【宗教リテラシー向上委員会】 多元的世界における伝道について(3) 川島堅二 2025年5月11日

旧統一協会に対して東京地裁が解散命令を出したことで、改めてこの団体に注目が集まっている。気になっているのが、この団体の現在の信者数についての報道である。ある全国紙は「60万人」と報じていた。
この数値に既視感があったのは、アメリカ国務省が2023年5月に公にした「国際信仰の自由度」という文書に日本における「(統一協会の)信者数は約60万人(人口の約0.5%)」という記載があったからだ。
日本のマスコミもアメリカ国務省も独自に調査したわけではなく、この団体の本部に照会して得た数値をそのまま書いたと思われるが、これが本当であれば驚くべき勢力である。同じ時期(2023年)の『宗教年鑑』(文化庁編)によれば日本基督教団の信者数は約10万人だから6倍の勢力ということになる。
日本におけるエホバの証人の信者数は約21万人(宗教情報リサーチセンター)、モルモン教は13万人(『宗教年鑑』2023年)で、日本基督教団の信者数をすでに上回って久しいが、旧統一協会の信者数は突出しているといわねばならない。
しかし、この数値についてある脱会者は「この60万人には自分もカウントされている」と語っている。脱会者もカウントされ続けているというのだ。
それでは実数はどれほどなのだろうか。宗教社会学者の櫻井義秀氏は近著において「国内の信者数が数万の規模の教団」「数万人の信者と数千人の専従職員・活動家から構成される」と書いている(『統一教会 性・カネ・恨から実像に迫る』中央公論新社)。これは自民党への選挙協力の際の組織票がおよそ6万であること(ただし、実数はその3分の2で、残りはフレンド票)からの推定値であるという。社会学的に有意な数値(社会において活動している信者数)は、4万人程度ということだろうか。少しほっとするが、日本基督教団の信者もアクティブな信者数ということなら同程度かもしれないとも思う。
強引な勧誘による監禁容疑で信者が書類送検されるという報道が、かつて複数回なされたある仏教系の新宗教の公称信者数が300万と報じられたことがある。しかし、その数は脱会者や死者もカウントされ続けるためで、実数はその10分の1程度だといわれる。
このような信者の水増し報告を、カルト宗教や新宗教の未熟さとして笑うことは簡単だが、伝統宗教に対して大きな問いを投げかけているといえないだろうか。キリスト教やイスラムといった伝統宗教も実は脱会の道は閉ざされているからだ。
キリスト教の場合、信者数に関しては完全なダブルスタンダードがとられている。洗礼はサクラメント(聖礼典)ゆえに、いったん信者となったら、いかなる理由があったとしてもそれを取り消すことはできない。棄教を有効にする制度が存在しないのだ。棄教者はフェードアウトして離脱し、教会側は別帳会員という扱いにして現住陪餐会員と区別する。文化庁への報告は後者の数値を報告する点では、カルトや一部新宗教より良心的と言えるかもしれないが、何かモヤモヤしたものが残る。
多元的世界における伝道という観点からこの問題を考えると、このモヤモヤの正体がはっきりする。かつて宗教改革においてサクラメントが七つから二つに削減され、例えば神学的にも離婚が可能となったように、いつの日か洗礼がサクラメントでなくなり、取り消し可能となる日が果たしてくるのかという問題である。複数の救済を前提とする宗教多元主義の立場に立てば、これは必然の展開ということになる。ある宗教から他の宗教へ乗り換える。それを制度としても、神学としても保障する必要があるということなのだ。(つづく)
川島堅二(東北学院大学教授)
かわしま・けんじ 1958年東京生まれ。東京神学大学、東京大学大学院、ドイツ・キール大学で神学、宗教学を学ぶ。博士(文学)、日本基督教団正教師。10年間の牧会生活を経て、恵泉女学園大学教授・学長・法人理事、農村伝道神学校教師などを歴任。