【この世界の片隅から】 香港教会の性暴力調査 教会文化が被害の温床に 胡 清心 2026年8月11日 

 2012年、キリスト者のKさんは香港のキリスト教メディア『時代論壇』に「教会は性暴力被害者のために正義を実現できるのか」と題する寄稿を行い、キリスト教団体の海外活動に参加した際、キリスト者である上司から性的暴行を受けた経験を告白した。また、教会が事件を隠蔽し、被害者を非難するような対応を取ったことで、二次被害を受けたことも訴えた。この告発は香港キリスト教界に大きな衝撃を与え、教会内の性暴力問題が広く注目される契機となった。

 これを受け、香港基督教協進会(Hong Kong Christian Council)は2013年に「セクシュアル・ハラスメント防止方針」を策定し、2015年と2018年には関連する調査報告書を公表してきた。

 それから8年を経た今年、同協進会は最新報告書『共同体全体の力で――香港教会におけるセクシュアル・ハラスメント防止方針の実施と牧会的対応に関する調査報告2026』を発表した。本報告は、香港の教会におけるハラスメント防止方針の実施状況、教会が苦情対応で直面する課題、さらに被害者が一連の過程で経験したことを検証し、法律や制度面だけでなく、教会共同体が性暴力を予防し適切に対応するための実践的な提言を示している。

 今回の調査で把握された被害者は少なくとも69人に上り、被害発生時期はここ1~2年から20年以上前まで幅広い。被害者の約7割は女性で、約3割は男性だった。また、少なくとも3人は事件当時13~15歳の未成年者であった。

 調査では、回答した教会の47%がセクシュアル・ハラスメント防止方針を整備している一方、35%はいまだ策定しておらず、制度を導入した教会の多くも、不祥事や社会的圧力を契機としていたことが明らかになった。また、66%の教会は関連する研修を一度も実施していなかった。さらに、教会へ正式に被害を訴えた被害者の100%が、教会の対応に満足していないと回答した。

同報告書の報告会(2026年7月6日)

 報告書によれば、被害の形態は性的な発言や不適切な身体接触から性的暴行まで多岐にわたる。特に「グルーミング(grooming)」と呼ばれる性的加害の手法にも注意を促している。グルーミングでは、加害者が子どもや精神的に弱い立場の人に近づき、信頼関係を築きながら徐々に情緒的・身体的な距離を縮め、最終的に性的暴力へと至る。また、さまざまな方法で被害者を沈黙させるため、被害者自身も関係の異常性に気づきにくく、外部へ助けを求めることが困難になるという。

 報告書はまた、教会特有の文化や組織構造が、結果として性暴力を生み出しやすい土壌となっていると指摘する。加害者は未成年者や情緒的に脆弱な人を標的とし、教会内の密接な人間関係や「家族のような共同体文化」を利用して境界線を曖昧にし、被害者の信頼を獲得する。その結果、被害者は複数の心理的・社会的拘束の中に置かれることになる。

 さらに、教会が「調和」と「一致」を重視する文化を持つため、周囲の人々は対立を避けようとして沈黙を選びやすく、それが結果的に加害者を守る「安全地帯」となってしまうと分析している。

 アンケートでは、被害者の83%が「加害者が自ら過ちを認め、謝罪すること」を最も重視すると回答した。しかし実際には、教会による謝罪は形式的なものにとどまり、「加害者も多くの苦しみを抱えている」といった説明が強調されることが多く、あたかも謝罪の対象が被害者ではなく加害者であるかのような印象を与えているという。また、教会は謝罪をもって問題が解決したと考え、その後の被害者への牧会的支援を十分に行わないケースが少なくない。

 懲戒処分についても、多くの場合、加害者の「自主辞任」という形で処理され、教会側は辞任理由を曖昧に説明するため、会衆は何が起きたのか理解できず、潜在的な被害者が名乗り出る機会も失われてしまう。このような隠蔽的な対応が、性加害の常習化・再犯につながる要因の一つであると報告書は指摘している。

 報告書は最後に、教会におけるセクシュアル・ハラスメント防止の目的は、単に法的責任を果たすことではなく、すべての人が安全で尊重されていると感じられる信仰共同体と空間を築くことにあると強調する。

 そのためには、被害者の心理的傷に配慮した「トラウマ・インフォームド」の文化を育み、苦情処理においては手続きだけでなく、その過程や対応姿勢そのものを重視する必要があるとしている。また、「貞操」を強調するだけではなく、身体の自己決定権やジェンダー平等に関する教育を充実させること、さらに教職者・信徒双方が権力関係に注意を払い、その力学を見極める力を養うことの重要性を提言している。

(原文:中国語、翻訳=松谷曄介)

 フー・チンシン 上海生まれ、香港在住。香港中文大学、文化・宗教学研究科で博士号を取得。現在、2021年に香港で設立されたエキュメニカル志向の単立教会Hub Churchが運営するメディアHub Channelの編集担当。猫4匹を飼育。独学で日本語を勉強中。

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