口に出せない思い 祈りとラップで 教会でのワークショップが好評 詩人・ラッパー FUNIさんインタビュー 2025年6月1日

在日大韓基督教会川崎教会で育った「2世」として、「自分は何者か」というアイデンティティに葛藤を覚えながら、ラップに出会い、その魅力を発信し続けるラッパーのFUNIさん。近年は少年院や教会でのワークショップを通し、口に出せない思いを肯定できるコミュニティ作りに尽力する。唯一無二の活動に込められた願いとは?
――キリスト教との出会いは?
もともとは母が、在日コリアン1世が立ち上げた川崎の教会に通い出したのがきっかけです。初めは気兼ねなく韓国語で話せるコミュニティを求めていたようですが、信仰を持つようになって。その後、父も母に引っ張られて教会に通いはじめ、信仰を持つようになりました。
――教会はどんな雰囲気でしたか?
在日コリアンに対する民族差別が激しい中に建てられた教会で、さまざまな困難と向き合ってきました。単にテキストとしての聖書を学ぶだけでなく、日本社会における生きづらさをムーブメントで変えていこう、という社会活動の拠点にもなっていました。
僕が通っていた教会も、当時、外国人の子どもを受け入れる保育園がほとんどない中で、日本でめちゃくちゃ働いていて、子どもの面倒を見てもらわなければ働くことさえできない外国人労働者のために創設したものなんです。その後、社会福祉法人として認可を受け、障害がある子どもたちのケアなど、社会から「弱者」とされている人々に寄り添う活動を続けています。
教会というとホーリーなイメージがあると思うんですが、僕らは礼拝に出ず、仲間で屋上に集まってタバコを吸っていました。僕がラップに出会ったのも教会の屋上なんです。不良の先輩にCDを貸してもらって、「超ヤバイ!」ってハマって。それからは、毎週日曜はみんなで、屋上でラップしていましたね。
今でこそ市民権を得ていますが、アンダーグラウンド、「不良の音楽」と思われがちでした。親にもヒップホップなんて、と反対されたんですが、ある年に教会のクリスマス会で披露したところ、大評判だったんです。
――どんなことを伝えたのでしょう?
「世間に在日コリアン=かわいそうな人たちみたいなレッテルがあるとしたら、そんなのクソでしょ」とか、「俺たちの人生は俺たちで決めるんだから、勝手に決めつけるなよ」とか……。まだオリジナルではなく、コピーに近いような形でしたね。当時の自分たちはクリスチャンとして生きていくことも、神様の存在も、お祈りもだるくて、「俺たちには俺たちのやり方があるんだ」と思っていたんですね。その思いをそのまま爆発させました。めちゃくちゃ怒られるんじゃないかと思っていたんですが、むしろ「いいじゃん」という反応で。
僕が通っていた教会の社会的なムーブメントって、まさに「ストリート」文化なんですよね。ストリートなんだけれど、活動する中でドグマ化されていく雰囲気を僕らは肌で感じていた。
どうやら黒人教会のあり方も似ていて、公民権運動では路上で「Power to the People!」と叫んだりしていたのに、僕らの世代になると「教会に来る時はちゃんとした服装で来い」とかドグマ化されていったみたいで。
本当は「自分たちは一体なんなのか」を知りたくて、救いを求めていたのに、教会がその答えをくれるわけでもなく、むしろ教会が用意するフォーマットに合わせられないなら出ていけ、という雰囲気でした。
――当時、信仰は持たれていたんでしょうか?
本当に信仰心が芽生えたのは、27歳で本当に自分じゃどうにもならないことを体験した時に「祈る」ことができたからだと思います。すごく辛かったり、大切な人を傷つけてしまったりといった経験を経て、「祈り」は本当にどうしようもなくなった時に、唯一与えてくださるオプションだと思っているんです。自分では何もできない、どうしたらいいか分からない中で、待たなきゃいけなくて。この「待つ」時間が一番厳しくて、祈ることができたからこそ、耐えられたんだと思います。
聖書に書かれている「ことばが受肉する」ことを言語化して伝えるのはすごく難しいんですが、ただ「平和」だとか「幸せ」といった言葉を散りばめるよりも、もっとリアルに、誰かを傷つけてしまった時のような、罪を犯した感覚、手触りや、「自分はめちゃくちゃ痛かったし、辛かった」と表現することで、むしろその裏側にある平和が実感として伝わるんじゃないかなと感じています。
ラップには二つの段階があって、第一段階が「怒り」です。例えば「なんで日本で産んだんだよ」とか「なんでキリスト教の家庭に生まれたんだ」とか、疑問や怒りをエネルギーに、ストレートに表現する。ある程度の年齢になればそういった疑問もなくなり、社会に順応してきます。そうすると第二段階として、本当に痛んで言葉にすることさえできない人の代わりに発信する。実際は代弁なんて不可能なんです。それをわきまえた上で、それでも誰かが言わないといけない、その部分を担いたいなと。そんな思いから、ラップワークショップを始めました。
(聞き手 河西みのり)
*インタビューの全文は「たまものクラブ」(https://bit.ly/4jm7wAX)に掲載中。
FUNI
神奈川県川崎市生まれ。ラップデュオ「KP(Korean Power,Korean Pride)」のFUNIとして東芝EMIよりメジャーデビュー。現在はHHT(HipHop therapy)を軸としたラップワークショップを実施。2015~2020年、タンザニア、ケニア、エチオピア、ルワンダなどの東アフリカ、イスラエル、パレスチナ西岸地区、ナガランド、カンボジアなど、世界のスラムと山岳地帯を放浪しながら楽曲を制作した。「KAWASAKI~未来世紀カワサキ~」「KAWASAKI2 ~me,we~」に次ぐアルバム「Sinkawasaki ~re-present~」=写真下=を4月末にリリース。