「AI倫理のためのローマからの呼びかけ」に署名 先端技術の開発・活用に倫理的責任を 13カ国から宗教者ら広島に 2024年7月21日
教皇庁声明アカデミーは7月9、10日の両日、世界宗教者平和会議(WCRP/RfP)日本委員会、アラブ首長国連邦(UAE)のアブダビ平和フォーラム、イスラエル諸宗教関係首席ラビ委員会との共催で「平和のためのAI倫理:ローマからの呼びかけにコミットする世界の宗教」を広島市内で開催した。同アカデミーは2020年に、人間を尊重する AI(人工知能)への倫理的アプローチを促進する公文書「AI倫理のためのローマからの呼びかけ」で、さまざまな国際組織、政府、機関が開発・活用にあたって倫理的・道義的責任を担うよう訴え、署名運動を展開してきた。
「破壊的技術がもたらす結果と平和への永続的な追求を象徴する」広島での開催が実現し、期間中は被爆者による証言の聞き取り、広島平和記念資料館を見学するオプショナルツアーも催され、2日間で世界13カ国から宗教者約50人を含む150人が出席。オンラインでも約50人が参加した。
この「呼びかけ」には2020年当初、マイクロソフト、IBM、国連食糧農業機関(FAO)、イタリア政府のイノベーション関連の省が署名。2023年には、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教の指導者も署名に加わり、今年は英国国教会の最高指導者であるジャスティン・ウェルビー・カンタベリー大主教も署名。今回、アジアから世界仏教徒連盟、WCRP日本委員会、立正佼成会など11の宗教機関と2大学の計16人が新たに賛同の意志を表明して名を連ね、合わせて48の団体が署名したことになるという。
開発者側として、IBMシニア・バイス・プレジデントのダリオ・ギル氏とともに来日したマイクロソフトのブラッド・スミス社長は、「人類が生み出したテクノロジーが、人類全体と私たちの共通の故郷のために役立つことを確実にするために、広島は説得力のある舞台」と語った。
教皇庁生命アカデミー会長のヴィンチェンツォ・パリア大司教は冒頭、「応用の可能性が無限に広がる偉大なツールとしてのAIは、その設計の瞬間から、善に役立つよう導くことができ、そうしなければならない。これは私たち共通の責任であり、この努力を共有することで、真の兄弟愛を再発見することができる。広島という最も象徴的な場において、私たちは平和を強く呼びかけ、先端技術が人々の平和と和解の原動力となることを求める」とあいさつした。
「AI倫理のためのローマからの呼びかけ」は、適切な技術革新における基盤となる要素として以下六つの原則を掲げている。「透明性:原則として、AIシステムは、説明可能でなければならない」「包摂性:AIは、すべての人のニーズを考慮し、すべての人が利益を享受できるものでなければならない。また、すべての個人がAIを通して自分自身を表現し、成長していくための最高の条件を享受できるものでなければならない」「責任:AIを設計し、展開する者は、責任と透明性をもって開発を進めなければならない」「公平性:偏見に基づいた開発や行動をせず、公平性と人間の尊厳を守らなければならない」「信頼性:AIシステムは、正確に動作しなければならない」「セキュリティーとプライバシー:AIシステムは、安全に動作し、利用者のプライバシーを尊重しなければならない」
戦争での技術利用に〝強い懸念〟
教皇「いかなる機械も命を奪う選択をしてはならない」
署名式では、エスカレンテ・モリーナ駐日バチカン大使が教皇フランシスコからのメッセージを代読。教皇はこの取り組みを称賛し、「新たな機械の時代に人間の尊厳を守るために団結し、主体的にコミットすることの重要性を世界に示すようお願いしたい」「民族や宗教の文化的豊かさがいかに手助けとなるかに気づくことが、技術革新を賢く管理しようとする皆さんの取り組みを成功させる鍵」と期待を寄せた。また6月14日、イタリアで開かれた先進7カ国首脳会議(G7)に出席した際の演説を引用しつつ、「武力紛争が引き起こす悲劇に鑑み、いわゆる『自律型致死兵器』のような装置の開発と使用について再検討し、最終的にはその使用を禁止することが急務」「これまで以上に大規模で適切な人間による制御が必要となり、効果的かつ具体的な取り組みを始めなければならない。いかなる機械も、人間の命を奪うことを選択してはならない」と強調した。
10日に採択された宣言文「広島アピール」は、「79年前、当時の最先端技術の軍事利用によって、人類に大きな悲劇がもたらされた地」で「如何に最先端技術が人類に多大な影響を与えるかについて深く学」び、「核兵器廃絶と恒久平和をどこまでも希求するものであることを、深く心に刻んだ」とした上で、今日の対立と分断の深刻な状況が核戦争の危険性を高めていることを受けて、戦争と兵器の問題に「強い懸念」を表明。
特に「現代の多くの戦争がAI技術によって促進されていることに注意しなければならない」として、「AIにより自律性を高められた無人機や無人艇などの、自律型致死兵器システムによる攻撃が行われている」「核兵器に関しても、その使用が人間の関与なしにAIの判断に委ねられるという現実的な危険がある」と「深い憂慮の念」を示した。
また、アジアにおいて初めて「AI倫理のためのローマからの呼びかけ」の署名式が行われたことを受け、「アジアで長い伝統を持つ宗教など世界の多くの宗教に共通し、歴史の中で受け継がれてきた信仰の教え」、「自分がしてもらいたくないことを人にするな」という宗教的信念に基づき、「すべての武力紛争が直ちに終結するよう、平和的な解決手段を追求すること」「AIが人類の福祉にのみ使用され、生命を破壊し傷つけるために使用されることがないよう、世界が誓約すること」を呼びかけた。
■教皇庁生命アカデミー
教皇ヨハネ・パウロ2世によって1994年に設立され、バチカン市国に本部を置く。人間が生きる上でのさまざまな年代における尊厳への配慮、ジェンダーや世代間の相互尊重、各個人の人間としての尊厳の擁護、そして人間の生活の向上に関わるさまざまな側面を研究。教皇フランシスコによって2021年に設立されたNGO「RenAIssance」財団を包括し、新たなテクノロジーが人間の生活に与える影響について人類学的・倫理的考察を支援し、AI倫理のためのローマからの呼びかけを推進している。