学校法人聖学院 新理事長 田村綾子氏インタビュー 他者と共に生きる「共感力」育む 2025年10月11日

 学校法人聖学院の新理事長に就任した田村綾子氏は、精神保健医療福祉の専門家として長年、教育・福祉に携わってきた。就任にあたり、キリスト教教育を通して法人が掲げるビジョン「誰一人取り残さない世界」の実現を目指しつつ、聖学院の特色である穏やかで温かな教育環境をさらに発展させたいと語る。

――理事長に就任された経緯を教えてください。

田村 2011年に聖学院大学に着任し、人間福祉学科で精神保健福祉士養成に携わってきました。その後、学科長、学部長、副学長を経て法人理事となり、このたび私立学校法の改正に応じた理事会体制への変更に伴い、理事長に就任しました。

――聖学院との関わりはどのように始まったのでしょうか?

田村 聖学院大学の非常勤講師として精神保健福祉士養成課程の授業を担当したのが最初です。当時、大学には日本精神保健福祉士協会の初代会長をお務めになられた柏木昭名誉教授がいらっしゃり、声をかけていただきました。着任当時から、教職員がとても温かく、丁寧に接してくれる点に感銘を受けました。今でもその印象は変わらず、他大学から移ってきた先生方も同じことを口にしています。

――聖学院はどのような特徴を持つ学校だと思われますか?

田村 全体的に穏やかで温かく優しい空気が流れていると感じます。在校生や卒業生からは「環境が良く、教職員も生徒・学生も優しい」との声が多く聞かれます。それは、「神を仰ぎ 人に仕う」という建学の精神に根ざし、幼稚園から大学・大学院までを通して一人ひとりを大切にする各学校の姿勢が反映されているからでしょう。

 系列校同士の交流もあり、大学の教員が女子聖学院中高の礼拝奨励を担当したり、聖学院中高で模擬授業を実施したりしています。中高の生徒が幼稚園や小学校でボランティアをすることや、大学の学生が幼稚園、小学校、中高に保育・教育・心理の実習に行くこともあります。卒業生教職員も多く、自由な校風の中で個性を伸ばしてもらった経験を、次の世代に伝えていくという良い教育の循環も、法人120年の歴史をもつ聖学院の強みです。それに、幼稚園や小学校、中高では保護者にも聖学院出身者が多く、地元の信頼の厚さを感じます。大学では留学生を積極的に受け入れており、多様性の中で互いを尊重する文化が根づいていますし、地域との連携やボランティア活動も盛んです。法人と近隣のキリスト教会との協力関係も大切に続けています。

――コロナ禍で生徒・学生の生活にはどのような影響がありましたか?

田村 特に大学では入学直後からオンライン授業が続き、1年を通して同級生と対面したことがないという学生もいました。孤立感や心細さを感じたことと思います。現在はキャンパスでの交流が活発にできていますが、学生の心身にコロナ禍の閉塞感がもたらした影響は決して小さくありません。

――ご専門であるメンタルヘルスの知見を理事長としてどのように生かせるとお考えですか?

田村 日本の近年の動向として、子どもや若者の自殺者数の高止まりは深刻です。社会全体で心のケアに取り組む必要があり、学校はご家庭や地域と連携して支える責任があります。同時に、子どもたちが閉塞感から解放され「安心して本音を話せる場」を確保することも大切です。子どもや若者が社会を信頼して生きていかれるように、これまで法人内各学校で育んできたキリスト教教育を大切にしながら、よりきめ細やかに時代に合わせた工夫をしていくことが求められるでしょう。社会へのこうした使命を果たすために、私が理事長として貢献できることがあるのではないかと考えています。

――キリスト教学校の意義をどのように見ていますか?

田村 聖学院は宣教師による伝道学校から始まりました。法人各校では毎日の礼拝が大切に守られています。そこでは成績や属性に関係なく全員が平等に集い、自分がそのまま受け入れられている安心感を得られます。その経験が自信となり、今度は他者を受け入れる力になっていきます。効率性重視とは異なる価値観のもとで育まれる「共感力」こそ、他者を思いやり社会で共に生きるために不可欠だと思います。

――女性理事長としての意識はありますか?

田村 前理事長も女性ですしあまり意識していませんが、教会を含め社会全体を見ると女性リーダーはまだ少数かもしれませんね。ただ、本来は性別にも多様性があります。共に在って、それぞれの賜物を提供し合える社会にしていきたいです。

――学校法人の経営にあたって今後の抱負をお聞かせください。

田村 経営効率を優先しすぎると教職員に負担が偏りがちになるので、理念やビジョンを共有し、同じ目的に向かって協働していることを実感できるような組織風土が築けたらと考えています。同時に、社会が教育に何を求めているのか、国の政策はどの方向に進められようとしているのかを見極めることも不可欠です。

 元理事長の大木英夫先生はニーバーの祈りの訳者としても知られています。「変えることのできるものと、変えることのできないものとを、識別する知恵を与えたまえ」と、私も日々祈っています。「誰一人取り残さない世界」の実現に向けて、豊かな人間力を育むことが聖学院の使命です。

 失敗を恐れず挑戦できる環境を整え、園児・児童・生徒・学生や教職員が安心して自分らしく歩める場を提供したい。その根底に流れるのは「神に愛され、大切にされている」というキリスト教のメッセージです。聖学院教育の理念であるオンリーワン教育を展開し、法人一丸となってこの空気を内外に広げていきたいと思います。

――ありがとうございました。

 たむら・あやこ 精神保健福祉士。明治学院大学大学院社会福祉学専攻博士後期課程満期修了。精神科病院や企業の健康管理部門の精神保健福祉士を経て、2011年度より聖学院大学に勤務し、現在は心理福祉学部教授、学生エンカレッジセンター所長、総合研究所人間福祉スーパービジョンセンター所長を務める。公益社団法人日本精神保健福祉士協会会長、文部科学省いじめ防止対策協議会委員などを歴任。日本基督教団代々木上原教会所属。

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