【この世界の片隅から】 日本の在来教会に通う中国人信者たち 佐藤千歳 2025年9月11日

 前回(2025年3月1日付本欄)に続き日本社会に暮らす中国人キリスト教信者の状況と課題について、プロテスタントを例に考えたい。

 日本で生活する在留外国人の総数は増え続けており、2024年末で約377万人と過去最多を記録した。その4分の1を中国出身者が占め、日本国籍を取得した帰化者を含めると日本に暮らす中国出身者は推定90万人を超える。このうちプロテスタント信者の比率は0.6~1%、実数にして6千~1万人と推計され、日本のプロテスタント人口を考えると無視できない規模といえる。

 中国出身の信者が集まる教会の類型は多様で、例えば設立者で分類すると①台湾、②中国、③韓国、④日本、と少なくとも四つに分けられる。耳目を集めるのは、戦前から1960年代までに台湾出身者が設立したり(類型①)、90年代以降に中国本土出身者が新設したりして(類型②)、中国語礼拝を行う華人教会であろう。「華人」とは、中国や台湾にルーツを持つ人々を指し、華人教会には中国や台湾のほか東南アジア出身の信者も通う。日本で活動する韓国教会も、中国人留学生や移住者を対象に中国語礼拝を行ってきた(類型③)。

 以上は中国語で礼拝を行う教会だが、日本各地の「在来の」教会へ通う中国出身の信者もいる(類型④)。日本で暮らす中国人の居住地域は都市部以外に拡大しており、中国語礼拝のない地域の信者は在来の教会に通うためである。このほか、教派や神学上の理由から在来教会へ移った中国出身の信者もいる。例えば都内に暮らす王さん(仮名、40代男性)。中国では長老教会に属し、日本に移住後は複数の中国語礼拝に参加したが、現在は都心にある改革派の在来教会に通う。中国語礼拝を離れた理由について王さんは「中国語礼拝は牧師が忙しすぎて司牧が足りない。日曜礼拝の説教も、聖書より現実生活の話が多く意味が分かりにくかった」と説明した。王さんの話からは、信者数の急増に教職者の数が追いつかない中国語礼拝の様子がうかがえる。中国政府による宗教統制を逃れて日本に移住した信者には、自身が所属する教派の神学や儀礼を守りたいという思いも強い。

中国人留学生や移住者が多く通う都内の中国語礼拝の礼拝堂

 王さんが通う在来の改革派教会は、中国人信者の受け入れは初めてで、王さんのために日曜礼拝の説教を中国語に翻訳した資料を配布するようになった。聖書を丁寧に解説する主任牧師の説教と、中国で慣れ親しんだ改革派の礼拝に王さんは満足し、中国人信者の友人を誘って礼拝に通っている。日曜礼拝も信者の交流もすべて日本語で、王さんら中国人と日本人信者との交流は十分とはいえないが、中国語通訳の導入は考えていない。「もっと大きな教会なら対応できるでしょうけれど、小さい教会なのでとても余裕がない」と主任牧師は話す。この教会に限らず、小規模で信者の高齢化が進む在来教会で、多言語化への対応は容易ではないだろう。結果として、中国語礼拝に信仰上の戸惑いを覚える信者も、言葉の壁があり在来教会には通えない状況も生じている。

 日本社会全体に目を転じると、外国人住民の増加に伴い「日本人ファースト」を支持する排外的な世論が台頭している。中国人信者も、文化的差異に加えて反中的な世論による住みづらさを感じている。中国東部出身の40代女性信者は、「中国人に対する厳しい目を意識し、自分や子供が日本社会のルールを不注意に破らないよう緊張して生活している」と話していた。今後は、中国人移住者の増加とともに在来教会の門を叩く中国人信者も増え、キリスト教信者を含む外国人住民が日本社会で抱く生きづらさについて、それぞれの教会が対応を求められることになるのではないか。

佐藤 千歳
 さとう・ちとせ 1974年千葉市生まれ。北海商科大学教授。東京大学教養学部地域文化研究学科卒、北海道新聞社勤務を経て2013年から現職。2005年から1年間、交換記者として北京の「人民日報インターネット版」に勤務。10年から3年間、同新聞社北京支局長を務めた。専門は社会学(現代中国宗教研究、メディア研究)。

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