米軍ベネズエラ侵攻 マドゥロ大統領拘束 諸教派が相次ぎ声明 「国際法尊重」「対話と平和」 2026年1月6日

米軍がベネズエラ領内に侵攻し、ニコラス・マドゥロ大統領夫妻を拘束・連行した事態を受け、世界の主要なキリスト教諸団体・教会は1月3日以降、相次いで公式声明を発表した。各声明は、国際法違反への強い懸念とともに、武力ではなく対話と外交による解決を求め、苦難の中に置かれたベネズエラ国民、とりわけ最も弱い立場にある人々への連帯を強く訴えている。
世界教会協議会(WCC)のジェリー・ピレイ総幹事は1月3日、公式サイトで声明を発表し、米国による一連の行動を「国際法に対する甚だしく悪質な違反」と強く非難した。
声明は、今回の攻撃が政治目的達成のために武力行使を正当化する「危険な国際的前例」となる可能性を指摘。「これらの行為は、武力侵略や暴力行為を禁じるあらゆる制約を無視しようとする人々を勢いづかせる」と警告した上で、WCCは攻撃の即時停止、国際法の原則と国家主権の尊重を求めるとともに、国連および米州機構(OAS)に対し、国際憲章と条約の遵守を確保するための迅速な介入を要請。「この危険で不確実な時代に、世界は紛争の常態化ではなく、平和のために賢明で勇気ある指導者を必要としている」と訴えた。
改革派教会を中心とする世界改革派教会共同体(WCRC)も同日、米国による行為を「違法な侵略」と断じ、強い言葉で非難。
WCRCは、アクラ信仰告白に立脚し、ベネズエラ危機を単なる国内政治の混乱としてではなく、資源支配と地政学的利害が絡む「世界的な権力闘争」の一環として理解すべきだと指摘。特に、豊富な石油資源と戦略的重要性を有する同国が、主権国家の再編を目的とした強制や軍事的威嚇の対象となっていることに深い懸念を示した。
声明は、国連憲章第2条第4項――国家の領土保全や政治的独立に対する武力の行使や威嚇を禁じる規定――を想起し、その遵守こそが「正義を伴う平和」に不可欠だと強調。カレン・ジョージア・トンプソン会長は、ベネズエラが「死の国」と描かれる言説に抗し、偽情報や非人間化する言葉に対抗することが信仰共同体の使命であると述べた。
現地教会からは、爆撃音やヘリコプターの飛行音が響く中での生活や、恐怖と回復力が同時に存在する現実が伝えられており、WCRCは「牧会的包容力」と国境を越えた連帯の重要性を強調している。
ルーテル世界連盟(LWF)も、米国の軍事行動後の情勢悪化に「深い懸念」を表明。ベネズエラの主権と国家の一体性、国際法の尊重を明確に求めた。
声明では、数カ月にわたり悪化してきた情勢の影響を受ける地域社会、特にベネズエラ福音ルーテル教会との連帯を確認し、世界のルーテル教会に対し、祈りと平和構築の努力に加わるよう呼びかけている。祈祷文では、恐怖や喪失、不安の中にある人々への慰めと、指導者に与えられるべき知恵が祈り求められた。
教皇レオ14世「法の支配と人権尊重を」
教皇レオ14世は1月4日、日曜恒例の「お告げの祈り(アンジェルス)」の結びに声明を発表し、ベネズエラの主権尊重と憲法に基づく法の支配、人権の保障を強く訴えた。
教皇は「愛するベネズエラ国民の益が、あらゆる他の考慮に優先されなければならない」と述べ、同国の主権を保障し、憲法に定められた法の支配を守ること、すべての人の人権と市民的権利を尊重することの重要性を強調した。特に、深刻な経済状況の中で苦しむ最も貧しい人々への配慮を求め、「平和と協力、安定と調和に満ちた未来を共に築く」よう国際社会に呼び掛けた。
バチカン(ローマ教皇庁)は同時に、ベネズエラのカトリック司教団の声明も公表。司教団は「すべての国民に平静と知恵、力を与えてください」と神に祈りをささげ、犠牲者とその家族に連帯を示しつつ、国民に冷静さと一致を呼び掛け、「平静、知恵、力」を神に祈るよう要請。負傷者や犠牲者の家族への連帯を表明し、あらゆる暴力を拒否する姿勢を明示した。
