教文館創業140年 託された伝統守り、変化恐れず 〝信仰を持たない〟故の葛藤も 新社長・森岡新氏インタビュー 2025年9月21日

 今年で創業140年を迎える銀座の老舗書店・出版社の教文館。このたび社長に就任した森岡新さんは、父・巌さんの勧めで1986年に入社。以来約40年間、書店の現場や総務で経験を積みながら、時代とともに様変わりしていく銀座の街並みを見続けてきた。教会と接点を持ちながらも、信仰を持たないまま教文館代表という大役を引き受けるに至った心境などについて話を聞いた。

――教文館に入社してから社長就任に至るまでの経緯を教えてください。

森岡 大学在学中に始めた三省堂書店でのアルバイトで書店の仕事にはまり、卒業後も続けていた私を見かねた父が、修行させるつもりで紹介したのが、当時の中村義治社長でした。教文館入社後は一般書籍売り場に配属され、目まぐるしくも楽しい日々を送っていました。

 私は子どものころ教会学校に通っていましたが、信仰を持つには至りませんでした。父も母も熱心なクリスチャンでしたが、私に信仰を強制することは一切ありませんでした。当時中村社長には、教会に行くよう勧められる一方で、日曜日に店を開ける役割も任されるという矛盾もありました。

 2004年に中村義治が亡くなり、2005年に渡部満が代表取締役社長就任となり、一般書籍売り場で店長を任せていただいた時期もありましたが14年、50歳を過ぎたころに総務部へ配属され、17年には取締役に就任します。信仰を持たない者が取締役に就任することには、正直抵抗がありました。その思いは、今年5月に前任の渡部満から社長職を引き継いだ今も変わりません。自分の中のポリシーや美学として、役員は信仰を持つべきだと思っていましたが、過去にはそうでない例もあったかもしれない。ですから今、それを自分の言い訳にしてきたことを反省しています。 

――最終的に社長を引き受けると決断した理由は何ですか?

森岡 「なぜ自分なのか」という意味を知りたいというのが一番大きな理由です。仙台キリスト教書店の黒田忠店長の急逝を受けて、2年前に役員として関わらせていただき、キリスト教出版販売協会や教会とのつながりを大切にしなければと思わされたことも、大きな動機です。

 巌を含め、中村と渡部という自社のみならず業界をけん引してきた先人に対しては、商売人として、学者として、経営者として尊敬の念があります。彼らに比べるとスケールの小さな社長になってしまいましたが、それにも何か意味があると言い聞かせています。

――就任にあたっての抱負は?

森岡 強く意識しているのは、「伝統を守ること」と「変化を恐れないこと」の両立です。140年の歴史を持つ教文館は、信仰と文化の交差点として育まれてきました。私はその歴史を損なうことなく、今の時代に必要とされる形へと、少しずつでも進めていきたいと考えています。主役は常にスタッフですから、ピンチの時、必要とされる時にいつでも応えられるよう心掛けていきます。

――長引く出版不況と教文館の存在意義をどう考えますか?

森岡 私は主に一般書籍の売場で、文学や人文書、雑誌や児童書などを通じてお客様と向き合ってきましたので、今すぐにキリスト教出版の専門的な数字や動向を語れる立場にはありません。ただ、その分、書店という現場で、広く出版・書店業界全体を見渡す経験には恵まれました。

 この40年間で、書店数の減少、若い世代の読書離れ、スマホの台頭に伴う生活スタイルの変化、ネット書店や電子書籍の普及と頓挫など、大きな環境の変化を肌で感じてきました。いわゆる街の書店のほとんどは家族経営で、資金繰りに苦労され、手元に残る最終利益は厳しい状況です。とにかく本が好きという方々による独立系書店出店が、今後の主流になっていくかもしれません。

 希望的観測かもしれませんが、リアル書店ならではの偶然の出会いは、むしろ価値を増していると感じます。教文館は、信仰書と一般書籍が同じ空間に並び、多様な読者が集まる場です。その混ざり合いこそが、この場所ならではの力だと思っています。

中村義治社長(当時、中央)と店頭販売に立つ森岡新氏(右、1988年4月9日撮影)

――父としての森岡巌さんはどんな方でしたか?

森岡 父は新教出版社の編集人・社長として、生涯を文書伝道に捧げた人でした。母もまた似たような厳格さを持っており、私の育った家庭は信仰と本が日常に溶け込んだ環境でした。最近、父の著した本『ただ進み進みて』を改めて読み、その思想の厳しさと一貫性に驚いています。

 そうした家庭に育ちながらも強制されることはなく、私がなぜお気楽な性格で、信仰生活に向かわなかったのか正直、自分でも少し不思議に思います。内心、信仰を持たなかったことへの後ろめたさがまったくないとは言えませんが同時に、「自分は自分」と割り切ってきたようにも思います。

 父の道「知の世界」と私の道はまったく違います。それでも、一般書籍の現場で40年、人と本をつなぐ仕事をしてきたことは、私に与えられたもう一つの文書伝道の形なのかもしれません。

――今後の展望をお聞かせください。

森岡 今年は140周年ですが、150年に向けた重要な10年だと思っています。来春二十数年ぶりに弊社建物1階に新しいテナントが入ります。1906年、同じ場所に根を下ろし、以降変わらず書店と出版社を営み続けられた意味を思い、教文館の存在意義を語れるようにしなければなりません。

 これからの教文館にとっての大きな課題は、デジタル時代においても「リアルな場としての価値」を発信し続けることだと思います。オンラインショップやデジタルコンテンツは不可欠ですが、銀座の店舗でしか得られない出会いや体験は、これからの時代にこそ強い意味を持ちます。
また、教会とのつながりを深めることはもちろん、地域や異業種とのコラボレーションにも可能性を感じています。異なる分野や文化と交わることで、教文館という場の多様性と包容力をさらに広げられるのではないかと思います。

 教文館は書店・出版社として、キリスト教が根底にある場でありながら、宗教の違いを超えて共有できる場所であり続けたい。信仰を持つ人も、そうでない人も、誰もが楽しんで迎え入れられる空間を守り育てることが、これからの私の役目だと考えています。

――ありがとうございました。

 もりおか・あらた 1961年生まれ。1986年教文館入社。一般書籍売場、総務部を経て、2025年より代表取締役社長。銀座の地で培われた文化を守りつつ、次世代に引き継ぐことに力を注ぐ。

特集一覧ページへ

特集の最新記事一覧

  • HungerZero logo

    HungerZero logo
  • 聖コレクション リアル神ゲーあります。「聖書で、遊ぼう。」聖書コレクション
  • 求人/募集/招聘