【宗教リテラシー向上委員会】 ケバブ風味ポテトチップス事件 サイード佐藤裕一 2025年10月11日

 今年9月上旬、日本のあるお笑い芸人のYouTube番組(以下、番組と略)と大手コンビニチェーン(以下、コンビニと略)が、「旨辛トルコ名物!伝説のケバブ風味ポテトチップス」と銘打って発売したコラボ商品を巡り、ちょっとした騒動が起きた。

 騒動の経緯は、以下の通り。ポテトチップスの発売日に先がけて宣伝動画を作成するため、番組制作チームとコンビニ担当者が「ケバブの本場」トルコへ渡航し、トルコ人にそれを試食してもらって感想を聞く、という取材を行った。問題はその動画を公開した後、当該ポテトチップスの原材料に「ポークエキスパウダー」が入っていたことが判明したこと。日本のある週刊誌によってそのことが、「国民のほとんどがムスリムであるトルコ人に、豚肉由来のものを説明もなく食べさせた」とスクープされた(こんなスクープは余計なお世話なのだが)。

 これを受けて当該動画の公開は停止された。その数日後、コンビニ側は今回のことについて、製品の原材料にポークエキスパウダーが入っていることを番組側と情報共有できていなかったことが主因だったとし、試食させてしまったトルコ人をはじめ、視聴者や関係者に「ご迷惑をおかけしたこと」を謝罪した。芸人のYouTube上でも、謝罪の動画が上げられた。加えて、コンビニ側は日本国内の売り場でも、当該製品にポークエキスパウダーが入っていることを日本語・英語・アラビア語・トルコ語・インドネシア語・マレー語で知らせる案内を掲示する、と述べた(これも余計なお世話だ)。

UnsplashのNejc Soklicが撮影した写真

 なぜ私が、これらの動向を余計なお世話だと思うのか。まず、このような出来事は、ムスリムがムスリムではない人々と接触する機会のあるところなら、どこでもよく起こることである。悪意がない限り、知らずして「ハラーム(禁忌)」なものをムスリムに贈ってしまったり、飲食させてしまったりしても、深刻な問題とはならない。そのようなことが判明したら、「すみません」のひと言で終わりだし、ムスリム側も罪には問われない。

 ただしお付き合いする相手の宗教や文化については、お互いにある程度知っておくべきであろう。それはムスリム側も同様。もしイスラームの飲食規定を遵守したいというのであれば、ムスリムではない人々の飲食文化に関する知識を深め、普段から十分な予防線を張っておくべきだ。

 というわけで、私の視点ではどっちもどっち。それどころか、そのようなものを安易に口にしたムスリム側の自己責任もかなり大きいと考えている。大袈裟に騒ぎ立てることなく、互いをより知る良い機会になった、と双方がポジティブに捉えるくらいでよいと思う。あくまで当事者間で済ませれば良い話だ。

 余談になるが、ケバブだから必ず「ハラール(合法)」だとか、トルコ人だから必ずハラールなものを口にしたり、扱ったりしているとは限らない。意外かもしれないが、日本国内のトルコ人経営のケバブ屋ですら、そもそもハラールな肉を用いていないこともあったりする。また、飲食上のイスラーム法規定を遵守したいタイプのムスリム間では、日本国内でもかなりの知識と経験が共有・蓄積されている。彼らにとっては、わざわざ「ポークエキスパウダー」入りと明記されていなくても、コンビニに並んでいる飲食物の多くはそもそも「食べられないもの」が非常に多いのである。

 さいーど・さとう・ゆういち 福島県生まれ。イスラーム改宗後、フランス、モーリタニア、サウジアラビアなどでアラビア語・イスラーム留学。サウジアラビア・イマーム大卒。複数のモスクでイマームや信徒の教化活動を行う一方、大学機関などでアラビア語講師も務める。サウジアラビア王国ファハド国王マディーナ・クルアーン印刷局クルアーン邦訳担当。一般社団法人ムスリム世界連盟日本支部文化アドバイザー。

【宗教リテラシー向上委員会】 ハッジ巡礼のユニークさ サイード佐藤裕一 2025年8月1日

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