【宗教リテラシー向上委員会】 ハッジ巡礼のユニークさ サイード佐藤裕一 2025年8月1日

今年度(イスラーム暦1446年度)のハッジ巡礼に参加する機会を得た。
今年は171の国籍、167万人がハッジに参加したと発表されている。日本からのハッジ巡礼者は、計160人ほど。その8割程度は滞日インドネシア人だ。私自身は改宗者を中心とする日本人グループの随行を務めた。
イスラームの宗教行事は太陰暦に依拠しているため、ハッジの季節は年によって異なる。今年のハッジにおける実質的な宗教儀礼は西暦の6月4日に始まり、6月9日で終わった。サウジアラビアでは暑さが厳しくなってくる時期だ。日中は温度計が50度を超える時もあり、日光の強さは脳天から焼き付けるようである。
私が今回のハッジで改めて感じたのは、その行のユニークさだ。イスラームの他の宗教儀礼と比べると、それは特に際立つ。ハッジは「六信五行」の五行の内でも最後に義務づけられた、いわばイスラーム宗教儀礼の集大成だ。例えば礼拝は1日5回、喜捨は年に1回、断食は年に1度1カ月間義務づけられているが、ハッジの義務は一生に1回だけ。それもそのはず、ハッジの負担はさまざまな意味で非常に大きい。まず1年の決められた期間において、アラビア半島にあるマッカ(メッカ)を目指さなければならない。現在、ハッジに参加するには専用パッケージツアーを購入するしかないが、日本からの平均的な費用は1人140万円ほど。国に扶養家族などを残していくのであれば、自分が不在中の彼らの生活費も工面しなければならない。

巡礼期のマッカのカァバ神殿
ハッジにおける行は、非常に多様である。巡礼者は祈り、歩き、立ち、走り、飲み、投げ、眠り、屠畜し、髪を切る。マッカのハラーム・モスク周辺で言えば、カアバ神殿のタワーフ(逆時計回りに7周まわる行)、サァイ(二つの丘を3往復半する行。男性は途中走るべき箇所がある)、礼拝、ザムザムの水を飲むことなどがある。郊外では、ミナーというテント村への移動と宿泊、アラファという台地への移動とそこにおける祈り、集団礼拝と説教、ムズダリファという場所での野営、柱に向かっての投石(3〜4日間にわたって計63個か70個投げる)、犠牲の屠畜(現代では代行業者に委託するのが主流)、剃髪または髪の毛を切ることなど、とにかく「種目」が多岐にわたる。

男性にとっての巡礼の行の一つ、剃髪。
これらを数日間にわたり、暑さ、移動の待ち時間の長さ、混雑、睡眠不足、ストレスの中で行うのだから、心身ともにかなりのスタミナが要求される。しかも大方の場合、「ハッジ風邪」に苦しまされる。ハッジの行を必要最低限レベルでしか行わなかったとしても、ハッジの間に最低60キロは歩くと言われる。しかし多くの巡礼者にとっては一生に1回の機会。必要最低限のことだけで十分とする者は、むしろ少数派だ。
今回、私にとっては4回目、18年ぶりのハッジとなった。またいつ巡礼へのお呼びがかかるかは分からないが、心と体の準備はいつでもしておかねばならない。
さいーど・さとう・ゆういち 福島県生まれ。イスラーム改宗後、フランス、モーリタニア、サウジアラビアなどでアラビア語・イスラーム留学。サウジアラビア・イマーム大卒。複数のモスクでイマームや信徒の教化活動を行う一方、大学機関などでアラビア語講師も務める。サウジアラビア王国ファハド国王マディーナ・クルアーン印刷局クルアーン邦訳担当。一般社団法人ムスリム世界連盟日本支部文化アドバイザー。