杏雨書屋が希少価値の高い「景教文献」を特別展示 「多言語・多宗教の世界」2025年4月22日

 大阪市中央区にある杏雨書屋で貴重な景教経典のオリジナルが展示されている。唐代の景教経典は、明らかに後代の偽作とみられるものを除くと、世界中で6点しか確認されていないが、そのうち4点がこの館にあることは一般にはあまり知られていない(他の2点はパリ国立図書館蔵)。日本にある景教経典は『一神論』『序聴迷詩所経』『志玄安楽経』『大秦景教宣元本経』の4点。『一神論』は1933年に国宝保存法により国宝に指定されたが、現在の文化財保護法の下では無指定。「喩第二」「一天論第一」「世尊布施論第三」から構成され、「世尊布施論第三」にはマタイ伝の山上の垂訓などが記されている。

 4月7日から開催された第80回特別展示会「杏雨書屋の宗教文献Ⅱ―多言語・多宗教の世界」では、杏雨書屋が所蔵する4点のうち、『一神論』(資料番号:羽460)と『序聴迷詩所経』(資料番号:羽459)を解説文とともに展示。普段はあらかじめ閲覧申請し、許可されなければ見られない原資料を、今展示会では間近に見学できるとして注目を集めている。

 解説文の一部を紹介しよう。

「39 羽460 『一神論』 縦25.4×横640.0cm 巻子本 景教典籍 『景教』と呼ばれた唐代のキリスト教の一派の典籍である。従来、景教は、『ネストリウス派キリスト教』と呼称されてきたが、近年では蔑称である『ネストリウス派』については、学術的に用いられることは忌避され、東方教会、東シリア教会などと呼ぶのが適切とされる[高橋英海2014、岩本篤志2016]。

 羽田亨氏が、『序聴迷詩所経』(羽459)の、「序聴」は「序聰」、「迷詩所」は「迷詩訶」の誤りで、それぞれヤソ、メシアの音に宛てた語であることを明らかにし[杏雨書屋2020,p.009]、羽460 は羽459とともに、『複数回の転写を経た写本』(転写本)ではあるものの、『景教伝来後まもなくできた教義書の内容を伝えたものとして、きわめて貴重な意義を有する[同 p.016]』と評価されている」

 このような景教資料のコレクションを有する杏雨書屋とは一体どのような団体なのだろうか。杏雨書屋を運営する公益社団法人 武田科学振興財団は、武田薬品工業株式会社からの寄附を基金として1963年に設立。「杏雨書屋」は、同社の五代武田長兵衞氏が、関東大震災により貴重な典籍が灰燼に帰したことに心を痛め、日本・中国の本草医書の散逸を防ぐため私財をもって購入したことに始まるという。「杏雨」とは、杏林(医学)を潤す雨の意。

 それにしても、これほど貴重な景教資料であれば、全国的に有名になっていてもおかしくないのに、一般にはほとんど知られていないのはなぜだろうか。管理体制などと併せて尋ねたところ、武田科学振興財団杏雨書屋事務局から詳しい回答を得た。

――景教資料の所蔵や展示は、広報することを控えているのでしょうか?

 広報を控えているつもりはありませんが、あえて(むやみに)大々的な宣伝もしていません。ただ、『敦煌秘笈』(*)につきましては近年入庫した羽776~778以外については影印本9冊+目録冊1冊を発刊し、日本および海外の大学図書館および研究期間等に寄贈して研究にご使用いただいております。影印本発刊は所蔵品の公開・研究促進という公益財団法人として果たすべき責務の一つとも考えており、ある意味『広報』ということもできるかと思います。当該景教資料4点に関しても『杏雨書屋所蔵景教経典四種』として上記書籍とは別途に原寸影印本として発刊しており、貴重な景教資料としてある意味特別扱いして公開したともいえると思います。本資料を使った景教研究がさらに進展することを期待しています。

――今回の展示会はもうすぐ会期が終了するということですが、今後も景教資料を複製または原資料という形で展示する予定がありますか?

 特別展示会は監修者の企画するテーマに沿って実施されますので、テーマに合致した展示品として展示される可能性はあります。展示会は4月28日までですが、それ以降もご予約いただければ(事務局が対応できる場合であれば)9月中旬くらいまでは見学可能です。当館のウェブサイトにも同様の案内が出ておりますので、ご参照ください。

――景教資料の保存や管理はどのように行われているのでしょうか。また、原資料を閲覧するにはどのような手続きが必要ですか?

 当該資料4点は他の『敦煌秘笈』と同じ環境で保管されています。国宝・重文と同じく、温湿度管理された金庫内で管理されています。敦煌秘笈はすべて特別本に指定されておりますので、原本資料閲覧については『特別本原本閲覧申込書』をご提出いただき、杏雨書屋運営協議会で可否審議され、『可』の場合に閲覧が可能となります。すでに影印本が発刊されておりますので、原本閲覧が必要な特別な理由が必要になります。当該景教資料は700点余りの敦煌秘笈の一部であり、それのみが特殊な経路で入ったものではありません。杏雨書屋所蔵となった経緯につきましては発刊書の解説をお読みいただければご理解いただけると思います。

――ありがとうございました。

 ウェブサイトには杏雨書屋へのアクセスのほか、同館のコンセプト、特別展示に関連した研究講演会などが案内されている。同館がある道修町は日本の医薬品産業発祥の地とされ、医薬品関連の展示施設が並んでいる。杏雨書屋を訪れる際には、町並みと同館をはじめとする建造物にも触れてみたい。
https://www.takeda-sci.or.jp/kyou/

*『敦煌秘笈』とは武田科学振興財団杏雨書屋が所有する敦煌文献の集成。羽田亨旧蔵の敦煌文献がその中核をなす。

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