塚田穂高氏が「継承」の視点で「宗教2世」問題を再考 「キリスト教的良心」主題に基督教学会 2025年9月10日

日本基督教学会第73回学術大会が9月2日、3日の両日、同志社大学今出川キャンパス(京都市上京区)で開催された。テーマは「現代社会におけるキリスト教的良心」。会場には全国から会員104人が集まり、現代社会における「良心」がキリスト教的立場からどのように考えられるべきか議論を交わした。学会外の参加者も講演に15人、シンポジウムに9人を数えた。
両日とも午前に研究発表が行われ、3会場で計21人の発表者が歴史神学、組織神学、聖書神学、実践神学の各分野から研究報告、発表を行った。
1日目午後は同志社大学神学部名誉教授の石川立氏による公開基調講演「現代に響く聖書のこころ――レヴィナス、ティボン、ユンゲル、そして私たち」が行われ、次いで若手研究者イニシアティブ企画として、文教大学教授の塚田穂高氏による発表「宗教2世とキリスト教――信仰の継承と課題」がなされた。
同企画で塚田氏はまず「宗教2世」の問題について、2022年の安倍元首相銃撃事件以前から各宗教においてそのような問題があったことを示し、現代社会の変化の中で宗教2世問題もまた社会問題化したことを明らかにした。
また、キリスト教だけが教勢の停滞、漸減に悩んでいるのではなく、多くの宗教が新規の入信者の獲得に困難を抱えており、信者の子世代への「継承」という形を通して信者の再生産に舵を切っているところ、宗教学、社会学の研究からはそのことが今世紀に入るまで見過ごされていたと語った。
キリスト教の現状について、日本におけるキリスト教が各種データからは「衰退」と捉えられている研究が存在することを示した上で、キリスト教における「宗教2世」の問題を単に否定的に捉えるのではなく、クリスチャン家庭内部における信仰継承の試みとして、幅を広げて捉えることを提案した。
グローバル化による在留外国人の増加、特にキリスト教を背景とする外国人の増加が日本社会に宗教的多元性をもたらしている可能性があることを示した上で、キリスト教系学校の卒業生が毎年54万人とも推計されることからの、キリスト教に好意的な層が拡大している可能性を示唆し、宗教を広く捉えることで、キリスト教の日本社会における位置づけを改めて認識し直すことを提案。
いわゆる「宗教2世」問題をキリスト教の立場でどう考えるかについて、塚田氏はそれを信仰継承の問題と認識するのか、宗教2世問題と認識するのかというところから問いかけた。宗教2世問題をいわゆるカルト宗教の問題と済ませてはならないことを押さえた上で、キリスト教における宗教2世問題について、少なくないクリスチャン2世が悩んだことがあること、それゆえにクリスチャン2世はこの問題の存在を「分かる」者として、そこに取り組む可能性を与えられていることを論じた。
塚田氏は最後に、宗教としてのキリスト教を広い枠組みで捉え、教会外のキリスト教に影響を受けた人々を認識することで、これからのキリスト教の「継承」を考えることができると論じた。またキリスト教学がそのように対象を捉える範囲を拡大した上で、文化、社会、教育におけるキリスト教についてのさらなる調査、研究をなしうる可能性を示した。
塚田氏の発表に対して、東北学院大学の川島堅二氏、青山学院大学の森島豊氏、愛知県立大学の木内翔氏がそれぞれコメンテーターとしてコメント。川島氏はカルト問題に取り組んできた経験から、宗教2世の問題を考えるにあたってカルト、非カルトという枠組みが検討のための作業仮説としては有効であることを指摘。
森島氏は信仰の主体性が問われているとし、信仰がそもそも神の恩寵であること、また「継承」という言葉を安易に使う際の危険性を訴えた。木内氏は中高教員であった経験から、中等教育での社会科教育において宗教についての教育が十分でないこと、そのことが、宗教2世が自らを客観視する助けとなっていないことを論じ、中等教育におけるキリスト教研究者のさらなる参加を訴えた。
塚田氏はこれらのコメントに対し、「継承」という言葉を軽く使うべきではないことに同意しつつも、児童の権利条約を引いた上で、教育がすぐれて親子の問題でもあることを示し、キリスト教の継承が多文化共生、宗教文化の共生につながることへの期待を示した。
また、宗教2世をどう捉えるかについて同氏は「宗教2世」とはしばしば否定的な含意で用いられるところ、各宗教においてはいわゆる2世信者について肯定的な呼称が存在することを示した。このことは参加者に、宗教2世を全否定的に捉えることが適切なのかという問いかけとなった。さらに宗教社会学の知見から、宗教をカルトと非カルトに二分して捉えるよりもそこに存在するグラディエーションを認識すべきこと、そしてそれぞれの信仰者の自立性が期待されることを語った。
その後、会場の聴衆からも複数の応答、質問があり、塚田氏の発表に対する賛意、日本のキリスト教会の現状に対する危機意識が表明された。最後に司会者である跡見学園中学校高等学校の石井砂母亜氏が発表全体をまとめた。
2日目午後は公開シンポジウム「現代社会におけるキリスト教的良心」が開催され、西南学院大学教授の宮平望氏、元立教大学教授の西村裕美氏、同志社大学教授の木原活信氏が登壇し、議論が交わされた。
大会全体を振り返って同志社大学神学部教授の村上みか氏は、「大会全体を通して、同志社大学の基本的な教育理念である『キリスト教的良心』について、それを現代の社会においていかに理解し、実現していくことができるのか、ともに学び、考える時が与えられたように思う。講演やシンポジウムでは、同志社で育てられた講師たちにより、そのように生きようとした信仰と研究の足跡が示されたように感じられた。参加者にそれが伝わり、何らかの意味をもちえたのであれば幸いである」と述べ、今大会の意義を語った。
(取材、文責=村山直樹)