DVD『神の沈黙』が向き合った問い 第三者の目線で15年 在原義男さんインタビュー 2025年8月11日

 「神はなぜ沈黙しているのか」――遠藤周作の『沈黙』が問いかけた神の不在。その問いに、時代と場所を越えて重なる長崎のキリシタン弾圧と原爆。このたびクラウドファンディングでの支援も得て完成したDVD『神の沈黙』(ライフ・クリエイション)は、過去7作で累計1万枚を超える歴史ドキュメンタリー「目からうろこ」シリーズの新たな一歩となる。同シリーズに長く携わり、本作でも構成・脚本・撮影・演出を手がけた在原義男さん(株式会社ムジカリタ)に話を聞いた。

――いつからこのシリーズに参加されていますか?

在原 福音歌手の森祐理さんが童謡、賛美歌のルーツを探る第1作『永遠のふるさと』(構成・脚本=鹽野佐和子)が2010年ですから、早15年になります。当時はキリスト教をはじめとする宗教にまったく興味がなく、恥ずかしながらカトリックとプロテスタントの違いすら分からなかったので一度お断わりしたのですが、そういう人にこそ関わってほしいと熱心に誘っていただいて……。

――1作目も取材の段階から関わってこられた?

在原 はい。ただ、やはり私自身はクリスチャンではないので、なるべく一般の視聴者の目線で距離を取りつつ企画に携わるというスタンスで、毎回そのせめぎ合いですね。制作者はあくまで冷静に、常にフラットでいなければと思います。一般の人からどう見えるかという点にはいつも神経を注いでいます。もちろん仕事として引き受けているので、クライアント、出版社の最終的な決定には従いますが、最低限の矜持としてプロパガンダ的な映像は絶対作りたくないと思っています。非常にありがたいのは、良い映像作品を作りたいという思いは一致しているので、こちらの意見も取り入れてくださっていることです。

――それほど長くシリーズに携わりながら、かつ一線を引いて外部の目から見て、キリスト教はどう映っていますか?

在原 20代のころ、イタリアを2週間ほど訪ねた際、現地の教会や美術館を案内してもらっているうちに、キリスト教を知らないと西洋文化の良さや、芸術の素晴らしさが分からないということに気づいたんです。それが根底としてあり、本シリーズに携わるようになってから、キリスト教の歴史の奥深さ、敬虔なクリスチャンの持つ思いの清らかさや崇高さには打たれるところがあります。今でも敷居の高さは感じますが、クリスチャンも普通の日常生活を送っており、いろいろな葛藤や悩みがあるということを知るだけでもだいぶ受け止め方、印象が変わってきたと思います。

ナビゲーター役の久米小百合さんと撮影に臨む在原さん(右、撮影=石黒ミカコ)

――本作『神の沈黙』はいわゆる神義論的な、長い歴史もある命題について、この長さの映像である種の答えのようなものを提示するという……なかなか挑戦的な試みですね。

在原 原爆とキリシタン弾圧という二つの歴史的事象を扱うわけですが、その間にはおよそ400年の時があるわけで、それを一つの作品の中で描くという難しさはありました。でも、まったく違うものとして描くわけにもいかないので、しっかり年代を追って一つの時間軸で描くように工夫しました。

――原爆を「神の沈黙」とすることには異論もありそうですが。

在原 「神様なんかいない」「いるならなぜ戦争を止めない?」――クリスチャン以外なら皆そう思う気がします。そこをしっかり提起しないと始まらないし、なんとなくオブラートに包んで綺麗事にしてあいまいにすると、私が作る意味があまりない。単純にキリスト教的言説によって、ぼかしてはいけない。日本が唯一の被爆国として、核兵器廃絶の原動力にもなっている中、長崎という土地の持つ歴史的な意義は大きいと思うんです。

 戦後、崩壊した浦上天主堂跡で営まれた合同慰霊祭で、「神の摂理によって爆弾がこの地点にもち来らされた」と表現した永井隆博士の弔辞が議論を呼びました。本当にすべてを失った人たちに、どう言葉をかけたらいいか分からない。でも、絶望を前にしている人に対して、同じ被爆者として苦しみながら出した答えだったと思うと、少し理解できるような気がします。

――どんな反応を期待しますか?

在原 クリスチャンの皆様の反響、感想は当然楽しみですが、私と同じくクリスチャン以外の方がキリスト教の歴史や聖書の教えに、少しでも興味を持ってもらえると嬉しいです。その思いはシリーズ1作目から通底しています。

――ありがとうございました。

*DVDに関する問い合わせはライフ・クリエイション(☎03-5341-6927)まで。

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