【訃報】 村岡崇光さん(言語学者、聖書学者) 2026年2月10日

むらおか・たかみつ
国際的な聖書古典語研究者として知られる村岡崇光さんが2月10日、オランダ・ライデンで逝去した。88歳。関係者によれば、誕生日を祝った翌日の睡眠中に静かに息を引き取ったという。2025年12月初旬には妻・恵子さんが逝去し、同年クリスマスの朝には視床部の脳卒中を発症して以降、十分に回復しない状態が続いていた。
1938年広島県生まれ。東京で関根正雄に学んだ後、エルサレム・ヘブライ大学大学院で博士号を取得(1970年)。聖書ヘブライ語の強調表現研究で学界に名を知られた。専門は聖書ヘブライ語、アラム語、七十人訳ギリシア語などの文法・統語論・辞書学で、聖書原典研究の第一人者として国際的評価を受けた。
マンチェスター大学でセム語学を教えた後(1970~80年)、メルボルン大学中東研究教授(80~91年)を経て、オランダ・ライデン大学ヘブライ語・イスラエル古代史・ウガリト語講座教授(91~2003年)を歴任。学術誌『Abr-Nahrain』(現Ancient Near Eastern Studies)の編集に携わり、聖書ヘブライ語意味論やクムラン・ヘブライ語、同アラム語研究の編著も手がけた。
2017年には英国学士院のバーキット賞を受賞。オーストラリア人文学アカデミー通信会員(1984年)、ヘブライ語アカデミー名誉会員(2006年)など、多くの学術的栄誉に浴した。主著に『Classical Syriac for Hebraists』『A Grammar of Biblical Hebrew』『A Greek-English Lexicon of the Septuagint』『A Syntax of Septuagint Greek』などがあり、世界中の研究者に参照され続けている。
2003年の退職後は、日本の軍事行動によって傷を負ったアジア諸地域への「精神的負債」を自覚し、毎年無償で聖書言語や七十人訳の講義を行うなど和解と対話に尽力した。太平洋戦争の記憶をめぐるオランダ・日本・インドネシアの対話活動にも関わり、オランダ在住日本語聖書教会の代表としても奉仕した。第二次大戦中に日本軍の捕虜となったオランダ人教師E・W・リンデイエルの日記を翻訳・編集し、『Kisses to Nel and the children: from a POW camp in Japan』(2000年)として刊行。同書に記された非難なき記述に深い衝撃を受け、戦争責任と和解への思いを強めたという。
近年も教育活動を続け、中国基督教研究所の招きで2024年7月と25年8月に古典シリア語のオンライン集中講義を担当。世界各地から延べ90人以上が受講し、中国語圏のシリア語キリスト教文献研究の発展に寄与。厳密な学問姿勢と無私の奉仕は、世界の聖書言語研究者のみならずアジアの神学教育にも大きな足跡を残した。
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