『侍タイムスリッパー』安田淳一監督が登壇 日本カトリック映画賞授賞式 2025年7月21日

今年2月に発表された第49回日本カトリック映画賞(シグニス・ジャパン=カトリックメディア協議会=主催)の授賞式・上映会が7月12日、日本教育会館一ツ橋ホール(東京都千代田区)で開かれた。受賞したのは安田淳一監督の映画『侍タイムスリッパー』。授賞式・上映会の後には、シグニスジャパン顧問司祭の晴佐久昌英氏(カトリック市川教会主任司祭)と安田監督との対談も行われた。会場には約700人が集まった。
映画『侍タイムスリッパー』は、幕末の侍が現代の時代劇撮影所にタイムスリップして「斬られ役」として生きなおすという時代劇コメディ映画。昨年8月に単館から始まり、口コミで評判を呼び、上映館はたちまち350館以上に広がった。観客を巻き込むストーリー展開と安田監督の時代劇愛に共感する人たちからは、「侍タイ(さむたい)」と呼ばれ、第67回ブルーリボン賞作品賞、第48回日本アカデミー賞最優秀作品賞も受賞している。
安田監督は、同作が自主制作3本目となる。この作品では脚本、原作など1人11役を務め、資金繰りのために愛車を手放すなど同作の完成の道のりには多くのエピソードが残されている。日本カトリック映画賞選定にあたっては、この映画の稀にみる面白さ、人間の素晴らしさを謳った普遍的なメッセージ性が高く評価された。
シグニス・ジャパン会長の土屋至氏から表彰を受けた安田監督は、「僕はクリスチャンではないし、神さまの教えがこの作品にあるかは分かりませんが、主人公が困難な境遇に陥って、それでも人生を諦めることなく、新しい人生を豊かに歩み出すというところは、もしかすると神さまの教えに似ているのかなと思っています。平和を希求するという意味でも、信仰の道と相通じるものがあったのかもしれません」と喜びを語った。
上映会に先立ち、顧問司教の酒井俊弘氏(大阪高松大司教区補佐司教)は鑑賞するにあたり、「喜ぶ者と共に喜び、泣く者と共に泣きなさい」(ローマの信徒への手紙12章15節)を引用し、映画を見る際の心持ちについて「映画に入り込んで登場人物たちと、あるいは登場人物の1人となって共に喜ぶ、それは人として私たちが追求していくもの。そういうことを味わわせてくれる素晴らしい映画」と評した。
上映後、安田監督と晴佐久氏との対談が行われた。上映中の会場の様子について問われた安田監督は、「クリスチャンの方がこの映画をどのように感じてくれるかとても気になっていたのですが、地方のホール会場と同じだったので安心しました」と感想を述べた。
現代にタイムスリップした主人公が、テレビに映る時代劇を見て涙を流して感動し、「人の世の悲しみ、喜びが、誠のものとしてありました」という台詞に救われる思いがしたと晴佐久氏が話すと、安田監督は「自分が作ったものをああいうふうに見てもらえたら嬉しいと思うし、あんなふうに言ってもらいたいという理想の答えでもあります」と胸の内を明かした。
日本カトリック映画賞は日本アカデミー賞よりも規模の小さい映画賞だと晴佐久氏が述べると、安田監督は「受賞を聞いてとても嬉しかった。皆さんの思いで作られた手作りの映画賞だと感じています。何よりも、面白い場面では思いっきり笑い、悲しい場面では思いっきり泣いて、素直な気持ちで鑑賞してくれる皆さんの前で賞をいただけたことをものすごく嬉しく思っています」と力を込めた。
さらに「苦しんでいる思いを描くというのは大事なことだと思いますが、苦しんでいる人を助けたりするのは、本来宗教の役割であるし、さらに言えば行政がやるべきこと。映画はそのきっかけは与えるけれども、映画から問題提起をしたりするのはどうかなと思うところがあります。映画を見た時の元気で、苦しい現実と闘うようなそういう映画を作りたいなと思っています」
もともとテレビの時代劇が大好きだと話す安田監督。理由は、そこに描かれている市井の人たちが、損得抜きで助け合うという姿に心惹かれるからだという。「温かいコミニュティに憧れているけれど、実際には全然ありません。でも、こういう映画で人と人のつながりが一番大事だよねと感じて、会場の皆さんも帰り道で友だちになって、仲間になれたらどんなにいいか。映画にはそういう力があると本当に思う」と晴佐久氏。
泣いて笑って、人を喜ばせる映画を作る安田監督に、神父としても親近感を抱いていることも打ち明け、皆を心から喜ばせることができる作品を作った安田監督に敬意を表した。
(本紙・坂本直子)