教皇は昨年12月2日、トルコとレバノン訪問からの帰途、記者団に対し、米国による軍事介入の可能性に言及。「対話の道を探るべきだ。たとえ経済的圧力であっても、別の形で変化をもたらす方法を模索すべきだ」と述べ、武力行使への懸念を示していた。
一方、米紙「レリジョン・ニュース・サービス(RNS)」の報道によると、米国内の宗教指導者の反応は限定的だったという。福音派の指導者フランクリン・グラハム氏は、マドゥロ大統領拘束を歓迎し、トランプ大統領を称賛する声明をSNSに投稿したが、他の著名な牧師らの発言は少なかった。
カトリック平和団体「パクス・クリスティUSA」は、教皇の発言を引用しつつ、米政権の行動を批判。米国司教団に対し、宗教的権威をもってベネズエラへの行為を非難し、国家の優先課題を再考するための対話に加わるよう求めた。
ベネズエラのカトリック教会は、2013年にマドゥロ政権が発足して以降、困難な関係を続けてきた。経済悪化と制裁の中で、司教や司祭らは政治犯の釈放を求め、政権を批判してきた。昨年12月には、元カラカス大司教のバルタサル・ポラス枢機卿が出国を阻止され、旅券を没収される出来事も起きている。
近年、マドゥロ政権は国内の福音派キリスト者への接近を強めている。政権は支援策や宗教行事を通じて福音派との関係改善を図ってきた。これについて専門家は、支持獲得のみならず、カトリック教会の影響力を弱める狙いがあると指摘している。
ベネズエラ福音派評議会も声明を発表し、「正義と真理、人間の尊厳を尊ぶ真の変革」のために祈るよう呼び掛け、不安や恐れに支配されず、祈りと共同体の交わりに心身を向けるよう信徒らに勧めた。
ラテンアメリカ・カリブ海司教協議会(CELAM)は1月4日、ベネズエラの司教団および教会全体への親近感と連帯を表明した。主の公現の祝日の典礼に触れつつ、「すべてが不確実に見える時でさえ、神は夜を照らし、新しい道を開かれる」と述べ、希望の視座を示した。
また、教皇レオ14世がアンジェルスの祈りで語った「人々の幸福は常に他のいかなる考慮にも優先されなければならない」との呼び掛けを歓迎。暴力を克服し、人間の尊厳を尊重し、最も貧しい人々を顧みながら、対話と真実に基づく正義と平和の道を歩むよう促した。
CELAMは、「教会は困難のただ中にあっても、開かれた家、出会いの場、そして希望を鼓舞する静かな声であり続けるよう求められている」と指摘している。
ラテンアメリカ・カリタスも、人権尊重と最も弱い人々への配慮を強調し、現地で活動するカリタス支援への決意を表明。国際社会に対し、無関心に陥らず、理解と連帯を深める役割を果たすよう訴えた。
さらに、ボリビア司教協議会(CEB)は書簡を通じ、ベネズエラ国民への祈りと兄弟的連帯を表明。「希望は失望させない」との聖書の言葉を掲げ、対話、正義、平和、人間の尊厳の尊重への道を信仰をもって歩む決意を示した。
一連の声明に共通するのは、武力行使の拒否、国際法と国家主権の尊重、最も弱い人々への優先的配慮、そして祈りと対話による平和構築である。CELAMは、これらの声が南米大陸全体の教会に広がる訴えであると位置づけている。
ベネズエラ・ボリバル共和国大使館によると、ベネズエラでは全人口の96%がカトリック信徒。国際政治の緊張が高まる中、教皇と諸教会の発する「法の支配」「人権」「対話」を求める声が、今後どのように受け止められるのかが注目される。
(エキュメニカル・ニュース・ジャパン)
UnsplashのJim Romeroが撮影した写真
















