教皇レオ14世も動向を注視 AI専門家「教会は道徳的権威によって開発を遅らせるべきではない」 2025年9月30日

教皇レオ14世は在位当初から、人工知能(AI)の急速な発展に関心と懸念を示してきた。この姿勢から、多くのバチカン関係者は自律システムと人類への影響を扱う教皇の重要文書が近々発表されるとの見方を強めている。「レリジョン・ニュース・サービス」が報じた。
バチカンはAIの台頭を注視しており、今年だけで劇的な飛躍を遂げている。オープンAIが2月にリリースしたチャットGPTの新バージョンは感情理解の向上を売りにし、グーグルのAlphaEvolveは数学的問題を創造的に解決している。グーグルのVeo3は音声同期機能を備えた最先端のAI動画を生成する。AI制御のF―16戦闘機はすでに人間のパイロットに匹敵し、中国では給仕から医療支援まで、ますます多くの業務に知能ロボットが導入されている。専門家によれば、人間の推論を模倣できる汎用人工知能(AGI)の実現は、わずか数年先かもしれない。
数学者、教会法学者、神学者である教皇レオは、この重要性を理解していることを示した。選出からわずか48時間後にシスティーナ礼拝堂で枢機卿たちに語りかけた際、彼はレオという名を選んだのはレオ13世の足跡をたどるためだと述べた。レオ13世は1891年、産業革命の激動に対処するため『レラム・ノヴァルム(新しき事がらについて)』を発布した。
「現代において、教会は新たな産業革命と人工知能分野の発展が人間の尊厳、正義、労働の擁護に突きつける新たな課題に応え、その社会教説の宝庫をすべての人々に提供している」
フランシスコ教皇は教会のAIへの関与を開始した。2024年6月にはG7のAIに関するサミットに出席し、人間のありさまについてのカトリックの洞察を国際政策議論に持ち込んだ。テクノロジー企業のCEOたちは定期的にバチカンを訪れ、フランシスコ教皇との謁見、会議への参加、AIの倫理的含意に関する議論を行った。カトリック教皇庁生命アカデミーが推進する発案「ローマはAI倫理を必要とする」は、IBM、マイクロソフト、シスコなどの企業により署名された。
1月にはバチカンの文化教育省と教理省が117項目の文書「アンティクア・エト・ノヴァ(古きと新しき)」を発表し、教会のAIビジョンを提示した。労働者と若年層の保護強化を求め、戦争・監視・真実改ざんにおけるAI利用を非難した。
「レリジョン・ニュース・サービス」は、バチカンと緊密に連携するカトリック指導者らに、教皇レオ14世が取り組むべき課題、教会が独自の知恵を提供できる分野、そして教会がさらに学ぶべき点について話を聞いた。
「人々に必要なのは恐怖ではない」
「アンティクア・エト・ノヴァ」は教会によるAIの神学的理解の第一歩となるはずだったが、この分野のカトリック指導者らによれば、結果としてかなり慎重な分析に留まったという。文書の一部では、AIが人間、人間関係、社会に及ぼす破壊的影響が強調されている。
一部の技術指導者は、人々がAIの変革により良く適応しリスクを回避する機会を与えるため、企業や国家にAI開発の停止を促している。カトリック教会のAI製品を開発するテック企業ロングビアードのCEOマシュー・サンダース氏は、教皇が同様の訴えを行えば「彼は基本的に自分の時間を無駄にするだけだ」と述べた。同社はMagisterium AI、Vulgate AI、Christendomといったアプリを開発している。「今、人々が教皇に求めるのは恐怖ではなく、リーダーシップだ」と同氏は語った。
中国と米国がAIの軍事・経済的能力の解明を競う中、AI開発を一時停止する可能性は低い。「AIは停止しない。なぜならそれは主に地政学的問題だからだ」とサンダース氏は述べた。
長年バチカンとAI開発者の間を取り持ち、カリフォルニア州サンタクララ大学マーククラ応用倫理センターで技術倫理ディレクターを務めるブライアン・パトリック・グリーン氏は、教会はAIに関する道徳的考察を加速すべきだが、道徳的権威を利用して開発を遅らせるべきではないと述べた。
ワシントンD.C.のシンクタンク、ヨークタウン研究所のAI研究員ジョン=クラーク・レビン氏は「教皇はワシントンや世界中の有力政策決定者に対し、無意識の道徳的信頼性を有している」と指摘した。
そして教会は、将来を見据えることを恐れてはならない、とレビン氏は付け加えた。「懸念されるのは、回勅が今日のAIを扱うだけで、より変革的なAI技術、汎用人工知能、そして出現してきている超人的なAIについて十分に扱わないのではないか、ということです」と同氏は述べた。
デジタル時代における孤独への対処
2024年、フロリダ州オルランドに住む14歳の少年が、「ゲーム・オブ・スローンズ」のキャラクター、デナーリス・ターガリエンに触発されたAIチャットボットとメッセージを交換した後、自殺した。これは、特に孤独や脆弱な状況にある人間に対して、AIが及ぼす影響の悲劇的な例だった。
