AIは陰謀か悟りか 宗教・文化・教育から問い直す 早稲田大で公開シンポジウム 2026年1月21日

 AI(人工知能)が政治、宗教、文化、教育のあり方を根底から揺さぶる中、その影響を思想史的・宗教的文脈から検証する公開シンポジウム「AI社会を問う――宗教・思想・文化の視点から」が、早稲田大学(東京都新宿区)で開催された(「仏教教理に基づく人工知能(AI)の倫理的問題に関する基礎的研究」=師茂樹代表=主催、同大総合人文科学研究センター後援)。科学研究費助成事業による研究プロジェクトの一環として企画された本会には、宗教学、哲学、文化研究、教育学の研究者が集い、AIをめぐる現代社会の危機と可能性について多角的な議論が交わされた。

 キリスト教の視点から問題提起を行ったのは、同志社大学学長の小原克博氏=写真。「AIにより加速する陰謀論」と題し、陰謀論が決して現代特有の現象ではなく、キリスト教の終末論や善悪二元論的な世界観と深く結びつきながら歴史的に形成されてきたことを指摘し、混沌とした社会状況に意味と秩序を与えるものとして機能してきたと分析する。

 また、AIと民主主義の問題を大きな関心事として挙げ、AIがコミュニケーションツールとして個人をパワフルにする一方、社会全体のコミュニケーション不全を引き起こしているという矛盾を指摘。陰謀論の定義として、社会的出来事や歴史的変化を少数の強大な集団が裏で操っているという考え方を提示し、これが単なる誤情報ではなく世界観の構築に寄与するものであることを説明した。

 聖書において「陰謀」という言葉が頻出すること、特に反ユダヤ主義との関連でナチスドイツでの悲劇的な結末について言及した上で、現代アメリカの福音派がトランプ政権の岩盤支持層として陰謀論的世界観を政治的動員に利用していることを批判的に検討。

 AIは個人を強力な発信主体にする一方、社会全体のコミュニケーション不全を加速させているという矛盾を抱えており、陰謀論の克服は簡単ではないが、AIが拡散に加担しないためにも、技術の透明性、説明責任、公平性の確保や学際的連携が必要だと訴えた。

 木村武史氏(筑波大学教授)は「AIとテクノファシズムの危機」をテーマに、クリスチャン・ナショナリズム、白人至上主義、テクノロジー崇拝が交錯する現代アメリカの政治文化を分析した。ファシズム研究の成果や戦時日本の「革新官僚」論を参照しながら、シリコンバレーに潜在する反リベラル思想や、移民取り締まりに用いられる顔認証・監視AIの実態を紹介。テック企業と国家権力の結託が、市民的自由と民主主義を侵食する危険性を浮き彫りにした。

 冲永宜司氏(帝京科学大学学長)は、「AIに『無知の知』の自覚は可能か?」と題し、人間とAIの知性の本質的差異そのものを問い直した。知性や創造性は個体に内在するものではなく、パターンの複合とネットワーク的創発から生まれる可能性があるとし、仏教的視座から「人間にもAIにも固定的な主体は存在しないかもしれない」と論じた。

 永原順子氏(大阪大学教授)は、能楽における「間」や世阿弥のいう「せぬひま」に注目し、AIの高速処理とは対照的な「何もしない時間」の価値を提示。複式夢幻能の構造やデジタル空間との親和性について触れ、能楽師・安田登氏の「能はVR」という考え方を紹介した上で、沈黙や停止といったAIの挙動を人間がどのように受け止めるかは、関係性そのものを問い直す契機になり得るとし、伝統芸能の知がAI社会に示唆を与える可能性を示した。

 「文化コモンズとAI主体化――語りと意味づけの変容」と題して提起した濱田陽氏(帝京大学教授)は、生成AIを「人影の他者」と捉え、文化コモンズにおける語りと意味づけの変容を分析した。ドイツのAI牧師、スイスのAIイエスプロジェクトなどの事例を通じて、文化資源の共有拡大という恩恵と、責任の所在が不透明になる危険性が同時に進行していると指摘。人間とAIの役割分担を慎重に設計する必要性を訴えた。

 石田友梨氏(岡山大学准教授)は、「死者AI技術の変遷」をテーマに、イスラム圏における人型ロボットの受容や、AIによる死者との対話事例を紹介。聖人に限られていた死者との媒介が、一般人にも開かれつつある現象を「民主化」と捉え、宗教的禁忌と技術進歩の境界線を問いかけた。

 全員の発言を受けて堀江宗正氏(東京大学教授)がコメントし、AIを利便性や効率性の問題に還元せず、人間観・宗教観・民主主義の根幹に関わる課題として捉える必要性が共有され、大学教育においても、単なるツール習得にとどまらず、批判的思考や矛盾への耐性を養う教育が求められていることが、改めて浮き彫りとなった。総合討論では、AIが既存の社会構造や価値観に与える変革的影響について検討が行われた。

 コメントに応答した小原氏は、AIが専制政治との相性が良いという観点を提示し、特に監視システムとバイオメトリクスの組み合わせによる徹底した監視社会の例としてベネズエラの状況を挙げた。また、キリスト教内部から生まれた陰謀論について言及し、制度化された教会が異質なものを排除する傾向について論じた。

 木村氏は、テクノファシズムとテクノクラシーの関係について、アメリカの保守派の「小さな政府」思想が実際には権力集中を伴うという矛盾を指摘。また、ファシズムが民主主義から発生するという歴史的観点の重要性を強調した。

 冲永氏は、AIの計算能力とスピリチュアリティの関係について論じ、人間とAIの間に本質的な差異はないという立場を表明した。また、大学教育におけるAIの影響について、知の権威を打ち壊す可能性があるという肯定的な側面を指摘した。

 主催した師茂樹氏(早稲田大学教授)は、本シンポジウムの成果を「問題意識を多くの参加者と共有できたことは有意義であった。この成果を今後の議論の活性化につなげていきたい」と振り返った。

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