【宗教リテラシー向上委員会】 イードのグリーティングカード サイード佐藤裕一 2025年6月1日

 イスラームには二つのイード(祭日)がある。それがイード=アル・フィトゥル(断食明けの祭り)とイード=アル・アドゥハー(犠牲祭)だ。

 前者は文字通り、イスラーム暦9月の断食月であるラマダーン月が明けた日の祭り。後者は同12月の10日目、ハッジと呼ばれる大巡礼の主たる儀式が終了した日の祭りである。ちなみに今年の日本におけるイード=アル・アドゥハーは、西暦6月6日になる見込みが強いとされる。

 二つのイードにはそれぞれ独自の宗教歴史的背景と特徴があるが、共通点も多い。例えば、イードの特別集団礼拝の形式は同じだ。推奨されることとしては、そこに向かう前に身なりを整え、なるべくよい服を着て参加すること。タクビール(アッラーの偉大さを賛美する言葉)を、多く唱えること。礼拝の場所へ向かう道と帰る道で、異なるルートを選ぶこと。お祝いの言葉を交わし合うこと、などがある。

 イードの日々に交わし合うあいさつの言葉には、アラビア語による定型のあいさつや祈願の言葉もあれば、各国の文化や言語に特有の表現もある。前者の例としては、「Taqabbalallahu minna wa minkum(アッラーが私たちとあなた方から、お受け入れ下さいますよう)」などがあるし、後者であれば、マレー語系なら「Mohon maaf lahir dan batin(外面的にも内面的にも、おゆるしください)」や、トルコ語なら「Bayramımız mübarek olsun(私たちの祭日に祝福あれ)」といった具合である。

 このイードのあいさつは基本的には対面で行うものだが、昨今の通信手段の発達により、その形式や範囲に大きな変化が現れている。SNSや画像作成アプリの普及により、SNSを介してメッセージカードを送る文化が浸透してきた。

 かくいう私もイードの日には、アプリで簡単な画像や動画にお祝いメッセージをつけて作成し、SNSで送ることが重要なルーティンになっている。20年ほど前まではメール文のみだった。今でも相手によってはかしこまったメッセージテキストのみだが、それも少数派になってきた。お世話になった人々、先生、友人、知り合いなどに送付すると、年賀状ほどではないにせよ結構な手間がかかるが、一人ひとりの名前を確認しつつ行うこの作業の内には、大きな意義があると感じている。お世話になった人々や旧友らを思い出し、その恩や思い出を振り返ったり、彼らのために祈ったり、同胞としての絆を維持したりするための重要な機会となっているためである。

神戸モスク関係者から送られてきた桜を基調にしたイードのグリーティングカード

 SNSで送られてくるグリーティグカードを見るのも趣深い。世界中のさまざまな文化的背景をもったムスリムたちならではの特徴があるからだ。自分で丁寧に作成したもの。おしゃれに着飾った自分の写真入りのもの。自分の会社の宣伝入りのもの。ネット上のフリー画像。毎年何名かは、他人名義のものをそのまま転用して送ってくる人もいて、微笑ましくなる。

 ちなみに今年の日本のイード=アル・フィトゥル(断食明けの祭り)は桜の時期と重なったため、日本在住ムスリムのものは、桜をバックにしたセルフポートレートのものがトレンドとなっていた。

 さいーど・さとう・ゆういち 福島県生まれ。イスラーム改宗後、フランス、モーリタニア、サウジアラビアなどでアラビア語・イスラーム留学。サウジアラビア・イマーム大卒。複数のモスクでイマームや信徒の教化活動を行う一方、大学機関などでアラビア語講師も務める。サウジアラビア王国ファハド国王マディーナ・クルアーン印刷局クルアーン邦訳担当。一般社団法人ムスリム世界連盟日本支部文化アドバイザー。

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