詳述している。
その上で、フランスの植民地主義によって失われたカナキー族の人間性を取り戻す人間化の過程として、カナキー族の精神性を表す「ドゥ・カモ」という概念の重要性を強調し、この危機の時代における祈り・連帯・憐れみや、責任と冷静さ・平和、銃器の販売と使用の禁止、植民地解放の過程におけるフランス国家の公平な役割、そして国連が公平かつ有能な対話の任務を主導することなどを強く求めている。
以下はエキュメニカル・ニュース・ジャパンによる全訳。
カナキー・ニューカレドニアの現況に関する太平洋教会会議の声明
太平洋教会協議会は、ここ数日の昼夜、暴力の勃発につながったこの政治的危機の時において、カナキーの姉妹たち、兄弟たちと深く連帯します。
この国が現在経験している暴力は、再び領土内のすべての人間の生命の尊厳を危険にさらしています。
私たちはあらゆる面で暴力の停止を祈り求めますが、ここ数日間だけでなく、自由、公平、友愛という自らの体験を心の奥底で叫び続ける一方で、フランス政府のこぶしがカナク族ののどを締め付け始めてからの数か月間で私たちが目撃してきた現実も認識しています。
暴力の勃発は、「太平洋国家」であるという美辞麗句がその行動によって暴露されたフランス政府によって、先住民族の権利と政治的権利を一貫して侵害されてきたコミュニティの痛み、トラウマ、不満の表れであることを無視することはできません。
カナキー・ニューカレドニアが置かれている状況は、カナク族とその領土内に存在するコミュニティの解放、そして共通の運命に対する責任を政治的に果たしていないことの表れです。私たちは、ヌメア協定(訳者注:ニューカレドニアに対する自治権付与や独立問題をめぐる合意文書)から30年以上が経過した現在でも、フランス国家の政治的立場は変わっていないようであり、フランスとの間で行われた植民地解放の過程に関する中立性はもはや尊重されていないことに留意します。
4月2日、上院はためらうことなく選挙人名簿の凍結解除を可決し、ヌメア協定を破棄し完全な主権の問題を完全に葬り去ろうとする人々の武器の1つを無視するふりをしました。 5月15日水曜日、国民議会はニューカレドニアの選挙機関の凍結を解除する憲法法案に賛成票を投じました。
これは、独立支持活動家、政治家、歴史家、協会、教会、NGOがマクロン大統領と当時の大臣レコルヌ氏に対し、新型コロナウイルス感染症で遺族となったカナク族とカレドニア人の家族が追悼できるよう、3回目の住民投票の延期を求める数多くの要請を受けたものです。フランス植民地国家は、第3回国民投票協議を維持することを決定し、これにより、フランスの植民地主義によって生み出された陰謀に参加しないよう、独立を支持する生存勢力の不参加が呼びかけられました。これにより、2018年の投票率81%、2020年の投票率85.69%と比較して、先住民カナック族と独立支持政党を除いた投票率は43.87%となり、96.5%の「ノー」の投票での勝利が促進されました。
念のために言っておきますが、フランス政府は、2022年の大統領選挙前には国民投票を実施しないという当時の首相エドゥアール・フィリップ氏の約束を尊重しませんでした。2021年12月12日の第3回国民投票におけるこの「強制可決」の影響は、今も私たちに残っています。
20年間の合意に基づく管理を経て、フランス政府と独立運動家およびカナク族との間の対話の決裂が、いま現実となっています。そしてフランス政府と地元右翼(親フランス)との緊密な連携が公になっていて、南部州の大統領職も兼務するバッケス夫人を市民権担当国務長官に任命し、ニューカレドニアの国会議員2名、メッツドルフ氏とデュノワイエ氏を、ニューカレドニア文書に関して国家が着手した様々な改革の報告者として任命したのです。
このようにして、フランス植民地国家は、カナク族の人々を恐れたり考慮したりすることなく、マティニョン・ウディノ協定(訳者注:フランス政府、カナク独立活動家、フランスの入植者との間で、ニューカレドニアの地域自治の強化を求め、30年後に独立を問う住民投票の実施が明記された、1988年の合意)やヌメア協定後の問題に対処する際に、その公平性を誇りを持って示しているのです。
