「MAGA」トランプ支持キリスト者が新教皇を恐れるべき理由 2025年6月12日

 新教皇レオ14世の選出は希望をもたらす。なぜなら、彼は世界に対し、宗教的信念が民族主義的権力に奉仕する必要がないことを想起させるからだ。オバマ政権下で第3回「宗教と地域社会パートナーシップ」諮問委員会の議長を務めたジェニファー・バトラー牧師が「レリジョン・ニュース・サービス」に寄稿した。


 新教皇の選出は、シカゴ出身でペルーで数十年間を過ごした彼が、尊厳、連帯、慈悲を基盤とした現代的なグローバル主義の視点を持つ指導者として現れたため、慰めのようなものだった。カトリック教徒と非カトリック教徒の両方から受けた温かい歓迎は、彼の展望がどれだけ必要とされているかを示している。

 しかし、一つだけ熱狂的ではないグループがある。「これはすべて非常に計算された動きだ」と、トランプ陣営に近いキリスト教国家主義のインフルエンサー、ショーン・フート氏は警告した。「彼らは自由世界の指導者を批判するために西欧から意図的にグローバル主義者を選び教皇にまつり上げた」

 トランプ大統領の国家安全保障人事に関する助言者でもある極右コメンテーターのローラ・ルーマー氏は、レオ14世を「仕立て上げられたマルクス主義教皇」また「バチカンのマルクス主義の操り人形」と呼んだ。

 なぜこれほど激しい反応があるのだろうか?それは、レオがリベラルな神学観を信奉しているからではない。彼は、セクシュアリティや中絶に関しては伝統的なカトリックの立場を取り、多くの保守派が好む典礼の形式主義を好む。レオが「MAGA(Make America Great Again)=トランプ支持者」の火種となったのは、カトリックの教義から劇的に逸脱したからではなく、彼の世界観が、現代の権威主義の台頭を支えるキリスト教ナショナリストの勢力を直接脅かすからだ。彼は、急速に拡大する権威主義的な宗教ネットワークに対する、国境を越えた対抗勢力となる存在となる恐れがあるからだ。

 コンクラーベの前に、レオはロバート・プレヴォスト枢機卿として、トランプ米大統領とエルサルバドルのナイブ・ブケレ大統領が、米国からブケレの刑務所に送還される移民たちを嘲笑したことを批判する投稿をリツイートした。また、後に教皇となる彼は、キリスト教徒は世界的なニーズよりも自国を優先すべきだという J・D・ヴァンス副大統領の「オルド・アモリス(愛の秩序)」の主張にも異議を唱えた。「イエスは、他者に対する愛に順位をつけることを私たちに求めてはいない」と同枢機卿はポストした。

 これは、キリスト教徒が従うべき「愛の秩序」に関する些細な神学論争ではなかった。これは、キリスト教ナショナリズムのイデオロギー的基盤、すなわち、信仰は国家のナショナリスト的権力に奉仕し、人権を犠牲にして国家の主権を保護すべきである、という主張に対する直接的な反論だった。

 キリスト教ナショナリズムは、アメリカだけの現象ではない。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、正教会を利用して、ソ連の権威主義の遺産を美化し、ナショナリズム的な侵略を正当化している。ハンガリーのヴィクトル・オルバン首相は、キリスト教ナショナリストの戦略を洗練化させ、移民を国の崩壊と結びつけ、欧州連合(EU)の当局者をハンガリーのキリスト教のアイデンティティに対する脅威として描いている。

 ウガンダでは、ヨウェリ・ムセベニ大統領がアメリカの保守派キリスト教徒の影響を受けて、LGBTQ+コミュニティを犯罪化し、迫害、投獄、さらには死刑の可能性にさらしている。ブラジルでは、ジャイル・ボルソナロ氏(ブラジルのトランプと言われる大統領選にも出馬したことのある極右政治家)同様の手法を用いて福音派キリスト教徒を動員し、最近の選挙で対立候補が教会を閉鎖するよう要求した。その選挙に敗れた後、彼は1月6日の事件(2021年の議事堂襲撃事件)を想起させる反乱を扇動し、キリスト教の旗じるしを振りかざす群衆が政府施設を襲撃した。

 アメリカのキリスト教右派は、宗教的アイデンティティと権威主義的な支配を融合させたこの国際的な運動の形成において中心的な役割を果たしてきた。その指導者たちは、文化的に、政治的に、そして財政的に国境を越えて協力し、厳格な道徳秩序を強要し、世論を分断し、民主的機関を侵食している。

 化石燃料の億万長者から資金提供を受け、スティーブ・バノン氏(アメリカの政治戦略家、投資家、メディア幹部)のような極右活動家の戦略的支援を受けるキリスト教国家主義者は、性の権利の後退、強権指導者の支援、反民主主義的なメッセージの拡散を目的とした国際的なネットワークを構築してきた。彼らは、特に東欧、ラテンアメリカ、アフリカで同調する政府との同盟関係を築いてきた。今月、米国を拠点とするキリスト教右派の指導者たちは、国家政府内にキリスト教国家主義の勢力を浸透させることを目的として、アフリカで大陸規模のサミットを開催する。

 それを結びつける基盤とは? 宗教を権威主義的統合の正当化に利用し、反対意見を神聖冒涜としてでっちあげるという共通の戦略だ。

 レオ14世の選出は、すべてのグローバルな宗教機関が黙従しているわけではないことを示している。

 評論家たちは、レオがフランシスコ教皇の精神に沿い、グローバルな右派から標的とされている社会的弱者と教皇制を一致させる方針を継続すると予想している。フランシスコ教皇は、サンタ・マリア・マッジョーレ大聖堂に入場する自身の棺を直接受け取るよう、40人の移民、トランスジェンダーの人々、ホームレス状態にある人々を招待した。

 その意味するところはそのような象徴的なものを超えている。世界最大の宗教機関であるカトリック教会は、世界情勢において複雑な役割を果たしており、しばしば世論を形成し、政治同盟に影響を与えている。レオは、二極化と、外部の人々に思いやりを示すことは弱さであると信者に説得することで繁栄するキリスト教ナショナリスト運動の前提を拒否していることをすでに示している。ヴァンス氏へのツイートでは、国家主権は人権よりも優先され、政治的暴力は「信仰」の正当な防衛手段であるという考えを否定した。

 「MAGA」の影響力ある人々は、レオが発言すると、カトリック教徒だけでなく、明快さに根ざした精神的指導者を求める他の人々も耳を傾けることを理解している。彼の批判者たちは、その影響力の大きさをよく知っている。

 だからこそ、レオ教皇の選出は希望をもたらすのだ。なぜなら、彼は、宗教的信念はナショナリズムの権力のために奉仕する必要はないことを世界中に思い起こさせるからだ。その代わりに、宗教的信念は、弱者を保護し、すべての人の尊厳を尊重し、あらゆる形態の専制政治に抵抗するという、世界的な責任を私たちに呼びかけることができるのだ。

 精神的な指導者と政治的操作の境界線が危険なほど薄れているこの瞬間、それについて思い起こすことはこれ以上ないほどタイムリーなことだ。

(ジェニファー・バトラー牧師は、Faith in DemocracyFaith in Public Lifeの創設者であり、オバマ大統領の第3回宗教と地域社会パートナーシップ諮問委員会の議長を務めた。本コメントの意見は、Religion News Serviceの立場を必ずしも反映するものではない)

(翻訳協力=中山信之)

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