【企画展】上智大学キリシタン文庫貴重資料展 川村信三氏、竹山瞬太氏インタビュー 2025年12月2日

 日本でキリシタンに関する学術研究が始まっておよそ100年、この間、学界を牽引してきた「キリシタン文化研究会」において、同学会と同時にヨハネス・ラウレスが創設した「キリシタン文庫」(現・上智大学キリシタン文庫)による特別企画展が12月7日に行われる。翌8日には、前日と同じく上智学院カトリック・イエズス会センター(上智大学四ツ谷キャンパス内)において、一般の人も来場可能な展覧会が開催される予定だ。同文庫の総蔵書数は約1万5800点、そのうち約2500点が貴重書とされ、世界に数点しか存在しないキリシタン版などが含まれる。さらに、高山右近書状などの古文書、17世紀の地図や宣教師の報告書などが数多く収蔵されている。その中から厳選された資料、数十点が展示されるということで、期待が高まっている。今回の特別企画展の特色と見どころについて、上智大学キリシタン文庫所長の川村信三氏と、同文庫職員で研究者(キリシタン史)の竹山瞬太氏に話を聞いた。

竹山瞬太氏

――今回、このタイミングで特別企画展が行われるようになった経緯を教えてください。

竹山 まずはキリシタン研究の黎明からおよそ1世紀という節目であるということがあります。キリシタン文庫は今年で創立86年を迎えたのですが、これまで国内外の研究者に資料閲覧の機会を提供してきました。例えば、ローマのイエズス会文書館(ARSI)所蔵の日本関連文書は、もちろん現地に行って閲覧できればいいですが、それができない場合、こちらで複写を見ることができるのは有用です。予約などの手続きは必要ですが、一次史料を確認できるというのは研究者にとって大きなメリットです。

 それから12月1日の公式ホームページ開設に併せた特別企画という面もあります。今までホームページがなかったので、資料の問い合わせなどの連絡がしにくいという声がありました。今後は、ホームページで所蔵資料の概要を見ることができるようになり、閲覧予約等の手続きの詳細も、ホームページ上で確認できるようになります。

 特別企画展を通して、まずはこちらのキリシタン文庫にこれほど多くの貴重な資料が所蔵されていることをぜひ知ってもらいたいと考えております。

川村信三氏

――近年、キリシタンに関心を持つ方が多くいらっしゃるので、調べものをしたい向きには朗報です。川村さんは、キリシタン史を長年研究しておられ、長崎・天草の世界文化遺産登録など、さまざまなキリシタン関連のお仕事をされてきたと思いますが、キリシタン文庫にはいつから関わられているのですか? もしかして学生時代からでしょうか?

川村 いえ、私は学生のころはイギリスで16世紀末イングランドのイエズス会の研究をしていたんです。イエズス会士のロバート・パーソンズとか調べていて、この会(イエズス会)は面白いなと。イングランドにも日本と同じ時期に殉教者がいるんですよね。だから殉教ということは、その頃から気になっていったかもしれません。その後、イエズス会に入って、ローマに行って、イエズス会本部が置かれているジェズ教会の隣にある建物が寄宿舎だったので、そこに滞在して研究を続けていたのですが、その建物は昔、天正遣欧使節が泊まっていた建物だったんです。ジェズ教会にもザビエルの右腕(聖遺物)や殉教図がありますし、日本のキリシタンという存在について、いろいろと触発されたところがありました。そのあとアメリカに行って、博士の学位はそちらで取りました。帰国して、上智大学には、1999年、神学部の教員として来たのですが、2年後にキリシタンの歴史を教えるために史学科に移りまして、2012年、上智大学キリシタン文庫所長に就任しました。

――川村さんがこちらの資料を使って成し遂げた研究上の業績にはどのようなものがあるのですか?

川村 そうですね、以前の研究はもっぱら宣教師文書とか公会議の資料を読んで進められていたので、宣教師中心の歴史観だったと思います。だけど私は元々、民衆史を研究してきたので、日本のキリシタンに関してもコンフラリアという信徒の共同体や、一般の民衆の動向に着目して研究を行いました。コンフラリアのモデルはヨーロッパにあるのですが、その当時は日本史の中で位置づけられていなかったんです。一般の日本人がどのようにキリスト教を受容したり拒絶したりしたのかということはとても興味深い事柄ですよね。キリスト教を受け入れて信じて、そこまではわかるとしても、殉教までするというのは。ローマ時代にも哲学者が、キリスト教徒が殉教するのを見て非常に驚いているんですよね。しかし日本のキリシタンはもっと困難な状況でした。こんなにも長く激しい迫害はローマ時代にもありませんでしたから。

 そうした信徒の心を探るのに、幸い、当キリシタン文庫には宣教師文書等だけでなく民衆の動きを物語る資料(潜伏キリシタン関連の資料、宗門改帳など)も数多く所蔵されています。詳しくは竹山さんから説明があると思いますが、研究材料として日本で一番質が高いと考えています。

――キリシタンはどうして殉教までしたのでしょうか?

川村 霊魂の不滅を信じていたからでしょうか。死んでから行く天国を信じていましたし、悪人は罰を受けると考えていました。円環ではなく直線的な来世観を持っていたということはあるかと思います。

――今回の見どころを教えてください。

竹山 キリシタン版の《サクラメント提要》は必見ですね。日本司教セルケイラが編纂した典礼書で、現在、世界で8冊しか確認されていないのですが、そのうちの1冊です。同じくキリシタン版の《ぎやどぺかどる》も展示しますが、どちらも実物を展示いたします。今回の特別企画展はほとんどすべて実物展示というのが大きな特色ですね。それからコインブラ版の「イエズス会書簡集」(1570年刊)も世界に8冊しかない非常に珍しいものです。「イエズス会書簡集」のエヴォラ版は見たことがある人がいるかもしれません(エヴォラ版も大変珍しいものです)が、コインブラ版はまずおられないと思います。「1632-33年日本殉教者報告」は初公開の資料です。初公開は他にも多々ありまして、本学で以前、シンポジウムにともなうキリシタン文庫所蔵史料の展示を行ったことがあるのですが、そのときも史料保存の観点から複製を展示しただけだったので、今回初めてお披露目することになります。

――チラシを見ると、「大友宗麟書状 1569年 初公開」とあります。こういうキリシタンになった大名の資料もあるのですか? 「初公開」というのは画期的なことではないでしょうか。

竹山 大友宗麟の他にも、今回、高山右近と黒田官兵衛の書状を展示する予定です。しかし実は、大友宗麟と黒田官兵衛の書状についてはその存在と内容は知られていまして、どこに所蔵されているのかを知る人がいないという状態だったのです。だから収蔵情報初解禁の未公開資料ということになりますね。先ほど、民衆の心を物語る資料についての話もありましたが、外海のキリシタンの家に伝来した磔刑像もぜひご覧いただきたい逸品です。キリシタン関連の資料は、来歴が不明で、本物かどうか判断に悩むこともあると思われますが、こちらは誰が持っていたかはっきりしていて、私も外海のフィールドワークでそれを確認しました。そういう意味では感慨深いものがありますね。

 会期が2日間ということで、残念ながら今回は行くのが難しいという方もいらっしゃるかと思いますが、ぜひホームページをチェックしてみてください。今後はより一層、情報発信に努めていきたいと思っております。

――本当にいろいろなものが上智大学キリシタン文庫にはあるのですね。これからの取り組みも期待しております。ありがとうございました。

上智大学キリシタン文庫

ホームページURL:https://kirishitanbunko.sophia.ac.jp 

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