人間化の過程は、さまざまな遺産と複数の文化に恵まれ、グローバリゼーションやその影響と結果に直面しているカナキー・ニューカレドニアの人々にとっての挑戦です。彼らはもう一度膨大で長ったらしい議論に関与する必要があるのです。「デュオローグ(二者の話し合い)」が不可欠かつ避けられない場合、この議論は、カナックと慣習的価値観、オセアニア的価値観、キリスト教的価値観、共和主義的価値観といった価値観がすでに予期されている将来のドゥ・カモ(訳者注:カナキー族の精神性を表す言葉で、ニューカレドニアのカナック族を専門とするフランスの牧師兼民族学者であったモーリス・リーンハルト(1878~1954年)による1947年の著書『ドゥ・カモ メラネシア世界における人格と神話』によると、この精神性が持つ多くの次元には、体や感情、空間、時間、言語、名前、親族関係、首長の地位、先祖崇拝、そしてトーテム信仰が含まれるという)を構築できる話し言葉の新しいビジョンを生み出すでしょう。
1979年、ニューカレドニア及びロイヤルティ諸島福音教会は、教会会議でグアルー宣言を採択し、当時の政治状況からのカナック族の独立を求める主張を宣言しました。教会は、破壊的な植民地制度によって生み出された抑圧と非人間化の連鎖からの人間の解放というテーマについての深い神学的省察を経て、植民地国家とその抑圧制度によって犯されたあらゆる形態の不正義と強制に対して反対の立場をとりました。
この立場に沿って、2023年11月における太平洋教会協議会の第12回総会で、カナキー・ニューカレドニア・プロテスタント教会は、地域テーマとして「ドゥ・カモ:キリストが私たちをご自身の新しい人間性に変えてくださる」を提案しました。パシフィカ(太平洋)とオイクメネ(居住世界全体)の家族に対し、パシフィカの神の家で現代社会の課題に直面した私たちの人間性の状況やその回復力と変革の能力について考えるようにという奨励です。
(訳者注:カナキー/ニューカレドニア最大の主要な島であるグランドテール島の中央部にある)アジエ・アロ地域から私たちに伝わったドゥ・カモの概念は、私たちを人間化と変革の過程に誘います。永続的に進化する人類という考え方を導入したドゥ・カモの概念は、人間やその土地とそれを構成し定義する自然、先祖や無形遺産、地域社会の構成員、そして他の人たちとの、深い多次元的なつながりを強調します。この非常に豊かな相互関係は、私たちをより意識的で高次の存在へと導くはずです。永続的に進行中の作業としての人間という概念には、存在することと成ること、さまざまな形の関係と調和のとれた関係で存在することの絶え間ない探求が含まれていますが、生命の尊厳という方向性が明確に定義されています。人間の変革は、生きることという最初の人間の職業を十分に発揮できるように、人間に価値観、技能、熟達、知識、ノウハウ、対人関係の技能、および将来の知識を構築または装備させることのみを目的としています。カナクの実存的な展望は、教育を通じて尊厳を持って完全に生きることを要求するのです。
この要件によって、彼らは宇宙、自然、他者、外国人、時間、空間、言葉、環境などとの関係を定義することができるのです。
新しい人間は、この国で平和と愛の中で一緒に暮らすために、自分の「ドゥ・カモ」を求めるよう求められているのです。
したがって、太平洋教会協議会は次のことを強く求めます。
1.カナキー・プロテスタント教会の会員、姉妹教会、姉妹宗教、そしてカナキーのすべての信者に対し、この危機の時期に祈り、連帯、憐れみを訴えます。政治的意見や民族的出身が何であれ、すべての人間の命は貴重で神聖です。私たちは皆、神が私たちに与えてくださった命という神聖な贈り物を、ありのままに持っています。
2.政治的、慣習的、宗教的指導者、そしてカナキーを故郷と呼ぶすべての人が、この危機の時期に、責任と冷静さ・そして平和を実践すること。
3.ニューカレドニアの州と政府が銃器の販売と使用を禁止すること。
4.この地域にいる人々の声を国際的にも支援するために、私たちの加盟教会と全国教会協議会、そして地域的および世界的な協力団体に、祈りと連帯を求めます。私たちはさらに、世界教会協議会に対し、その国際問題に関する教会委員会を通じて、フランス政府、および脱植民地化に関する国連委員会(C24および第4委員会)との、そのジュネーブとニューヨークの両方の事務所における連携を通じて、この問題をその活動の優先事項とするよう呼びかけます。
5.フランス国家が、有権者の凍結を解除する憲法法案を直ちに撤回し、中立的な第三者が促進する公平な対話の過程を直ちに開始することにより、植民地解放の過程における公平な役割を尊重すること。そして
6.国連が、この国の憂慮すべき状況を批判的に監視するため、公平かつ有能な対話の任務を主導すること。
パシフィカの家に対する奉仕のうちに、
太平洋教会協議会
総幹事 ジェームズ・シュリ・バグワン
(エキュメニカル・ニュース・ジャパン)