能登半島地震から1年半 石川県穴水町にクリスチャンセンター開所 傷ついた地で 寄り添う拠点に 2025年8月1日

 2024年元日に発生した能登半島地震から1年半。石川県鳳珠郡穴水町に、能登ヘルプ(岡田仰代表)による新たな支援拠点「穴水クリスチャンセンター」が開所した。これまで能登半島を中心に活動を展開してきたが、被災地の広さと地形の複雑さ、交通インフラの制約もあり、奥能登(輪島市、珠洲市、能登町、穴水町)へのアプローチには限界があった。より地域に根差した支援を可能にするため「奥能登のハブ的な場所であり、教会のない穴水に拠点を」と願う中で与えられたのが、2棟の空き物件。内装などは未整備だが、キッチン、風呂の機能も備えており30人ほどの宿泊も可能。今後は「能登ヘルプ穴水ボランティアセンター(通称:穴水ボラセン)」として、地域の人々が集う温かい交流と癒やしの場として用いていくという。

 7月13日に行われた開所式には、地元住民や支援関係者のほか、県内外から約80人が参加。YouTubeでもライブ配信された式典では、賛美歌や聖書朗読、特別賛美、メッセージに次いで、現地で奔走してきた牧師らがそれぞれの思いを込めて祈りをささげた。

 能登ヘルプは地震直後の1月5日、石川県内外の教会が協力して立ち上げた支援ネットワーク。この間、約2億円の支援金が寄せられ、5700人を超えるボランティアが参加。その活動は、炊き出し、カフェ、物資支援、ゴミ回収、家財の運び出し、瓦礫の撤去に始まり、チャリティーコンサートの開催、入浴補助、トイレカーや仮設トイレの設置、軽度のリフォーム・修理、被災教会への見舞金・慰問、学童支援、重機による輪島塗などの美術品の救出、文化財保護活動など多岐にわたり、応じた要請も800件を超える。今後は、仮設住宅支援の継続、キッチンカーの活用、県内と県外からのボランティアをミックスさせた活動なども検討しているという。

開所式に集った「能登ヘルプ」関係者や地元住民ら

 能登半島地震による約600人の死者のうち、長引く避難生活などに起因する関連死が380人を超える。農地や漁業への被害も深刻で、建設費は坪単価80万から150万へ高騰し、人手不足で被災家屋の解体、修繕もままならない現状。高齢の被災者が「死ぬならここで死にたい」と自宅再建を望むも銀行からローンを借りられず、家族から反対されるという現実もある。

 さらに同じ年の9月に発生した豪雨災害が追い打ちをかけ、多方面に甚大な被害をもたらした。山から流れた土砂に覆われ変質してしまった土壌では、当面の間、収穫が見込めない。丸太などが大量に堆積して川が浅くなり、再び大雨が来ると簡単に氾濫してしまう危険性があるが、工事が追いついていない。

 「生まれて初めて米を買った」「米びつが空になるのは、戦時中でさえなかった事態」と不安にさいなまれる農家。仮設で暮らし始めてから性格が変わってしまったという家族の嘆き――。目に見えない深刻さが広がっていると危惧する荒川康司さん(聖書教会連盟輪島聖書教会牧師)は、自らも被災し、電気と水がない中で3カ月の間、会堂で寝泊まりした。当時、足しげく通い水を届けてくれたのは、荒川さんの英語教室に通う地元の土木・建築業者「宮地組」の橋本和義さん。荒川さんとは偶然ジムで出会い、海外のマラソンに出場することを目標に、週2回英語を習い始めた。以来、20年にわたる付き合いが続く。これまで、荒川さん夫婦から英語を習った教え子は延べ300人を超える。

 そうした日常的な関係づくりが、能登ヘルプでの緊急支援にも大きく貢献した。被災直後、復旧作業に尽力する中、洗濯も入浴もできなかった従業員向けには着替え用の下着も提供された。

牧師の荒川さん(左)から英語を習い続けてきた 建設業の橋本さん(右)。長年の関係が被災支援で存分に生かされた。

 真宗王国として知られる土地柄や、部外者を警戒し、周囲の目を気にする閉鎖的な地域性も、支援のハードルを上げていた。能登ヘルプでは、被災地に混乱をもたらさないようにとの配慮から、表立って見える形で「支援を餌にした」伝道活動はしていない。ただ愛の心をもって、痛みに寄り添うことを旨とする。お寺や神社、酒屋の復旧にも携わり、地元との信頼関係を築く中で、被災者から「キリストさん」として歓迎され、感謝の声を聞くことも増えた。お坊さんに冷たいコーラをおごってもらったことは、被災前では考えられない忘れ難い恵みとして能登ヘルプ代表の岡田仰さん(金沢独立キリスト教会牧師)の記憶に残る。

 十字架を横にした能登ヘルプのロゴには、そうして世の中に「地の塩」として浸透していくという理念も盛り込まれている。同時に、健康や能力、学歴、お金では克服できない弱さがあるからこそ福音が必要であり、大胆に救いを祈っていくことが重要だと岡田さんは確信する。「支援活動の中で見えてきたことは、『助けてと言えない』『世間様に振り舞わされる』『見えるものを失って立ち上がれない』など、現地の霊的必要性です」

 半壊した家屋の修復、床下の泥のかき出しなどのボランティアで、辻本眞悟さん(金沢グレイスチャペル牧師)が通い続ける久堂寛久さん宅の前には、荒れ果てた広大な農地が広がる。両脇にあった隣家は、いずれも再建を断念して取り壊されている。ボランティアが活動する中、寡黙な久堂さんが黙々と手入れしていた小さな畑に「希望を見る思いがする」と語る辻本さん。この日、初めて収穫されたじゃがいもを手に「こんなに嬉しいことはない」と涙を流した。

被災した農家の久堂さん(右)が新たに耕した畑で収穫を喜ぶ辻本さん(左)

*全文は8月1日付の紙面で。

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