LWF初の女性事務局長 アンネ・ブルクハルト氏来日講演 〝平和を語ることは行動すること〟 2025年6月21日

ルーテル世界連盟(LWF、本部=ジュネーブ)初の女性事務局長、アンネ・ブルクハルト氏によるエキュメニズム講演会(日本福音ルーテル教会エキュメニズム委員会、日本聖公会エキュメニズム委員会、日本カトリック司教協議会エキュメニズム部門共催)が5月22日、日本福音ルーテル東京教会(東京都新宿区)およびオンライン(YouTube配信)によるハイブリッドで開催された。テーマは「平和を実現する人々は幸いである――平和構築のための世界のキリスト教会の役割と使命」。
LWFは、世界のさまざまな国に存在するルーテル派の教会によって組織されている団体。人道支援、世界宣教と教育、神学、研究、国際問題や人権問題への関与、他教派や他宗教との対話などを主な働きとし、76カ国、136のルーテル教会がメンバーとして加盟し、会員数は6千万人以上にのぼる。エストニア出身のブルクハルト氏は、宗教改革500周年記念のコーディネーター、17年にナミビアで開催された第12回LWF総会のコンテンツ・コーディネーターなどを経て、21年11月より、女性として初めて、また東欧出身者として初めてLWFの事務局長に就任した。
講演の中で強調するのは、LWFの神学的な信念でもある「教会の一致」。ブルクハルト氏は「私たちは、教会が共に集まり、平和と希望を分かち合うために協働する物語を持っている」と述べ、分断や両極化、暴力の著しい世界にあっては「教会の一致」はさらに重要なものとなると力を込める。具体的な信仰告白に根ざし、同時に他者との協力姿勢を保つことは、大衆に迎合する政治家たちが自国の関心や保護貿易を最優先課題とする今日において、一つのあり方を示すことになるのではないかと提起した。
また、マルティン・ルターが、「ひとりの神を持つことは、私たちが良いものを期待し、困難にあってはそこに救いを求めることである。神を持つとは、根本的に信頼であり、私たちの心をつなぐものだ」と書き記したことを通して、偶像に対する警告を伝えた。宗教を取り込もうとするあらゆるイデオロギーは、偶像となり、教会の信頼を福音以外のものに寄せてしまう誘惑へとつながる。神を信頼するならば、私たちの証しは軍国主義的な力や国粋主義的な計画、文化的統一に抵抗しなければならないという。
神学についても、対話や多様な文脈や批判から切り離されて孤立のうちに探究される神学は、自分だけの文化や理想などに囚われてしまい危機的なものだと指摘する一方、開かれた姿勢で他者と共に教会や大陸、文化のそれぞれの違いを超えてなされる神学には回復力や弾力性があると話す。LWFは、こうした神学的な働きに立ち、過去にルター派と改革派、ルター派とカトリック教会の対話を実現させ、和解してきた。
さらに、「和解した、一致した」という言葉には注意を払わなければいけないと注意を促す。互いの違いを真剣に受け止めることをせず、異なった部屋に住むことで対立がないというのは、見せかけだけの一致にすぎない。本当に和解した多様性は、違う一人と互いに向き合い、そこから学ぶ。そして、違いがもはや私たちの神学や宣教におけるキリストの慈しみと神の中心性を損なわないものになった時、初めて和解したと宣言することができるのだ。
「どちらかが負けるのを目指すのではなく、むしろ共通点は何かを探ることが目的。対話において大事なのは、この対話自体が互いへの贈り物であり、口論ではないと受け入れること。どちらかが勝者だとするのではなく、対話する相手をよりよく理解し、できれば相手から学びたいということがその目的だから。互いの違いを消すことではなく、違いを認めているところからはじめないといけない」とブルクハルト氏。
そして、平和を語る時、暴力の不在を見るだけでは不十分であり、争いの根本となる原因を取り除くことが必要だと述べ、LWFにおいて、暴力の根本的な原因に取り組むことで平和の実現に取り組んでいることを紹介した。これには難民や少数派の民族の人たちの権利擁護、気候変動への啓発、女性と男性の平等な権利の擁護が含まれている。この啓発活動においては、全ての人が神の像にかたどられて創造されたという創世記1章にある事実に基づき、人間の尊厳を保護することを目指していることを強調した。
「戦争とは異なり、平和は一方的に宣言されるものではない。平和は常に多国間の取り組みだからだ。また忍耐とそこに固く立ち続けることが大切」と平和の本質について語り、平和を築くためには、地域社会や国家間、そして宗教を超えた関係性を作り、育むことが不可欠であるとし、LWFはこの道を歩み続けることを明らかにした。さらに、平和を語るとは平和のために行動することだと述べ、常に「語る」と「行動」を一緒に行っていくことを話した。
最後に、外交の本質についても触れた。外交は共生を実現すること、より率直には暴力の防止であり、「私は、これが一致のための私たちの活動と平和のための活動とに関わる根本的な問いであると考えている」と発言。「私たちは共生することを目指して共に取り組んでいるのか、それとも単独で取り組んでいるのか」と問いかけ、次のLWFのビジョンを示し、「これが私たちの目指す世界であり、そこで生きたいと思う世界です」と締めくくった。
「神の恵みによって自由にされ、教会の交わりが公正で平和に満ち、和解された世界の中で共に生きて共に働くこと。これが私たちの使命、私たちの召し、私たちの仕事です。私たちは平和を求める巡礼者として共に歩み、共に証しを立てるのです」
講演の模様は日本福音ルーテル教会のYouTube(https://www.youtube.com/live/Zeq434wsrZM?si=L8sHtjTkAjAAUVs2)でも視聴可能。