〝キリスト教シオニズム〟に警鐘 「カイロス・パレスチナ文書」へ応答する共同宣言 2026年2月11日

危機感募らせる研究者ら 信仰による暴力の正当化に異議

 イスラエルによるガザへの軍事侵攻を宗教的に正当化する「キリスト教シオニズム」に対し、宗教研究者の大宮有博氏(関西学院大学教授)ら研究者・宗教者・市民有志が、「キリスト教シオニズムを問う共同宣言」を作成している。パレスチナのキリスト者による呼びかけに応答し、日本のキリスト教界に広がる無自覚な同調や沈黙に警鐘を鳴らすもので、ゆるやかなネットワーク「Kairos Palestine Japan」の立ち上げも計画中だという。

 こうした動きの背景には、パレスチナの超教派のキリスト者らが2009年に発表した「カイロス・パレスチナ文書」に続き、2025年11月、「真実の時――ジェノサイドの時代における信仰」と題する第二のカイロス文書を公表したことがある。同文書は、世界の教会に対し、キリスト教シオニズムの教義を明確に拒否し、占領と暴力のただ中に置かれた人々と「痛みを分かち合う連帯」の行動を起こすよう呼び掛けている。

 一方、日本国内では2025年9月、日本維新の会の金子道仁氏(参議院議員)を代表とする「日本イスラエル・クリスチャン交流会」がイスラエル友好議員連盟日本支部として立ち上げられた。イスラエルは、このような宗教を利用したロビー活動を世界中で組織的に展開している。

 キリスト教シオニズムとは、1948年に建国されたイスラエル国家を支持することがキリスト者の義務だと考える立場。この立場を取る人々は、聖書を根拠に「パレスチナの地はイスラエルに属する」と主張し、ヨーロッパでのユダヤ人迫害(ホロコーストなど)への償いとして、キリスト者はイスラエルを支持すべきだと訴えている。

 共同宣言は、こうした動きと並行し、日本を含む各国の「キリスト教」を掲げる組織や指導者が、ガザで続くジェノサイドを否定、もしくは過小評価し、結果としてイスラエルを政治的に支えてきた現実を前に、これ以上看過できないとの懸念を表明するもの。

 大宮氏は昨年6月、キリスト教事業所連帯合同労働組合主催で行われたオンライン学習会でも「キリスト教シオニズムの根を断ち切れ!」と題して講演。イスラエル国家を無条件に支持する神学的・思想的枠組みが、どのような歴史的経緯で形成され、今日に至っているのかを分析した。

 大宮氏は、2001年の米同時多発テロ以降、アラブ世界を一括して敵視する「文明の衝突」的な世界観がアメリカ社会に定着してきたこと、ホロコーストへの罪責意識がイスラエル支援を道徳的に正当化する論理として利用されてきたこと、さらに旧約聖書の「土地の約束」を文字通りに解釈し、イスラエル建国や領土拡大を終末論と結びつける信仰理解が、軍事行動の宗教的根拠となっていることを指摘した。その上で、「現在のイスラエル国家は、旧約聖書のいう『イスラエル』ではない」と明言した。

 こうしたキリスト教シオニズムは、アメリカにおいて福音派を中心に広がり、政治的・経済的影響力をもつ層とも結びついてきたが、日本においても無縁ではない。声明では、イスラエルを支持する表明や、親イスラエル団体が制作した教材・表現物が、批判的検証を欠いたまま教会や教育現場に入り込んでいる現状に言及し、とりわけ自らを「リベラル」と認識する人びとの間にも、無意識のうちにキリスト教シオニズムが浸透しうる危険性を指摘している。

 このような広がりに対して日本基督教団は2024年11月、同教団が協約を結ぶアメリカ合衆国長老教会(PCUSA)の第226回総会(2024年7月開催)で承認された議案「キリスト教シオニズムへの加担の告白について」をホームページに掲載している。米国聖公会も、2024年5月にキリスト教シオニズムと決別するとの姿勢を明らかにした。

 今回、準備中の「キリスト教シオニズムを問う共同宣言」では、1948年に建国されたイスラエル国家と、聖書に登場する「イスラエル」とを同一視しないこと、聖書の「土地の約束」がパレスチナ人の追放(ナクバ)や現在のジェノサイドを正当化するために用いられてはならないことを明確に打ち出している。また、「反シオニズム=反ユダヤ主義」とする単純化にも与せず、あらゆる差別に反対しつつ、イスラエル国家の政策批判やシオニズム批判を封じる動きにも反対する立場を示している。

 さらに、日本のキリスト者の中に、経済的・政治的・軍事的に日本とイスラエルを結びつけようとする動きが存在することに警戒を表明し、宗教右派による動員の構造を批判的に捉える必要性を訴えている。

 これらの問題意識を共有する「Kairos Palestine Japan キックオフ・ミーティング」が1月24日、関西学院大学大阪梅田キャンパス(大阪市北区)で開催された。集会では、ネットワーク発足の趣旨説明のほか、共同宣言案の解説、パレスチナでのカイロス会議参加報告、キリスト教シオニズムの起源と現状についての報告と討論が行われた。同集会には大宮氏のほか、有住航(日本基督教団下落合教会牧師)、岩城聰(日本聖公会大阪教区司祭)、金子由佳(立教大学兼任講師)、金城美幸(名古屋学院大学講師)、原田雅樹(関西学院大学教授)、役重善洋(同志社大学嘱託研究員)の各氏が呼びかけ人として名を連ねた。

 声明の呼びかけ人らは、抽象的な神学論争にとどまらず、パレスチナのキリスト者やムスリムと共に、占領とジェノサイドを終わらせるための具体的な連帯行動を日本から積み重ねていくことの重要性を強調している。

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