【書評】 『信じる力』 齋藤 孝

「声に出して読みたい」古典シリーズで知られる教育学者の著者が、『声に出して読む7歳からの聖書』に続き、同じ女子パウロ会から、祈ること、信じることの持つ普遍性を説く新刊を上梓した。
「心と体のよりどころを持つ」「自己肯定感を養い高めていく」「文化を土台に自己を形成する」「世を照らす松明を次世代に託す」と題する4章で構成。
本書でも「『聖書』や『論語』のことばには、偉大な人々の思いだけでなく、それを2000年以上受け継いできた多くの人たちの思いが乗せられています」として、「声に出して」暗唱する教育的意義が強調されている。身体性を重視する主張はカトリックとも親和性が高い。
他方、『~7歳からの聖書』と同様、書き手の信仰的実存には触れず、絶妙に特定の「宗教色」を排した書き方に徹しているのが特徴。文学や教養の視点で聖書を読めば、実用的な格言が多いのは確かだが、福音の本質が「名言」や「道徳訓」として流布されることにはいささかの躊躇を覚える。教会やキリスト教主義の学校で語られる説教が、分かりやすい「いい話」や教材として「使える言葉」に収斂されてしまいがちな傾向にも通じる。
「何を信じるかは人それぞれ異なりますし、信仰も違います。ですが、信じる心のあり方には、共通するものがあります」とし、「何を信じればいいかわからないときは、大地に触れるのがいい」と勧め、日本古来の山岳信仰にも触れる。「ロザリオの祈り」と「東洋の瞑想法」などが並列に語られることに違和感を抱くのは、「狭量な」プロテスタントの性(さが)だろうか。「時代をつなぐのは、次世代を信じる力」とあるように、そもそも信じる対象を問わないことこそが著者の立場といえるかもしれない。
シスターとの交流を機に、祈ること、信じることについて話す機会があり、今回の出版に至ったという本書。古典を含むさまざまな作品、身近な事例が豊富に引用されており、「信じる」とは何かを多角的に考える材料として活用したい。
【1,430円(本体1,300円+税)】
【女子パウロ会】978-4789608442