映画『ボンヘッファー』公開記念トーク 作品めぐる賛否と制作の背景を深掘り 2025年12月10日

戦時下ドイツで抵抗運動に加わり処刑された牧師・神学者ディートリヒ・ボンヘッファーの歩みを描く映画『ボンヘッファー ヒトラーを暗殺しようとした牧師』の公開を記念して、キリスト新聞社主催のトークセッション「映画では描き切れなかったボンヘッファーの真実」が11月15日、オンライン(Zoom)で開催された。全国から70人以上の参加者が集まり、アーカイブ視聴を含め多様な層が参加した。
ゲストとして、それぞれドイツとゆかりのある岡田勇督(東北学院大学准教授)、岡野彩子(関西大学、京都産業大学非常勤講師)、福島慎太郎(日本キリスト兄弟団名古屋緑福音教会ユースパスター)の3氏が登壇。映画では劇的な場面に焦点が当てられがちだが、トークではその背後にある複雑な政治状況や歴史を丁寧にひも解き、これから鑑賞する際の注目点なども提示された。本作をめぐっては「映画としてのドラマ性を優先した部分があり、観客が誤解しないよう補足が必要」と指摘する声がある一方、「若い世代やキリスト教になじみの薄い人にとって、ボンヘッファーを知る入口になる作品」として肯定的に評価する声も挙がっている。
最低限の知識だけで鑑賞したという岡田氏は、映画の出来には満足できたと評価し、今日の状況下で公開されたことの意味について「制作側が込めたメッセージを考えさせられた」と感想を述べた。特に印象に残ったのは、ボンヘッファーが留学先のアメリカから帰国後、家族と団らんする中でナチスの台頭が話題にのぼり、父が「ヒトラーはドイツのあらゆる問題をユダヤ人と共産主義者のせいにして躍進した」と指摘する場面だという。スケープゴート(身代わり)を作り上げる手法は今も世界の至るところで起きているとし、排外主義的な言説が政治の場で語られる現状に重ね、「当時の現実が今日の世界と地続きであることを痛感した」と述べた。
昨年『善き力 ボンヘッファーを描き出す12章』(新教出版社)の翻訳を手掛けた岡野氏は、ボンヘッファーの生い立ちや当時の衣装が忠実に描かれていることを評価しつつ、史実と異なる部分についても触れ、アメリカでの黒人教会での体験以外にも、思想形成の上で重要な交流が描かれなかった点を惜しんだ。さらに、ボンヘッファーはエキュメニカル運動や平和運動にも広く関わる国際性豊かな人物であったことを強調し、本作で割愛された部分は自ら学びを深めてほしいと呼び掛けた。
本紙ウェブサイトで連載中の福島氏は、本作がボンヘッファーを英雄視しすぎているとの批判があることを認めつつも、なぜ牧師がそのような選択をせざるを得なかったのか、時代背景を理解することの重要性を強調。彼の抵抗は「正義のための手段」として肯定されるべきではなく、「例外中の例外」として倫理的ジレンマの中での決断だったと述べた。また、ボンヘッファーの作詞による賛美歌「善き力にわれかこまれ」の正確な理解を促し、彼が孤独な英雄ではなく、多くの人々に支えられていたという視点を共有することの重要性も指摘した。
トークセッションには、日本での上映に尽力した礒川道夫氏(クリスチャン映画を成功させる会事務局長)も参加し、配給を実現するに至った舞台裏を解説。公開前にチャーリー・カーク氏の銃撃事件が起こり、映画に込められたメッセージが誤解されないか不安もあったが、公開後の反響を見ると「自分ならどうするかと問いかける人が多かった」と振り返り、本作の意義を改めて強調した。
参加者からは、「今回の内容を踏まえたうえでもう一度見直したい」との感想や、同様の企画が継続的に開催されることを期待するコメントも寄せられた。

















