韓鶴子総裁逮捕と解散命令の波紋 全国弁連 摂理の深刻な被害実態も共有 2025年10月1日

高額献金や霊感商法の問題をめぐって3月25日に解散命令を受けた統一協会(世界平和統一家庭連合)の韓鶴子(ハン・ハクチャ)総裁が9月23日、韓国で逮捕された。韓国の特別検察官は、世界平和統一家庭連合の元世界本部長の尹英鎬(ユン・ヨンホ)容疑者が、尹錫悦(ユン・ソンニョル)前大統領の妻・金建希(キム・ゴンヒ)被告や大統領の側近に対し、教団に便宜をはからせるため賄賂を送るなどの容疑に韓鶴子総裁も関与したとして捜査を進めている。
ソウル中央地裁は、政治資金法および請託禁止法違反、業務上横領、証拠隠滅教唆などの疑いで韓鶴子総裁に対する令状を発行。他にも保守系の国会議員である権性東氏に統一協会への支援の要請のために1億ウォンを渡した疑いが持たれている。
統一協会側は9月22日、韓鶴子総裁の令状実質審査を控え、ホームページを通じて「強力で非常に深い遺憾を表す」とし、「真のお母さまに拘束を要請することは常識と道義を越えた非常に不当なこと」と明らかにした。
これらの報道を受けて日本基督教団カルト問題連絡会は9月23日、「世界平和統一家庭連合・韓鶴子総裁の逮捕にあたってのコメント」 を発表。「今回の逮捕と捜査により、韓国における世界平和統一家庭連合の実態と政治家との癒着関係が明らかにされ、被害の拡大防止と被害者救済が進むことを期待」するとした上で、「日本においても、世界平和統一家庭連合およびその関連団体と政治家との癒着関係、それが政治にどのような影響を与えてきたかについて、適切な捜査が行われ、全貌が明らかにされること」を強く求めている。
これに先立ち9月20日に都内で行われた全国霊感商法対策弁護士連絡会(全国弁連)主催の集会では、解散命令が確定した後の清算手続きに関し、統一協会の指揮命令下にあり、実質的に同一性が認められる団体「天地正教」に残余財産が承継されることを防ぐため、必要な立法措置を講じるよう求める声明が採択された。
声明は、政府、各政党、国会、地方自治体の各議会に対し、「第三者委員会等のしかるべき機関を立ち上げ、その所属する国会議員及び地方議会議員全員について、旧統一教会(関連団体を含む)とのこれまでの関係について調査し、メディアへの公表を通じて調査結果を有権者に公表する」ことも求めている。
岸田文雄前政権下で、関係断絶を徹底する旨の国会答弁がなされたものの、「一部の政党が統一教会との関係を断絶するとの決意を表明しただけであり、今後、同様の問題が繰り返されないようにするための実効性のある具体的な施策については何ら講じられていない」と非難。自民党総裁選についても、統一協会との関係を争点にする候補者が一人もおらず、候補者が取り組む気配もないと言及した。
韓国での逮捕に向けた動きについては、「統一教会がどのようにして政治家に近づき、政治家を利用して来たのか、統一教会の実態を明らかにする重要な機会」と強調した。
『すべては神のために』プロデューサーが登壇
集会の終盤では、摂理(JMS、キリスト教福音宣教会)の実態について、被害者支援団体「エクソダス」の金度亨(キム・ドヒョン)氏(檀国大学教授)=写真中央、ネットフリックスドキュメンタリー『すべては神のために:裏切られた信仰』を演出したプロデューサーのチョ・ソンヒョン氏=写真右=が登壇。『すべては神のために』は2023年に全8話のシリーズが一斉配信され、特に香港出身のメイプルさんが実名・顔出しで自身の受けた性暴力被害を告発したことで話題を呼んだ。この8月には続編『私は生き延びた:韓国を揺るがせた悲劇の中で』も公開されている。
総裁の鄭明析(チョン・ミョンソク)被告は2009年、女性信者に対する強姦致傷などの罪で懲役10年の実刑判決を受け服役したものの2018年に出所。同年2月から2021年9月、忠清南道・錦山郡にある修練院などで、23回にわたり香港、オーストラリア国籍の女性信者や韓国人女性信者を性的暴行およびわいせつ行為を行った疑いで拘束・起訴され、女性信者らへの準強姦など性的暴行の罪で、懲役17年の実刑判決が確定している。
金氏は大学生だった1995年、友人に誘われて通った教会が実はJMSだった。そこで交際相手が鄭被告に性暴力を受け、多数の被害者が存在することを知り、96年から反対運動を開始。以後、暴行を受けるなどの被害も経験した。
99年、脱会信者の拉致事件を機にメディアがJMSを大きく報道。鄭被告は海外へ逃亡し、香港・日本・米国・欧州・東南アジアなどを転々としながら各地で性犯罪を重ねた。台湾や日本でも大きな社会問題となり、2006年には朝日新聞が「日本人女性信者100人以上が被害」と報じて国際的関心が高まった。
金氏は、日本でも多数の被害者が存在し、2000年には日本人女性が民事訴訟で勝訴した事例もあったと紹介。06年当時、日本の信者は約2000人と報じられたが、現在は4000~5000人に増加しているという。今も組織は金銭搾取を続けており、日本の信者・社会に警戒を呼びかけた。
また、韓国の元首相・国会議長経験者までもが鄭被告を訪ね祈祷を受けた事実を批判し、政治家との癒着の問題を指摘。最後に「韓国の詐欺的な宗教団体が日本社会に被害を与えていることを心から申し訳なく思う」と謝罪し、被害者の勇気ある告発を呼びかけて発言を締めくくった。
家族がかつてカルト教団による被害を受けたというチョ氏は、ドキュメンタリー番組の制作に取り組んだ経緯を振り返り、地上波ではなくネットフリックスで公開された理由として、韓国の放送倫理規制が厳しく、被害者による証言が「扇情的・暴力的」として削除される恐れがあったためだと説明した。その結果、被害者の顔や声を隠さず全世界に発信でき、放送後に検察が動き、40年近く放置されていた教祖による性虐待が明るみになり、信者数も大幅に減少したという。
しかしチョ氏は、「これで終わりではない」と強調する。韓国には複数のカルトが存在し、裁判所が賄賂を受け取って「宗教団体ではない」と認定しないケースがあるなど、司法・政治・警察・メディアとの癒着が根深いことを告発した。
また、被害者や取材者に対するテロ・脅迫・監視は日常的で、本人や家族の安全が脅かされている実態も明かした。カルト信者が警察・軍・司法・行政に多数潜り込んでおり、国家や国民ではなく教祖を守るために行動する危険性があるという。
最後に、日本の被害者と接触した際のエピソードが紹介された。日本大使館に助けを求めるよう勧めても「日本政府も信用できない、統一協会と一体だ」と返されたという。「韓国では少しずつでも変化を起こせた。日本でも統一協会が解散命令を経て、完全に崩壊する事例を皆さんの口から聞ける日を願う」と訴えた。