【この世界の片隅から】 東アジアの宗教界・学術界に浸透するチャイナ・ファクター!? 松谷曄介 2026年1月11日

 昨年10月、中国の政府非公認「家庭教会」を代表する存在であるシオン教会が大規模な取り締まりを受け、主任牧師の金明日氏をはじめ、複数の伝道者が拘留された。その拘留は現在も続いており、世界的な注目を浴びている(本紙2025年10月21日既報)。一方、同年11月には、世界教会協議会(WCC)の執行委員会が、政府公認教会である「中国基督教協会」(同協会と中国基督教三自愛国運動委員会を合わせた通称「三自愛国教会」)をホスト役として、中国浙江省の杭州市において開催された。WCCは公式ウェブサイトやFacebookを通じて、その様子を詳細に報告し、結果として、中国においてキリスト教の自由と活発な宗教活動が保障されているかのようなイメージを対外的に発信することとなった。こうした相反する事態が同一国内で同時に起きていることから、中国のキリスト教をめぐる認識は大きく分かれ、困惑を覚える者も少なくないであろう。

2018年以来最大規模の取り締まり 北京シオン教会が緊急祈祷を要請 2025年10月13日

 こうした状況の中、同年12月のWCC「エキュメニカル祈祷サイクル」において、前年に続き、「香港・マカオ・台湾・中国大陸」を一括りにした祈祷課題が提示されたことが波紋を呼んだ。この表現は、四地域が一体として「大中国」という枠組みに属しているかのような印象を与えかねない。WCCメンバーである台湾基督長老教会は、2024年および2025年に相次いで抗議を行ったが、WCC側は「あくまで地理的な区分である」との説明に終始したという。しかし、2023年までの同祈祷サイクルでは、台湾は日本や朝鮮半島と同じ枠組みで扱われていたことを踏まえるならば、この変更の背後に、中国基督教協会を通じて中国政府の政治的意図が浸透している可能性を否定できない。

 台湾基督長老教会の牧師である盧啓明氏は、自身のFacebookにおいて、次のように憤りを表明している。「WCCはWCCC(World China Christian Council)に変わってしまった。……我々が懸念している『一国四地域』の問題については、根本的な議論がまったくなされていない。なぜ、外部勢力(中国)の覇権主義によって敵視されている台湾のために祈らないのか。なぜ、香港の災禍と、声を奪われた住民のために祈らないのか。なぜ、中国で拘束されているシオン教会の信徒のために祈らないのか。これはクリスマス週の祈祷文だが、読めば怒りと悲嘆しか湧いてこない」

 中国による台湾への圧力と、香港に対する統制強化は、相互に連動している。2025年12月上旬、台湾の中央研究院が開催した「香港研究」国際シンポジウムをめぐり、香港のメディア『東周刊(East Week)』が激しい批判キャンペーンを展開した。同誌は中央研究院を「反共・仇中の政治組織」と断じ、同シンポジウムを「反中学者のカーニバル」と非難し、国家安全維持法を根拠として、香港の学者に対して出席辞退の圧力を加えた。その結果、参加を予定していた大多数の香港人研究者(複数の神学者を含む)が出席を断念せざるを得なくなった。この出来事は、香港における「学問の自由」が、さらに大きく後退した事例といえる。

 それでもなお、自由な社会としての台湾は、香港人にとって「逃れの場」としての機能を失ったわけではない。確かに、台湾政府による審査の厳格化により移住者数は減少しているが、旅行やビジネス目的での往来は依然として可能である。この状況を活かし、香港での活動が困難となった映画監督の周冠威(キウィ・チョウ)氏は、台湾において新作映画『自殺通告』を撮影・上映した。周氏は、2019年の民主化運動を追った映画『時代革命』によって国際的に知られているが、新作を含め、香港での上映は許可されていない。それでも周氏は香港に拠点を置きつつ、台湾での上映会には自ら足を運び、活動を継続している。敬虔なキリスト者でもある周氏は、「この苦難に直面していることも、神が祝福へと変えてくださると信じている」と語り、「香港に正義が臨むことを願っている。神が香港を見捨てないと信じている。そして、私自身も決して諦めない」と希望を語っている。

 「チャイナ・ファクター」は、いまや東アジアの政治や経済にとどまらず、映画・学術、そしてキリスト教を含む宗教にまで深く浸透しているように思われる。私たちは、排外主義的な反中感情に陥ることを戒めつつも、芸術・学問・信仰の領域にまで及びつつある政治的圧力に対しては、最大限の注意を払わなければならない、きわめて難しい時代を生きている。2026年という新たな年を迎え、こうした複雑な状況が今後どのように推移していくのかは、依然として不透明である。希望が見えにくく、事態が複雑化する東アジア情勢を思うとき、「神は見捨てない。私も諦めない」という周氏の祈りの言葉が、心の内に繰り返し響いてくる。

 まつたに・ようすけ 1980年、福島県生まれ。金城学院大学准教授・宗教主事、日本基督教団牧師、博士(学術)。国際基督教大学(ICU)、北京外国語大学、東京神学大学、北九州市立大学を経て、香港中文大・崇基学院神学院で在外研究。専門は中国近現代史、中国キリスト教研究。「キリスト新聞」編集顧問。

写真=Paul Jeffrey/Life on Earth

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