【この世界の片隅から】 天安門事件追悼記念をめぐって――香港キリスト教会の最後の戦いとその終結 胡 清心 2024年7月11日

 かつて香港は中国領土内で唯一、公然と天安門事件(六四事件)とその犠牲者を追悼できる場所だった。毎年6月4日には、「香港市民支援愛国民主運動連合会」(1989年設立、以下「支連会」)がビクトリアパークでキャンドルライト集会を開催し、2019年まで続けられてきた。30年間にわたり、支連会は中国の人々の民主主義への願いを守り続け、また中国共産党の暴政の歴史的記憶を忘却から守り抜き、全世界の華人コミュニティにおいて歴史の真実を維持し、天安門事件の名誉回復を求める長き戦いの重要拠点となっていた。

 2020年、香港警察は新型コロナウイルスを理由として、支連会の天安門事件追悼集会を禁止し、2021年にも再度禁止したが、これは支連会の一部メンバーや香港市民によるビクトリアパークでの追悼集会の継続の意思を阻めるものではなかった。特に注目すべきは、元支連会の副主席だった鄒幸彤(すうこうとう)(トニー・チョウ)だ。彼女は香港の新世代の社会運動家として活動し、2010年から支連会でボランティアとして活動し、同時に中国大陸の人権状況にも関心を持ち、弁護士として香港の人権に関する複数の案件に対処してきた。2020年と2021年の6月4日、彼女は禁止命令をものともせずビクトリアパークでキャンドルライトを灯すという行動を起こした。これにより、彼女は不許可の集会に二度にわたって参加したとして有罪判決を受けた。2021年9月25日、支連会は正式に解散し、天安門事件追悼記念のキャンドルライト集会は歴史の一部となってしまった。

 それでも、香港の一般市民の間では、天安門事件追悼の思いは消えていない。2022年からは、毎年6月4日に多くの市民がビクトリアパーク周辺で花とキャンドルを持ち、警戒にあたっている大勢の警察と渡り合い、言論と集会の自由を守ろうとする姿が見られる。そして以下に紹介するように、香港の教会はこの問題に関して最も進んだ取り組みをしてきたと言える。

かつて毎年6月4日に開催されていた天安門事件追悼記念集会

 支連会と同様に1989年に設立された「香港キリスト教愛国民主運動」も毎年天安門事件追悼祈祷会を開催し、「明報」や「リンゴ日報」といった香港の主要紙のほか、社会における教会の預言者的役割を果たしてきた「時代論壇」(Christian Times/1987年創刊)などさまざまな新聞に、署名入りの祈祷文を掲載してきた。しかし2019年以降、香港の言論と報道の自由が急速に制限され、特に「香港国家安全維持法」の成立後に「リンゴ日報」が停刊に追い込まれると、他の主要新聞は天安門事件追悼文の掲載を躊躇するようになった。

 そうした中、香港キリスト教愛国民主運動も、2021年初めに目立たない仕方で解散した。その後、毎年6月4日前後の時期には、個人名義での署名式祈祷文が「時代論壇」に掲載されるだけとなり、キリスト教メディアが香港において公然と天安門事件を追悼記念する最後の砦となったのだった。

 そして今年5月、再び個人名義で「声なきところで涙の祈りを聞き、長き夜に恵みの光を待ち望む」と題する天安門事件追悼祈祷文が作られ、署名が呼びかけられ、6月2日の「時代論壇」に掲載される予定だった。

ところが、発行された6月2日の「時代論壇」には祈祷文は見当たらず、広告ページの2頁分も空白で、表紙には「今号の第1面の特集は、諸事情により掲載できません。読者の皆様のご理解のほどお願いします!」という一文のみが記されているだけだった。3頁目の一つの記事はすべて「⛝⛝⛝⛝⛝」といった文字化けのような伏せ字の状態になっており、祈祷文に言及されていた聖書の節「詩篇137:1」「ローマ書8:35~37」「イザヤ書41:10」だけが残されているだけだった。

 「時代論壇」の同号の「歴史の記憶の肩に立って祈る」と題した社説で、編集長は「歴史の記憶に基づく祈り文でさえ、『注目』を引き起こすことがある。ある人々の経験と記憶は、特に敏感にものと映ることがある。我々メディアは歴史や読者に背を向けることがないようにするためには、すべての文字を⛝としたり、空白にしたりすることでしか、現在の情勢に対応せざるを得ませんでした」と述べている。「時代論壇」がこのように対応した背後には、計り知れない困難があったに違いない。

 「時代論壇」が声を封じられたことに伴い、公の場で天安門事件についての公的な追悼を耳にすることが、ますます困難になったのは間違いない。残念ながら、これはまさしく「天安門事件の追悼記念の声を根絶する」という中国共産党政権の意図したとおりとなっている。

(原文=中国語、翻訳=松谷曄介)

 フー・チンシン 上海生まれ、香港在住。香港中文大学、文化・宗教学研究科で博士号を取得。現在、香港のキリスト教新聞「時代論壇」(Christian Times)の編集者・記者。猫4匹を飼育。独学で日本語を勉強中。

天安門事件から35年 恒例のキリスト者有志による追悼祈祷文 香港紙「時代論壇」に掲載されず白紙に 2024年6月4日

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