信仰の世界では、人々は充実感を得るためにアルゴリズムに目を向けてきた。2017年に創設された「The Way of the Future」は、神ではなくAIを崇拝する宗教であり、一部の教会ではAIによる懺悔やスピリチュアルカウンセラーの実験が開始されている。
ローマの教皇庁立聖母使徒大学でカトリック神学者兼生命倫理学教授を務めるマイケル・バゴット師は、教会は人々がなぜ慰めや人間関係を求めてAIチャットボットに頼るのかに焦点を当てるべきだと指摘した。受肉、言い換えれば、人間の経験における身体の重要性を重視する教会は「人々が現実の対面による意味ある体験に戻る手助けができる」と述べた。
結局のところ、「AIは人々をコミュニティ——クラブや友人、教会——へと導くべきであり、擬似的な親密さへ深く引きずり込むべきではない」と彼は付け加えた。
デジタル版「レラム・ノヴァルム」
AIはすでに多くの中産階級・ホワイトカラー職を代替しつつある。世界経済フォーラムの「未来の雇用報告書」によれば、今後5年間で900万の職がAIに置き換わると予測される。しかし同調査は、AIが1100万の新規雇用を創出する可能性も示唆している。
「大多数の人々が職を持たない——あるいは社会的意義や目的をもたらす職を持たない世界を生み出す現実的なリスクがある」とグリーン氏は指摘。「デジタル時代に向けた新たな『レラム・ノヴァルム』が必要だ」と訴えた。
「レラム・ノヴァルム」は産業革命期に労働者側に立ち、公正な賃金・安全・休息・組合結成を訴えた。グリーン氏は、レオ14世教皇がAIに関する文書で同様の姿勢を示すべきだと主張し、AI革命で最も影響を受ける人々を守る必要性を訴えた。
バゴット氏によれば、AIによる雇用破壊は経済危機にとどまらず、存在そのものに関わる危機となる。「人々は職業と自己同一性が結びついていると教えられてきた。それが失われた時、『私の存在意義とは何か』と問うだろう」
バゴット氏は「教会は、人間の尊厳が生産量ではなく『存在そのもの』にあることを人々に想起させるのに十分な備えがある」と確信しており、それは「生産性が唯一の価値基準ではない世界」へ人々を準備させる助けとなると述べた。
サンダース氏にとって、AIによる労働の混乱は「仕事を再概念化する機会」でもある。「住宅ローンを払うため、あるいはチェックリストを埋めるためではなく、自分の賜物を用いて他者に仕え、神を賛美するからこそ生きていると感じられるものとして」と。
専門家たちは、教会は共同体と創造的労働を中心とした「余暇の神学」について考え始めるべきだと合意した。
教育、真実、批判的思考
研究者たちとの対話はすべて、教育と、デジタル化が進む世界で次世代が人間性を失わないための準備へすることに回帰した。世界中に20万以上の学校を持ち何百万人もの生徒を教育するカトリック教会は、若者が独立して倫理的に考える力を養う上で、良い立場にある。
教皇はすでに、特に若年層におけるAIが引き起こす批判的思考の欠如について懸念を表明している。6月20日のAI会議参加者への書簡で、「確かに、我々は皆、子どもや若者の知的・神経学的発達に対するAI利用の影響を懸念している」と表明。「社会の健全性は、彼らが神から授かった才能と能力を育む機会を与えられ、AIに過度に依存しないことにかかっている」と述べた。
データが示すように、学生は学業においてますますAIに依存している。教授としてグリーンは「学生はもはや自身の判断を信頼していない。自らの考えを決める前にまずAIに頼る」と観察している。
アウグスティニアン派として、教皇レオは聖アウグスティヌスの教えに触発された真理に基づく神学をこれらの議論にもたらすことができる。「真実こそが設計原則でなければならない」とバゴット氏は述べ、「それがなければ民主主義そのものが危険に晒される」と警告した。
またAI動画やプログラムが現実と見分けがつかないほど精巧化する中、人々は操作から守られねばならない。
「認識的衛生とは哲学者の用語だが、私は『クリックベイト(クリックを誘う画像)に騙されるな』と要約する」とレバインは語った。「教皇レオが人々に対して呼びかけてほしいのは、この道徳的義務――信じる前、共有する前にファクトチェック(事実確認)を行うことだ」
環境と多様性
指導者たちは、デジタル革命の帰結に関する教皇回勅は、それがもたらす文化的・環境的影響への監視も促すべきだと合意した。
「現在、主に米国の一握りの企業が世界の思考様式を形作っている」とグリーン氏は指摘し、これが「認知的単一文化」を招く恐れがあると述べた。
「アンティクア・エト・ノヴァ」はこの問題に言及し、AIは「中立」ではなく、開発者の偏見や理想に深く影響されていると記した。教皇文書はこの問題を掘り下げ、AI開発者にアルゴリズムへの多様性の注入を促すとともに、AIのもたらす生物学的成行きに対処するよう求め得る。
「技術は、家族、伝統、精神生活といった道徳的生態系を犠牲にして進歩すべきではない。これらは熱帯雨林と同様に脆弱だ」とバゴット氏は述べた。
(翻訳協力=中山信之)