【地方からの挑戦~コレカラの信徒への手紙】 お客様は神さまです 小倉仁史 2024年5月21日

 聖書がすべての客室に備え付けられ、週末には十字架の掲げられたチャペルで数々の結婚式が挙げられる――善きサマリア人のたとえのように、疲れた旅人を世話して泊める「ホテル」。なんだか牧師と親和性が高いと考えられなくもない職場ですが、私に生活の糧を稼ぐよう与えられたホテルは客室に聖書もなければチャペルもない、宿泊特化型のホテルでした。

 夜勤のスタッフを除けば、私が一番年配者でした。そうです、8時間勤務のほとんどは立ち仕事ですし、何かあればホテル中を駆け回り、重い物を運んだり、トイレが詰まってもテレビが映らなくてもフロントスタッフが駆け付けます。すべての仕事が「奉仕」の仕事です。

 「お客様は神さまです」――ホテルマンはそのようにお客様に接するよう教えられますが、牧師が真の神をそっちのけで「神さまたるお客様」に奉仕する日々に、ある時は戸惑いを覚えました。数百室ある客室のエアコンを掃除していると、「こんなことをするために仕事を辞めて献身したわけではないのに」「今ごろ神学校の同期は祈祷会やったり説教準備しているんだろうな」「聖書を読みたい、伝道をしたい」と、ネガティブな感情に何度も襲われました。

 しかし、この都会の中の地方教会での経験が、「牧師が教会に仕える、その地域の福音伝道に仕えるとは一体どういうことなのか」を考えるいい経験となりました。そこに教会があり、み言葉を取り次ぐ者がいる。それを誰がどうやって維持するのか。どうしても地方教会は経済的に厳しく、牧師を招いてもその家庭の経済を支え切ることができないことがある。これから、そのような教会はいっそう増えていくかもしれません。そのような中において、牧師自身がその教会経済の支え主となり、招かれた牧師家庭の経済を支え、その地域の福音伝道に奉仕するというのは、地方伝道の大きな課題になるのではないかと思いました。

 同じ横浜でも、ちょっとバスに乗れば礼拝出席数百名規模の大教会がいくつもあります。しかし、同じ横浜でも私はこの地の福音伝道を示されたのだから、この地に住む人たちに福音を宣べ伝える。その主の福音宣教の業に必要なことがあれば何でもする。後ろ指さされてだって、教会の外で稼いでくることもする。教会の中にいることだけが牧師の役割ではない。改めて、人生を神に献げるということの意味を確認しました。

 本牧の地に招聘されて住むところを必死で探し回ったあの時も、ハローワークに通って面接を受け続けたあの日々も、毎朝ホテルのフロントに立ち旅立つお客様の健康と安全を祈ってチェックアウトをする日々も、町の牧師として何一つ恥じ入ることはない。同世代の友人や周りの牧師らと比較して何が良い・悪いではなく、これが私の「地方からの挑戦」であると、この手紙を書きながら神に励まされています。

 コレカラの信徒の皆さん、あなたの街に来た牧師・伝道師は日曜日の奉仕のほかに、また教会内での奉仕のほかに多くの業を担っています。見える側面だけではなく、見えない側面の働きも覚え、手を取り合って協力し、豊かな伝道の果実が各地に実りますよう祈っています。

 おぐら・ひとし 1977年東京都生まれ。サラリーマン時代は仕事の後にMBAを学びに行くほど経営や経済に夢中だったのに、ある時聖書に出会い35歳で受洗。約20年のサラリーマン生活を捨てて東京神学大学へ編入学。同大学院修了後、日本基督教団舘坂橋教会、2023年度より日本基督教団本牧めぐみ教会に赴任。好きなことは子どもに関わることとテニス。

【地方からの挑戦~コレカラの信徒への手紙】 牧師、ハローワークに通う 小倉仁史 2024年5月11日

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