説教塾でクリス・ライス氏が講演 分断の時代に問い直す「和解」の力 2025年10月22日

説教塾主催の公開講演会が10月6日、日本基督教団代田教会(東京都世田谷区)で開かれた。講師はデューク大学神学部「和解センター」初代センター長を務めたクリス・ライス氏。「和解・キリスト者のヴィジョン」と題して講演した同氏は、「今この時代に和解の使者として生きる」ことの意義を訴えた。
ライス氏は、ウクライナや中東、朝鮮半島など世界を覆う分断の現状に触れ、「自国第一主義が広がり、SNSが怒りと敵意を煽っている」と指摘。平和学者ジョン・ポール・レデラックの「道徳的想像力(Moral Imagination)」を引用し、「現実に根ざしつつ、まだ存在しないものを生み出す力こそ、キリスト教的和解の核心にある」と語った。
和解とは単なる仲直りではなく、神が創造される「全く新しい現実」への参与であると強調。コリントの信徒への手紙二5章を挙げ、「キリストにある者は新しく造られた者である」との宣言が、個人の赦しを超えて「全世界の変容」を意味していると述べた。
その上で、和解のビジョンには「和解は神からの贈り物」「全教会に委ねられた旅」「『すでに、しかし、まだ』成就していない現実」「最終目的は『愛する共同体』の実現」という四つの特徴があると整理した。
第二部では「和解の使者として聖書を説教する」をテーマに、ヨハネによる福音書1章14節「言葉が肉となった」を鍵として提示。「神の言葉が肉となったからこそ、私たちの肉が言葉を現すことができる」と関田寛雄牧師の言葉を引用し、和解の説教とは「神の和解を生き方で体現すること」だと説いた。
また、説教者が意識すべき視点として、「分断を越えた『新しい私たち』を生み出すこと」「正義と憐れみの両立」「世界と身近な関係双方へのまなざし」「イエスとの親密な交わり」の4点を挙げた。
自身が関わる「北東アジア和解のためのクリスチャン・フォーラム」では、2015年の長崎会議で各国の教会指導者が歴史認識をめぐり衝突したが、被爆地や在日教会を巡る巡礼の中で互いに赦し合い、国を超えた「新しい私たち」を経験したという。
ライス氏は最後に、「和解の務めは即効的な成果を求めるものではなく、希望の種を蒔き続ける長い旅路だ」と結び、「その終わりにあるのはキリストにある神の『新しい創造』であり、それを地上で希望として生きる者こそキリスト者である」と語った。
閉会後、平野克己氏(日本基督教団代田教会牧師)は「分断が進む社会で、まず教会の中でこそ『和解』が共通語となる必要がある」と述べ、吉村和雄氏(単立キリスト品川教会牧師)は「説教とは神の言葉の新しさに出会うワクワクする瞬間であってほしい」と語った。