【宗教リテラシー向上委員会】 戦後80年 キリスト教的現実への眼差し 與賀田光嗣 2025年8月11日

 勤務校である神戸国際大学附属高校、また同大学では毎年8月5~6日「ヒロシマ平和旅考」が実施されている。広島へ旅をし、平和について考えるというプログラムだ。5日には被爆証言を聖公会の教会で聞き、夕方にはカトリックと合同で祈りをささげる(平和のための集い)。聖公会関係学校からの参加者と夕食を共にし、互いの思いをシェアする。そして翌6日には平和礼拝(聖餐式)が行われる。

 例年行われている「ヒロシマ平和旅考」だが、今年度はひょっとすると特別な年になるかもしれない。戦後80年という節目ということもあるが、それ以上に被爆証言の語り部が高齢化し、肉声で原爆について知る機会が失われるかもしれないからだ。人生を通した言葉、実存を懸けた言葉ほど人を動かすものはなく、まして青年期にとっては大きなものである。ことに戦争と平和に関する言葉は貴重である。

 思い返すと私もさまざまな言葉を贈られてきた。被爆証言、沖縄のガマの声、今なお不安定なコンゴ出身の学者、イギリスの高齢者たち、そしてもっとも身近な父の戦争体験である。父は大正15年生まれであり、外地育ちだった。私が小学生のころ、親の子ども時代のことを聞いて作文を書くという課題があった。父の口から出た旅順や大連という地名を日本の地図帳で探しても見当たらなかったことを覚えている。旅順や大連(関東州)を訪れたいかと聞いてみると、日本が本当の意味で責任を果たすまでは行くことができないとの返事があった。

 父は旅順旧制高校から、大阪帝国大学工学部造船学科へ進学した。外地の港町育ちであったため、船が好きだったらしい。だが、その時代に求められたものは軍艦だった。父の実家が裕福だったこともあり、また技術者の卵ということもあって父は徴兵されなかった。空襲の合間に船の図面を引いていたそうだ。

 敗戦時、大阪は焼け野原となり多くの戦災孤児たちがいた。ある牧師が中心となって子どもたちのための児童養護施設が作られた。父が師事していた教授がクリスチャンだったこともあり、学生たちや若い聖職者たちが協力したという。その施設は戦闘機・紫電改で有名な元川西航空の社員寮を借用して始められたことに「戦後」と「平和」の意味を感じる。こういった戦争体験もあってのことだろう。父は司祭としての人生を歩み始めた。

 戦争を知らない私は、戦争を知る人々によって築かれた「戦後」と「平和」に生きている。だからこそ、その人々の実存を懸けた言葉を継承していかなければならない。それは祈りだからだ。その一つとして、戦後間もないころの父の手記を引用したい。

 「『唯一のみの現実が存在する。それは基督教的現実である』(キェルケゴール)。我等は一つの世界のみが存在していることを知る。さうしてその一つの世界にあるものが一つの世界にあるべき状況にない現実をも知る。さうしてこの世界の秩序を乱しているものは、人間のみであることを見る。不義の世、教会の信徒は眠っているのだらうか。世は、地上のみを唯一の存在と仮定せるが故に、現実と矛盾せる人間生活を強行し、暗きに辿るのである。さうして見えるもの見えないもの全ての存在に対応して生きる真理を悟らない。否。却って逆に、地上のみの限定をもって自らの生活を、真の地上的生活を否定するのである。地上生活の完成は、天上に対して存在する地上なる現実に立つ努力に他ならない。自らには、この唯一の現実を理解し、この唯一の現実に生活し、この唯一の現実に世を戻すこと、この三つに努力することを汝の一生とし、汝の一年とし、汝の一日とせよ」

與賀田光嗣(神戸国際大学付属高等学校チャプレン)
 よかた・こうし 1980年北海道生まれ。関西学院大学神学部、ウイリアムス神学館卒業。2010年司祭按手。神戸聖ミカエル教会、高知聖パウロ教会、立教英国学院チャプレンを経て現職。妻と1男1女の4人家族。

【宗教リテラシー向上委員会】 葉桜の復活日 與賀田光嗣 2025年4月11日

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